Season企画小説
ミハシンデレラと魔王のお城・1 (2015ハロウィン・童話パロ)
むかしむかしあるところに、ミハシンデレラという少年がいました。
心優しく可憐な少年でしたが、何事にも要領が悪く、ヘマばかり。継母や義理の兄に、いつもいじめられて暮らしていました。
ある時、お城でパーティが行われることになり、街中の少年が招待されました。
貴族やお金持ちばかりではなく、ミハシンデレラのような平民まで、街中の少年という少年が広く、お城に招待されたのです。
お城に住む王女様が、結婚相手を探しているという話でした。
パーティに参加すれば、王女様のお目に止まるかも知れません。或いは、雲の上の有力者の方々と、お近付きになれるかも。
豪華な料理や高級なワイン、きらびやかなダンスも勿論魅力的で、街中の少年たちはみんな、喜び浮かれて服を仕立て、ダンスの練習にいそしみました。
2人の義兄も、例外ではありません。
それぞれ藍色や水色の、形のよい紳士の服を仕立てて貰い、パーティの夜を心待ちにしているようでした。
けれど、ミハシンデレラは別でした。街中の少年たちが招待を受けているというのに、家でたった一人、留守番をするように言われたのです。
「お前になど、高価な紳士の服はもったいない」
意地悪な継母が言いました。
ミハシンデレラの服は、雑巾よりは少しマシだと思える程度の、つぎはぎだらけのボロでした。
「どんくせぇお前なんか行ったら、迷惑になるだけだ」
上の義兄のハタケイティは、怖い顔でミハシンデレラを睨みました。
どんくさく、ヘマばかりだというのはミハシンデレラも自覚していましたので、言い返すことができません。
優しい下の義兄、カノウェンディも、パーティに行かせるのは反対のようです。
「お前を外になんか行かせねーよ。お前は一生、オレの側で暮らすんだ」
そう言って、ミハシンデレラを家の中に閉じこめようとするのでした。
オレなんかが行ったって、恥をかいて終わりだ。オレが笑い物になったら、義兄さんたちに迷惑がかかるかも知れない。そしたら、帰ったらもっといじめられる……。
ハタケイティ義兄さんに、怖い顔で怒鳴られるのも怖かったけれど、カノウェンディ義兄さんに、笑顔で縛られるのも怖い。ミハシンデレラはこくこくとうなずき、パーティを諦めるしかありませんでした。
けれど、そうはいっても食べ盛りの16歳ですから、パーティの豪華なご馳走には興味があります。
どんな美味しい料理だろう? どんな素晴らしい味なのだろう? ちらっとお城に行き、ちらっとパーティに出て、ちらっとご馳走を食べて帰ることはできないだろうか?
それはいい考えのようにも思えましたが、ああ、けれど、ミハシンデレラにはボロボロの服しかありません。
やはり、諦めるしかないのかも知れませんでした。
やがて、待ちに待ったパーティの日がやって来ました。
「おい、てめぇ、くれぐれもバカな真似しでかすんじゃねーぞ」
「大人しく家で、オレの帰りを待ってるんだぞ? 逃げたら承知しねーから」
2人の義兄に念を押され、ミハシンデレラなしょんぼりとうなずきます。
馬車に乗り込む継母や義兄たちを見送って、ミハシンデレラはひとりぽつんと寂しい家の中に残されました。
今夜はみんなパーティに行ってしまったので、晩ご飯もありません。
ぐぎゅううう、と切なく鳴るお腹を撫でてなだめ、ミハシンデレラは肩を落としました。
「魔法が使えたらいいのに、な……」
もし魔法が使えたら、目の前に美味しい料理をたくさん並べるのに。華やかな紳士の服を着て、お城のパーティにも行けるのに。
遠くに見えるお城を眺め、はあ、とため息をついた時――。
「パーティに行きたいかい?」
聞いたこともないようなしわがれた声が響き、ポン、という音と共に、見知らぬ老婆が目の前に現れました。
大きな真っ黒のとんがり帽子をかぶり、真っ黒な服を着て、枯れ木のようなねじ曲がった杖を持った、背の低い老婆です。
「な、な、な、な、ど、ど、ど、ど……っ」
何、なんで、どこから、どうして? 言いたいことが言葉にならず、ミハシンデレラは大いに焦りました。
義兄のハタケイティなら、「ムカつく喋り方、やめろ」と凄むところですが、怪しい老婆は気にもしていないような顔をして、歯の抜けた口でにやりと笑いました。
「パーティに行きたいかい? 行きたいなら、望みを叶えてやろう」
「パー、ティ……?」
それは魅力的な誘いでした。
この老婆は魔法使いなのでしょうか? ならば、望みを叶えてくれるのでしょうか?
ああ、でも、そんな誘いに乗って、大丈夫……?
迷いに迷って返事ができないでいると、老婆がケラケラと笑い声を上げました。
「美味しい料理がいっぱいあるよ。こんがり熱々のブタの丸焼き、チーズを包んだ鶏肉のフィレ、ソースたっぷりの骨付き羊肉。プラムとカボチャのパイに、焼きたてのブリオッシュ、甘ーいクリームブリュレはどうだい?」
「ほ、骨、付き……」
ぐぎゅううう、と、また空っぽのお腹が鳴りました。
口の中は唾液がいっぱいで、ごくんとノドも鳴りました。
肉らしい肉など、継母が来てからというもの、食べた覚えがありません。焼き立てのパイも、甘いお菓子も、夢のまた夢でした。
ミハシンデレラが、ふらふらと1歩踏み出してしまったのも、無理はないでしょう。
「決まりだね」
老婆はにやりと笑って、右手の杖を振りました。
ポン! 老婆が現れた時と同様、軽く弾けるような音がして――あら不思議。バサリと布のはためく音と共に、ミハシンデレラのボロ服が、一瞬で見事なドレスに変わったではありませんか。
「う、お、コレ……」
戸惑ったように口ごもるミハシンデレラ。
黒とオレンジのひらひらのドレスは、ミハシンデレラの白い肌に、とてもよく似合っています。
ポン! 黒のメッシュの手袋が現れ、ミハシンデレラの両手を優しく包みます。
ポン! 黒とオレンジのティアラが現れ、ミハシンデレラの薄茶の頭を飾ります。
「ま、待って、オレ、お、男……」
ミハシンデレラのささやかな疑問も、残念ながら老婆には届かず。
ポン! オレンジ色のカボチャが、ジャック・オー・ランタンそっくりの豪華な馬車に変わりました。
老婆は、どこからか捕まえて来た、真っ黒な2匹のドブネズミにも杖を向けて……ポン! 猟犬のように巨大なネズミの出来上がり。
「ほら、お乗り、可愛い子ちゃん」
さあこれで、どんなパーティに行けるのでしょう。
(続く)
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