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Season企画小説
串カツの日・前編 (2015串の日・大学生・阿←三)
※この話は、焼き肉の日 の続編になります。




 朝練に出ようとグラウンドに向かうと、ベンチの前で三橋が女子マネジたちに囲まれてた。
 女どもはきゃあきゃあ笑ってるし、三橋は顔真っ赤にして熱心に話を聞いてるし、うるさくてイラッとする。
 近付くと、ベビーチーズがどうとか話してるみてーだ。
「うおっ、チーズ! いいねっ」
 三橋の弾んだ声に、マネジたちがくすくす笑う。
「魚肉ソーセージと合うんだよぉ」
「豚肉で巻いても美味しいよぉ」
 赤い顔でふんふんとうなずき、よだれ垂れそうな口してだらしなく笑ってる三橋は、アイツらしくてスゲー可愛い。
 なんだ食いモンの話か。そう納得しつつも面白くねぇ。

 ……失恋したんじゃなかったのか? 楽しそうにしやがって。
 三橋と2人、互いに失恋を忘れようと、焼き肉店でヤケ食いしたのは、つい1週間前のことだ。三橋なんかヤケ飲みだっつってビール3杯も飲んで酔っぱらって、連れて帰るのも大変だった。
 まあ、いつまでも失恋引きずってメソメソされるよりマシだけど、目の前で楽しそうに笑ってるとこ見せられると複雑だ。
 投げることと食うことにしか興味なさそうなヤツだったのに。また誰かを好きになって、新しい恋をすんのかな?
 応援すべきだと思う反面、モヤモヤが募って気分ワリー。野球だけやってりゃいいのに。
 けど、何でこんなに面白くねーのか、自分でもよく分かんなかった。

 1〜2限目の間の休み時間、大講義室でも、三橋は女に囲まれて笑ってた。やっぱメシのこと話してるみてーで、卓上コンロがどうって声も聞こえる。
「距離が縮まって、いいよぉ」
 って。真夏に鍋でもするつもりか? くそ暑い。
「持ってないなら、貸したげよっか?」
「やぁだぁ、優しい〜」
 きゃきゃきゃ、と笑う女たちの声。
「ほ、ホント? ありがとう!」
 上擦った声で、礼を言う三橋。
 うるせーなぁと思いつつ、その輪に割り込む気分でもなくて、はぁ、とため息をつき教科書を取り出す。
 三橋が気になって、その後の講義はちっとも頭に入んなかった。

 その三橋に晩メシに誘われたのは、翌日のことだった。
「あの、こ、この前のお礼に、オレんちで……」
 普段、そうしてトモダチ誘い慣れてねーんだろう。赤い顔で、もじもじしてて、変顔なのに妙に可愛い。
「昨日、女子と盛り上がってたじゃん。あいつら誘えば?」
 わざと突き放すように言ってやると、「ふえっ」って焦って目ぇ剥いて、ぷるぷる首を振ってんのも可愛い。
「お、お、オレが誘いたいのは阿部君だけ、だっ」
 上目遣いで縋るように言われたら、さすがに悪い気はしねぇ。
 誘いたいのはオレだけって。特に他意はねーだろうと思うのに、誇らしいっつーか、嬉しかった。

 部活の後、さっそく三橋んちに行くことにした。
 途中、一緒にコンビニに寄って、ペットボトルのお茶を買う。三橋はちゃっかり缶ビールを2本も買ってて、おいおいと思った。
「飲み過ぎんなよ」
 渋い顔で言ってやったら、「きょ、今日は、オレんちだから」って。そりゃ、先週みてーにおぶってやったりって手間はなさそうだけど、オレが困るだろっつの。
 意外と甘え上戸で、可愛くて困る。いや、男同士だし別にいいんだけど、でも困る。

 三橋んちは珍しく片付いてて、やればできんじゃんって感心した。
 普段、ごちゃーっとなってるローテーブルの上もスッキリと片付けられてて、ノートパソコンの代わりに卓上コンロが置かれてる。
「これ……」
 女子に借りたのか?
 昨日の大講義室での会話を思い出し、途端に気分が悪くなる。けど――。
『距離が縮まっていいよぉ』
 と、そんなセリフも思い出して、じわっと胸が熱くなった。
 距離を縮めたい相手って、オレか? 真夏に卓上コンロ出して、何を食わせてくれるんだ?
 コンロの話聞いた時、夏なのにくそ暑いって思ったくせに。そんな感情を都合よく追いやり、ミニキッチンに立つ三橋をじっと見る。

「今日は、串の日だ、から。オレ、みんなにメニュー訊いた」
 三橋は冷蔵庫から、大量の串カツの載った皿を取り出し、テーブルの上にどーんと置いた。
 天ぷら鍋に油を入れて、卓上コンロに火を点ける。
 串カツ、自分で揚げる気か? ヤケドしたらどうすんだ? と、ガミガミ言う気にもならなかった。
「メニュー……」
 ぼそりと呟いて、ローテーブルの前にドカッと座る。
 目の前には、揚げるだけになってる大量の串カツ。パン粉の衣をまとってて、どれが何かワカンネーけど、色んな種類がありそうだ。

「ベビーチーズの肉巻き、に、アスパラの1本刺し。ピーマンの肉詰めと、ナス、と、こっちの丸いのが玉ねぎ、で……」
 嬉しそうに指差して、カツの中身を教えてくれる三橋。
 昨日、女どもと話してたのは、間違いなくこのことで、喜んでいいのかどうかワカンネー。
 なんで喜ぶのかもワカンネー。
「入れる、よー」
 そんな言葉と共に、天ぷら鍋に投入されてく手作りの串カツ。
 じゅうっと音を立てる天ぷら油と、にこにこ顔の三橋とを見比べる。
「あっ、ソース出さなきゃ」
 わたわたと立ち上がり、冷蔵庫を開ける三橋は、相変わらず落ち着きがなくて、目が離せねぇ。

「好き、なの、食べていいから、ねっ」
 にへっと笑われて、「ああ」と返事しながらコンロの方に視線を戻す。「好き」って言葉にドキッとするのは、なんでだろう?
 よく分かんねぇけど胸がいっぱいで、たくさん食える気がしなかった。

(続く)

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