Season企画小説
白靴恋・9 (完結・R18)
隆也さんとの行為は、大抵私が翻弄されるままに終わる。
だから今夜のこれも、いつも通りと言えばいつも通りなのかも知れない。
「あ、あああっ」
貫かれてのけ反った背中に、彼の腕が回される。腰を引き寄せられ、深くまで穿たれて、息つく間もなく揺すられる。
侵入を許した瞬間の痛みは、数回の揺さぶりを受ける内になくなった。
「あっ、待って……」
上ずった声でお願いしても、待って貰えない。
行為が始まると、すぐに何も考えられなくなってしまうから、今、言わなきゃいけないのに。
ネックレス外すのと……あと、何だった?
さっき、確かに頭に浮かんでたハズのことが、揺すられるたびに泡に溶けて、ぷちんと弾けて消えていく。
「細い腰だ」と隆也さんが言った。
ウェストを強く掴まれたまま、深いところを何度も突かれる。体の中を、彼の肉にこすり上げられる。
「ふ、あ、んっ、ん……っ」
声を漏らすのが恥ずかしくて、手の甲で口を覆った。腰を掴んでた手が離れ、その手で胸に触れられる。
大きな手のひらでこねるように揉まれると、体の奥がきゅうっと締まった。
「はっ」
隆也さんが息を吐いて、それから小さく笑うのが分かった。
どうして? どんな顔して笑ったんだろう? 少し気になってそっと目を開けると、端正な顔が間近で私を見下ろしていた。
微笑みながら、ぎゅっと強く胸を揉まれる。
「んあっ」
痛みと、それからどうしようもない快感に襲われて、身をよじる。中にいる隆也さんを強く感じて、太く大きいのだと思った。
さっき口にした彼のソレを思い出し、その熱さと固さとを感じて震える。
口の中には、到底納まりそうにない。手にも余る程の太さと長さのモノが、今、私の中で動いてる。
リズミカルに私を揺すり上げながら、両手で胸を弄ぶ。
「こうされるの、好きでしょう?」
少し息を弾ませながらも、隆也さんはまだまだ余裕だ。楽しそうに乳房を揉みしだき、とがった乳首を吸い下げる。
「ほら、こうすると、ぎゅうぎゅうオレを締めつけて来る」
そんな風に言われても、答えようがない。だって、自分の意志でそうなる訳じゃないし、恥ずかしい。
「知、りませんっ」
両手で顔を覆って言うと、その隙間から額に軽くキスされた。
やんわりと手を剥がされて、顔を寄せられ、唇にもキスが降りてくる。
キスに慣れたといっても、こんな風に抱かれながらでは集中できない。求められるまま口を開け、彼の舌の侵入を許して呻く。
頭の中が彼と、彼から与えられる快感でいっぱいになって、ただ喘ぐだけになる。
これは普通のこと? それとも隆也さんだからだろうか?
「ん、んんんっ、う、……ああ」
キスにさえ耐えられなくなり、唇を離して身をよじる。
抱き込まれて強く揺すられ、広い背中にしがみつく。
思わず爪を立てると、「気持ちいい?」って訊かれた。こんな時、何て答えればいいのだろう? 訊かなくたって分かってるくせに。
目を閉じて顔を逸らし、答えないでいると、もっともっと動きを早くされた。
「ああっ、んっ、ああああーっ!」
口を閉じることもできなくて、はしたなく叫ぶ。
甘えたような響きも、大声も、何もかも恥ずかしいのに止められない。
「はあっ、いやっ、ああーっ!」
揺すられる。
彼の動きに合わせて快感の波がどんどん高まり、脳を侵して、決壊する。
「んんっ」
息を詰めた直後、がくんと意識が遠くなった。背中にしがみついてた腕から力が抜けて、ぱたんとシーツの上に落ちる。
けれど、それで隆也さんが動きを止めてくれるハズもない。私の両脇に手を突いて、そのまま強く、早く、私の中をこすり続けて――。
やがて。
「廉っ」
名前を呼ばれた。
くっ、と息を詰める様子から、彼が達したのだと悟る。
さんざん攻められ続けた場所は、熱を持って濡れに濡れてて、何がどうなったのかも分からない。
頭がもうろうとする中、息を弾ませて、目を開ける。
「隆也、さん……」
掠れた声で彼を呼ぶと、「ん?」と短い返事が来た。
ふふっと笑われながら抱き起こされ、ヒザの上に乗らされる。
身長差がなくなって、目線の高さに差がなくなる。それが気に入っているのだろうか? こうして貫かれたまま、抱き起こされることが多い。
だるさの残る体、ふらつく上体を、大きな手がしっかりと抱き留めてくれる。
起き上ったことでネックレスが視界に入って、忘れてた訳じゃないけど、ああ、と思った。外さなきゃ、と分かってるのに、腕に力が入らない。
「ネック、レス、外してくだ、さい」
呟くようにお願いすると、「どうして?」って微笑みながら言われた。
「全裸にネックレスだけまとって、とても煽情的なのに」
ということは、わざとだったのだろうか?
無頓着なだけかと思っていたけど。強く揺すられるたび、ネックレスがパラパラと肌の上を跳ねるのを、もしかして楽しんでた?
「せ、んじょ……」
煽情的、って。
カーッと頬を染めた私を抱き締め、隆也さんがくくっと笑う。
「スゲーそそる、ってことですよ」
って。もう、何て言い方をするんだろう。
もう1つ、何か思い出さなきゃいけないことがあったのに、ぼうっとしてるし恥ずかしいしで、頭が上手く働かない。
文句を言いかけた口をキスで塞がれ、そのまま下から突き上げられて、余計に何だか分からなくなった。
「んっ、んうっ」
ヒザの上で踊らされて、上擦った声を漏らす。
すべらかな裸の肩に縋り、快感に耐える。
大きな手がイタズラに、私のお尻をぐっと掴んで左右に割った。
「いやっ」
恥ずかしい場所をすべて暴かれたように感じて、体の奥がきゅんとうずいた。
ああ、濡れる。
濡らされて、再び固くなったモノに突き崩すようにこすられて、境界が曖昧になっていく。
「そうやって恥じらう姿も、そそりますね」
意地悪なセリフに、もう拗ねるだけの余裕もない。
むさぼるように荒々しく唇を奪われ、ベッドに仰向けに倒される。
「泣かせるかも知れない」と、あらかじめ言われてたけど、本当に泣かされた。
「も、激、しい……」
悲しくないのに涙がこぼれて、感じて、泣けて、おかしくなってしまいそうだった。
何度気が遠くなっただろう?
何か彼に言うべきこと。それを思い出したのは、隆也さんが二度目に息を詰め、果てた後で――
あっ、中に。そう気付いた時には、もうほとんど喋れなくなっていた。
引き抜かれた衝撃に、うめく力もない。中に出されたモノが、ごぷりと溢れた気がしたけど、夢かも知れない。分からない。
「うつ伏せて」
命じながら体をひっくり返されて、白いシーツとクッションに縋る。
腰を掴まれ、後ろからまた貫かれて、リズミカルに揺すられる。
パーティの余韻も胸のざわめきも、とうに消えてなくなっていた。
船上の夜はふけて、頭の中にいるのは、もう隆也さん1人だけ。体も心も全部、彼でいっぱいに満たされて、これ以上の幸せはない。
過ぎた快感にシーツを掻くと、左手にきらりと指輪が光った。
まだ高校生だし、18になったばかりだし、やっぱり結婚は早すぎると思うけど。それでも、そう遠くない未来に待つそれが、今はちょっと楽しみだった。
肩を揺らされて目を覚ますと、もう朝になっていた。
「朝食が来てますよ。冷めない内に、起きて」
隆也さんの声に促され、むくりと起きあがると、船室はもう明るい。
「すごい寝癖」
ふふっと笑われて、ハッと頭に手をやると、裸の胸があらわになる。
「先に風呂に入って来ますか?」
隆也さんの提案に「は、い」とうなずきながら、寝ぼけた頭を巡らせる。
今、何時だろう? そう思って窓の外に目をやると、青い海面が動いて見えて、ドキッとした。
「えっ、船……っ」
驚いて振り向くと、隆也さんは余裕の顔で、「揺れませんね」と笑ってる。
船は確か、パーティの翌日横浜に移動し、そこから世界一周への旅に出るという話だった。では、横浜で降りるのだろうか? 何時に?
「あの、下船、って。まだ時間は大丈夫、です、か?」
てっきり東京で降りるのだとばかり思っていた。
東京港から横浜港まではすぐのような気もする。優雅に朝風呂に入ったり、朝食を食べている場合じゃないのでは?
気になって恐る恐るそう訊くと、隆也さんは「ははは」と爽やかに笑った。
「ゆっくりできますよ。明日神戸で降りるんですから」
「あ、した?」
神戸?
言われた言葉が一瞬理解できなくて、ぽかんと彼の顔を見る。
「神戸からは、車で帰りましょう。世界一周はなかなかできないけど、日本横断くらいなら、いつでも連れて行きますよ」
隆也さんはそう言って、私に右手を差し出した。指輪の光る左手を乗せると、ぐいっと掴まれ、引き起こされる。
くちゅり、と昨夜愛された場所が、はしたない音を立てたけど、我慢して裸足のまま床に降りた。
ネックレスはいつの間にか外されていて、身を飾るものは指輪だけ。
華やかなドレスも、可愛いジュエリーも、背伸びした靴も、何もないけれど――。
「キレイだ、廉」
隆也さんはそう言って、笑顔で私を抱き締めた。
(終)
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