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Season企画小説
白靴恋・3
 高校のお友達にも、声を掛けることになった。
「お若いお嬢さん方がたくさんいらっしゃる方が、華やかでいいわ」
 隆也さんのお母様もそうおっしゃってくださったし、会場も十分に大きいのだそうだ。
 阿部家主催だというから、てっきりこのお屋敷か、或いは取引のある老舗のホテルを会場にするのだと思っていたけれど、違うみたい。
 純和風の日本家屋である三橋本家、つまり私の祖父の家とは違い、この阿部家は3階建の大きな洋館だ。
 そのお屋敷のホールも広いと思っていたけれど、パーティを催すのはもっと大きい場所なのだと聞いて、驚いた。
 阿部家と取引のある商船会社の、最新のクルーズ客船を一晩貸し切りにしてくださるらしい。
 東京湾にて停泊し、パーティを催した後、その船は翌日横浜に移動して、それから世界一周へのクルーズに出るのだとか。

 3か月かけて、ゆっくりと地球を一回りする旅は、とても優雅で憧れる。
 費用の面でも勿論だけれど、何より、時間の使い方が贅沢なのではないだろうか。
「ついでにそのまま、旅行に行っちゃうのもいいわねぇ」
 お母様はうっとりと目を細めておっしゃっていたけれど、3か月も学校を休むことはできない。
 隆也さんだって、多忙な身だ。
「そんなに仕事を休めませんよ」
 苦笑しながら、そう言った。

「あら、タカはいなくてもいいじゃない。ねぇ?」
 ねぇ、と言われても困ってしまうけれど、冗談だということは分かる。
「そう、ですね」
 うなずいて、一緒になって笑っていると、隆也さんに「はあ!?」って睨まれたけれど、それも本気で怒っている感じではない。
 そもそも1年前の春休みまでは、隆也さんよりお母様の方が親しくしてくださっていた。今も昔も、本当の娘のように可愛がってくださって嬉しい。
 結婚するのは、まだまだ先のことだとは思うけれど、いつまでもこうして仲良く話せればいいなぁと思ってる。
「プレパーティじゃないけれど、こちらにいらっしゃる間に、美味しいケーキをいただきに行きましょう」
 そんな風に、気さくに誘ってくださるのも嬉しかった。

 春休みのうちに、ある程度親しいお友達には、メールでパーティの件を伝えた。
 早い方がいいと言うよりも、何だか面と向かってパーティに招待するのは、気恥ずかしかった。
 おめでとう、と口で言われるのも少し恥ずかしい。まだ当日ではないし。それに何より、誕生日のお祝いがここまで大がかりになるのも恥ずかしかった。
 そういう訳で、メールで終わらせようと思っていた連絡だったけれど、やはり思い通りにはいかなかった。
「ねぇ、あの婚約者の方も来るの?」
 とか。
「船上パーティなんて、素敵ねぇ」
 とか。顔を合わせるなり、口々に言われた。

 教室でわぁっと取り囲まれると、恥ずかしくて戸惑ってしまって、堂々とできない。
「主役がそんなので大丈夫?」
 お友達には笑われたけど、確かに言われてみれば内々のパーティではないのだし、色々と不安だ。
 最大乗客数が700人にもなる客船を借り切って、一体何人くらいの方がパーティにお見えになるのだろう?
 親戚や友人たちだけではない、恐らく阿部家・三橋家それぞれの仕事上の関係者の方々もいらっしゃるのだろうし、知らない方たちばかりかも知れない。
 そう考えると、学校のお友達は多ければ多い方がいいような気がする。
 幸い、2年から3年にはクラス替えもなかったので、そのままクラスメイト全員に、少しずつ話をもちかけた。
 婚約のお披露目の会になるかも知れない、とも伝えると、みんな「ああ、あの……!」と言って笑ってた。

 先月の、学校公開日のことは記憶に新しいのだろう。
「三橋さんの婚約者さん、格好いいよねぇ」
「背が高くてスマートでイケメンでね」
「『廉さん』って呼ばれてたね!」
 きゃあきゃあと隆也さんについて言われると、やはり誇らしいけれど照れくさい。
「去年の校門でのキスは、忘れられないわぁ」
 と、中には1年前のことを口にする人もいて、恥ずかしいなんてものじゃなかった。
「わ、忘、れてくだ、さいっ」
 どもりながら喚いても、「まあまあ」と笑われるだけで、とても忘れて貰えそうにない。
「ここだけの話、どこまで進んでるの?」
 そんな明け透けな質問をする人もいて、勿論冗談半分だと分かってはいるけど、叫びたくなるくらい恥ずかしかった。

 ゴールデンウィークの翌週ということもあって、辞退する人もいたけれど、大体の方は喜んでくれてそうで良かった。
 クラスのほぼ全員ということで、40名程になったけれど、数百人の大人の方々が来られると思えば、まだ少ない方なのかも知れない。
 けれどこれ以上はというと、少しためらわれる。
 18歳にもなるのに、人見知りではいけないと思うけれど、社交性にはあまり自信がない。
 誕生日、18歳、豪華な船での大がかりなパーティ。可愛らしいドレスに、華やかなジュエリー。そして真新しい白い靴。
 お友達も呼んだし、両親も祖父も、伯父や伯母もイトコも来る。
 誰もが「素敵」「格好いい」と誉める婚約者にも、十分過ぎる程愛されているし、彼のご両親にも弟さんにも、とてもよくして頂いている。

 けれど、だからこそ余計に不安だ。
 優しい方々の前で、何かとんでもない失敗をしたらどうしよう?
 自分だけ恥をかくならまだいいけれど、隆也さんにも阿部家にもご迷惑をおかけすることになれば、申し訳ないにも程がある。
 隆也さんの婚約者として、公にお披露目する場になると思うのに。それらしく振舞うことができるだろうか?

 こんな悩み、きっと隆也さんやみんなが聞けば、「考えすぎでしょう」って笑われるのがオチだろう。
 でもいくら頑張って背伸びをしても、快活に喋ることはできないし。マイナス思考に陥りがちなのも、分かってはいるけれど直せそうになかった。

(続く)

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