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Season企画小説
ラブサンプル・前編 (ゴムの日・大学生・同棲)
 普通の恋人同士って、付き合ってどのくらいで肉体関係を結ぶものなんだろう?
 そりゃ男同士だと色々勝手も違うだろうし、普通の男女交際とは違うのかも知れないけど……オレ、もうすぐハタチ、だし。キス以上の関係になりたいなって思うんだけど、どうなのかな?

 そんな話を、つい大学の野球部の仲間内でぽろっと話しちゃったのは、ゴールデンウィークの真ん中頃のことだった。
 カレンダー通りなら連休の最終日になる、5月6日。
 うちの大学は創立記念日と、何かの振り替え休日を間に入れてくれるから、月曜日まで休講だ。
 ゴールデンウィークだっていっても、野球部の練習がずーっと無しになるハズもない。明日明後日は休みだけど、また土日には練習だ。
 今日もよその大学との練習試合があって……その帰りに、みんなで夕飯を食べることになった。
 寄ったのは、駅前の大衆食堂。
 その横にある薬局チェーン店の前を通った時――。
「サンプルでーす。よかったらどうぞー」
 店の前に立ってた白衣の人が、オレたちに小さなチラシをくれた。それにはホッチキスで、正方形のアルミパックが貼られてて。

 コンドームだ、と、パッと見ただけじゃ分かんなかった。

 気付いたのは、同期の1人に笑われたからだ。
「三橋、さっさとそれ、カバン中入れろよ」
 くっくっく、と笑われて、改めてチラシを見ると「ゴムの日」って書かれてる。若年者の妊娠とか、性病の蔓延の予防に……って、書いてあることはすっごく真面目で難しい。
 ぼうっとちらしを読んでると、今度は数人にケラケラと笑われた。
「だから、早くしまえって」
「お前、ゴム見た事なかったのか?」
 からかうように言われて、オレは素直にうなずいた。そっと触ると、アルミパックの中に丸い何かが入ってるのが分かる。
 ゴムってこんなんなんだ。これを――。
 そう思うと、カーッと顔が熱くなって、「おいおい」ってますます仲間に笑われた。

「え、えっちってさ、付き合いだしてから普通、どのくらいでするもの、かな?」
 そんな質問をみんなの前でぶちまけちゃったのは、だから、そういう流れでのことだった。
「えーっ、お前、付き合ってるヤツいるんだっけ!?」
 みんなにはすっごく驚かれたけど、今まで内緒にしてたんだから仕方ない。同棲して1年になるんだって言ったら、もっと驚かれた。
 相手が同じ男だとか、高校の同級生だとか、内緒にしてることをぶちまけたら、きっともっと驚かれるんだろうけど、そこまでは言えなかった。
 ただ、よその大学の人で、理系で、結構忙しいみたいだっていうのだけは伝えた。
「そうかー忙しいのかー。けど、同棲して1年なら、セックスしてねーのは遅いくらいじゃねぇ?」
 同期の1人にそう言われたけど、みんなも大体同意見みたい。

「キスはしてるんだろ? その他は?」
 明け透けな質問に、こくりとうなずく。
 初めてキスしたのは、高校の卒業式。それから一緒に住むうちに、触りっこもしたし、抜きっこもした。
「フェラ、も……」
 そう言うと、「ええーっ」ってまた驚かれた。
「そこまでやってんなら、後はもうお前次第だろー!」
 って。そうなの、かな?
「隙を見て頑張れ!」
 みんなはそう言って、さっき薬局の前で受け取った例のサンプルをオレにくれた。

 「すぐに使えるように」って、わざわざチラシ外してくれて。そんなにたくさんはいらないなって思ったけど、でも、素直に嬉しい。
 隙を見て、ってどうすればいいんだろう? それはよく分かんなかったけど、頑張ってみようと思った。
 食事の後は、親切な同期数人に、隣の薬局に連れ込まれた。
「これ、買っといた方がいいぞ」
 そう勧めてくれたのは、無香料無着色のボディローションだ。「湯上りのケアに」って、保湿液コーナーにあったけど、ラブローションとして使えるって。
「相手もハジメテなんだろ? 最初はこういうの使って濡らさねーと痛いからな」
 色々教えて貰えると、生々しくて恥ずかしいけど、やっぱり嬉しい。
 オレの恋人のこと、完全に女だと思われてるなって感じたけど、それでも嬉しい。むしろ、ホントのことも言えないし、紹介もできないし、写メ見せることもできなくて、申し訳なかった。

 恋人と同棲するアパートに帰ると、その恋人は、ラグにドカッと座ってTVを見てた。
「ただいま、阿部君」
 声を掛けて、スポーツバッグを持ったまま脱衣所に向かい、汚れ物を洗濯機に入れる。
「おー、お帰り。風呂入れてやるよ」
 阿部君がそう言いながら、オレと入れ違いに脱衣所に向かった。それに「ありがとう」って礼を言いつつ、荷物を置きに部屋に入る。
 彼と同棲するこのアパートは、ちょっと狭めの2LDK。寝室はそれぞれ別で、だから、なかなかそういう関係になれないの、かも。

『後はもうお前次第だろー』
『隙を見て頑張れ』
 仲間の言葉を思い出しながら、カバンから薬局のレジ袋をごそっと取り出す。それに入ったままのローションは、まだ封も開けてない。
 これ、どうやって使うの、かな?
 不思議に思いつつ封を開けた時――。

「おい、三橋!」
 阿部君が怒鳴り声を上げながら、オレの部屋に入って来た。

 その手には見覚えのあるアルミパックが掴まれてて、あっ、と思う。さっき、汚れ物出した時に、1個落ちちゃったかな?
 カバンの中を慌てて探っても、何個貰ったか覚えてないし、どうしようもない。
「そ、れは、今日、駅前で……」
 カーッと赤面しながら言い訳したけど、阿部君には聞こえてないみたい。
 つかつかと部屋に入って来た彼は、怖い顔のまま、オレの手から開けたばっかのローションボトルを取り上げた。
「何だ、これ?」
 低い声で訊かれて、無茶苦茶怖い。

「こんなモン、どうすんだよ?」
 ズバッと訊かれて、言葉に詰まる。どう説明すればいいのか分かんなくて、途方に暮れるしかなかった。

(続く)

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