Season企画小説 もう後悔しないから (叶誕・阿×三←叶・黒い) 中学1年の誕生日には、家で誕生会をやった。友達呼んで、ケーキとケンタと、手巻き寿司。 小学校の時は、いつも学校の友達呼んでたっけ。 中学では三星に進学したから、地元の友達とは遊ばなくなっちまったけど、その代わり部活の仲間を呼んだ。 廉も来た。 中1の7月、思えばまだその頃は、廉だって「仲間」の一人だったんだ。総体が終わって、3年が引退して……まだ次のエースが確定してなかった、この時期。 廉は、楽しそうに笑ってた。 オレと一緒に出来る野球が、楽しい、嬉しいって笑ってた。 中学2年の誕生日も、やっぱり家で誕生会をやった。メニューも一緒、メンバーも一緒。 ただ、廉だけが……そこにいなかった。 廉の家は、オレん家のすぐ向かい側にあるっていうのに。「今日、来いよ」って、声も一応掛けたのに。 廉のいない誕生会は、部活と違って、雰囲気もギスギスしてなくて、畠も吉も、皆楽しそうに笑ってた。 オレも、きっと、心の中ではほっとしてた。呼んでも廉が来なかった事に。 あいつが……雰囲気をぶち壊しに来なかった事に。 皆が帰った後、郵便受けに青い封筒が入ってるのを見た。 中には青空のカードが1枚入ってた。 メッセージも、名前も、何もない。ただ、青い封筒に入った、青空のカードが1枚。 廉だ、と思った。その時は単純に、嬉しかった。 翌年。中学3年の誕生会も、やっぱり廉は来なくて……そしてやっぱり同じように、郵便受けにカードがあった。 きっとこんなギクシャクしてても、廉にとってオレは、唯一のトモダチだったんだ。 だったら、トモダチでいてやろうと思ってた。たまにはキャッチボールだって、やってやってもいい。 きっと尻尾振って付いて来る。小学校の時みたいに、オレのこと「修ちゃん」って呼ぶだろう。 二人っきりなら……またあの笑顔を、見せてくれるかも知れねぇ。オレだけの、笑顔を。 それが思い上がりだったと知ったのは、高1のゴールデンウィーク。廉が「戻らない」って言った時だ。 オレが呼べば、尻尾振って付いて来るんじゃなかったのか? 皆と仲直りできれば、それで居場所が出来るんじゃなかったのかよ? もう、誕生日に、青い封筒は届かない。 郵便受けを何度も見て、何度も探して、そして思い知った、16の夏。 振り向けば、そこにあったハズの笑顔を……失くしちまったって気が付いた。 初めて泣いた。 廉……廉。好きだったって気付いた時には、お前はもう、他の誰かを見付けてて。 肩を抱くことも、頭を撫でることも、気を許した笑顔さえも、もう誰かのモノなんだ。 あれから3年。 廉が推薦でどこの大学受かったか訊いて、オレは必死に勉強した。 三星大に入ると思ってた親に、上京を納得させるのは骨が折れたけど……春からの新生活を思えば、どんな壁だってぶち破れた。 そうして迎えた、19歳の誕生日。 廉は野球部の寮暮らしで、廉の恋人はまた、違う大学の寮暮らし。 どのくらいの頻度で連絡取ってるか、どこでどうやって会ってんのか、全く疑問だ。 もしかしたら、うまくいってねーのかも? 「誕生会するから来いよ」って、一人暮らしのワンルームに誘ったら、「うん!」って笑顔で即答だったし。 内緒な、っつって1本だけ、二人で分け合って飲んだ缶ビールで、酔っ払ってすぐに寝ちゃってるし。 無防備なこと、この上ない。 白い肌を、ほんのり染めて。濡れた唇を、半開きにしてさ。 今でも忘れられねぇんだ。あの喪失感。 いつでも振り向けばそこにいるって、いつでもオレのものだって、思い込んで安心して、思い上がってた、あの頃のこと。 一瞬のチャンスだって、逃しちゃダメなんだって、今のオレはもう知ってる。 あの男は、知らねーのかな? 永遠なんてないってこと。 失って初めて、「持ってた」って気付くこと。 自分の恋人に、ずっと横恋慕してた幼馴染が……今、すぐそこにいるってこと。 そんでその幼馴染が、この据え膳を、バースデープレゼントにしちまおうかと狙ってるってこと。 「こういう時も西浦じゃ、『うまそう』って言うのか、廉?」 オレは、ローテーブルに突っ伏した廉を、そっと床に横たえた。 ずっと誰かを想って、ずっとそいつからの着信を待ってた廉の、胸ポケットからケータイを取り上げる。シャメを1枚、撮って送って……そして電源をオフにして。そして。 バースデーカードの青空が、何でかな、一瞬脳裏によみがえった。 (終) [*前へ][次へ#] [戻る] |