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Season企画小説
ギャップ\・5 (R15) 
 ベッドの中で、久々にのんびり話、した。
 ミラノで過ごした後、1月はオレが日本にいられなかったし、2月は阿部君の試験があって、ホントになかなか会えなかったんだ。
 バレンタインは週末だったし、一緒にご飯は食べたけど、えっちはお預けだったし。やっぱり今日、誘ってよかったなぁと思う。
 オレは来週ずっと海外なんだけど、阿部君も来週は、就活イベントとバイトとで予定がぎっしりなんだって。

「うお、じゃあ、週末、は?」
 来週末、つまりホワイトデーの予定を訊いたら、朝から友達と就活だって言われた。数百社の企業が大きな会場に集まって、集団説明会みたいなのするんだって。
 言われてみれば、そういう光景ってTVや写真で見た事ある、かも。
「そ、そうか。何時まで?」
 そしたら阿部君は「どうかな……」って首を傾げた。初めての参加だし、よく分かんない、って。
 イベント自体は朝10時から夜の7時までやってるらしいんだけど、そんな長い間、がっつり参加はしないみたい。
「理系向けのセミナーが、午後3時からなんだよ。それは予約してっから、終わんのは5時かな……」

 阿部君はそう言って、それから見透かしたみたいに「何?」って笑った。
「また誘ってくれんの?」
 って。
 そのものズバリの図星だったから、「うん」って素直にうなずいた。
 ホント、オレばっか誘ってるなぁと思う。年上だし、スケジュールも急きょ変わるし、仕方ないんだけど照れ臭い。
「オレ、阿部君のスーツ姿見たい、し。夜、待ち合わせてデート、しよ?」
 そう言うと、阿部君は「お前のスーツだぞ」って笑ってた。
「お前以上の着こなしなんてできる訳ねーだろ」
 お世辞でもなく言われると、プロとしてはやっぱり嬉しい。
 でも、オレが阿部君のスーツ姿を見たいのは、着こなしとか歩き方とか、そういうんじゃないんだ。

「楽しみ、だな」
 想像しただけで、うひっと笑える。
 せっかくのスーツだし、ドレスコードのあるようなとこ、行く?
 レストラン? クラブ? いっそクルーズとか? 今から予約、取れるかな?
 にまにま笑ってると、「何?」って呆れたように言われた。腕枕が外されて、上から覆い被される。
「機嫌いーな」
 唇に笑みを浮かべて、阿部君が言った。
 大きな温かい手のひらに、顔を撫でられ、髪を撫でられて気持ちイイ。
 阿部君こそ機嫌いいなと思ったけど、深くキスされて肌をまさぐられて、言い返す余裕もなくなった。

 イタズラな指先が、膨らみのない胸を撫でる。
 乳首を摘まれ、指の腹で転がされて。そんなわずかな刺激でも感じちゃって、「ふあっ」と吐息に甘さが混じる。
「何? ここ?」
 って。訊かなくても分かってるくせに、意地悪で生意気。
 でももう片方の乳首も同じように転がされ、首筋に舌を這わせられれば、文句も言えない。
 固く猛ったモノをぐいっと押しつけられて、さすがに照れた。
 カーッと顔が熱くなる。

「もっかい、いい?」
 確認するような質問。
 「NO」って言ったことなんて1回もないのに、それでも訊かれるのは、きっとオレの体が優先だからだ。
 無理をさせないようにしてくれる。
 宝石みたいに眩しく見つめ、大事に丁寧に扱ってくれる。
「レン……」
 熱のこもった声で、そっと愛おしそうに呼ばれる名前。
 背中を、腰を撫で回されて、大きな手で尻の双丘を揉まれる。
「あっ」
 思わず声を漏らすと、満足そうに笑われた。

 ベッドの中では、ホント、翻弄されっぱなしだと思う。
 けど、この温かな肌、強引な腕を覚えてしまうと、他に目がいかないんだから仕方ない。
 ヒザを割られ、あられもなく押し開かれた脚の間に彼が来る。
 オレの穴はまだ男の形を覚えてて、ローションをまとった指を、何の抵抗もなく呑み込んだ。
「あっ……んぁ……」
 指をいやらしく出し入れされて、快感と期待に甘く喘ぐ。
 早く繋がりたい。
 阿部君の温もりを体全部で感じたい。
 色んな思いを込めて、覆いかぶさって来る広い背中に腕を回すと、優しいキスが降りてくる。

 阿部君はまだ、興奮しつつも冷静で。
 けどそれも今の内だけなんだって、オレにはとうに分かってた。


 翌朝、一緒に朝ご飯を食べた後、阿部君は「バイトだ」って言って帰ってった。
 就職活動を大事にするから、少しバイトのペースも落としてるって。
 都内では春休みの間、あちこちでセミナーとか説明会とかやってるみたいで、そういう話を聞くのも、新鮮で楽しかった。
 集団でバスに乗って、遠くまで行ったりもするんだって。地方から遠征に来る学生もいるみたいだし、大変だ。
 オレはそういうのに縁がなかったから、まるっきり違う世界の話に聞こえる。
「へぇ、楽しそう、だな」
 素直に感心すると、「何言ってんだ」って呆れたように笑われた。
「お前なんて、仕事であちこち飛び回ってんじゃねーか」
 そう言われれば、オーディション受けたりするのと、ちょっとは似てるとこもあるのかな?
 1つのところでずっと仕事が貰える訳でもないんだから、「就職」っていうのとはちょっと違う気もするけど、どうだろう?

 どっちみち、オレにアドバイスできることは何もなく、て。
 どの企業のどの職種が、阿部君に合ってるかも分かんなくて。
――就活、頑張って――
 と、そんなありきたりの励まししかできなかった。
 オレの貸したスーツ一式が、せめて役に立てばいいなと思う。
――お前も、ロケ頑張れよ――
 バイトの休憩時間に送ってくれたらしい、短いメールに、「うん」とうなずく。

 こんなささやかなやり取りも、恋人だなぁって思えて好きだった。

(続く)

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