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Season企画小説
猫と猛獣 (2015猫の日・大学生・獣化注意)
※阿部が猫(?)です。苦手な方はご注意ください。





 雨の夜に、真っ黒な子猫を拾った。
 親とはぐれたのか道端でにゃーにゃー泣いてて、びしょ濡れで震えてた。
 このまま放っとくとヤバいなって思ったし、目が合ったような気もしたから、一瞬だけ迷ったけど、うちに連れて帰ることにした。
 今住んでるアパートが、ペット可物件で良かった。
 別にペット飼いたいから選んだ訳じゃないんだけど、イマドキ珍しいんだって。
 スポーツバッグの中からタオルを取り出して、びしょ濡れの猫をそっと包む。部活で汗を拭いた後のヤツだったけど、猫なら文句も言わないだろうと思った。

 そうして拾った黒猫を飼い始めて、数週間。
 毎日せっせとエサをあげた甲斐あって、両手のひらに乗るくらいだった子猫も、すくすくどんどん大きくなった。
 生き物を飼うのって初めてで不安だったけど、とっても頭のいい子で良かった。
 無闇に爪研ぎすることもないし、あちこちで粗相をすることもない。お風呂だって嫌がらずに一緒に入るし、寝るときも一緒。
 たまに夜中、布団の上に乗られたり、枕元に来てふんふんニオイを嗅がれたり、温かい舌で舐められたりもするけど……まあ、猫は夜行性だし、仕方ないよね。
 ただ、どうしてもキャットフードを食べてくれなくて、それだけは困った。
 ハムエッグとかギョーザとか、オレの食べてるモノばかり欲しがるんだけど、猫って雑食性だっけ?
 思ったより、ちょーっと成長が早いような気もするけど、でもオレ、猫も犬も飼ったことなかったし。
 猫は人間の4倍くらい、成長早いんだっけ? なんかそういうの聞いたこともあったから、そんなもんだろうと思ってた。

 けど――。

「でかっ!」
 うちに遊びに来た田島君と泉君に、真顔で驚かれてちょっと心配になって来た。
「……拾ったの、子猫つってなかったか?」
「うん。こ、これくらい、だった」
 両手のひらを合わせて「これくらい」の大きさを示すと、2人は声を揃えて「マジか!?」って目を剥いた。
 や、やっぱりちょっと、成長早い、よね?

 オレの動揺をよそに、当の黒猫はとたんっとベッドから降りて、オレのヒザの上にのっそりと寝そべった。
 ずっしりと重い体重が、ヒザに乗っかって「うぐっ」とうめく。
 どんなに頑張って丸くなっても、もうヒザの上には収まらないのに気付いたのか、最近はだらーんと寝そべったままだ。
 無防備で可愛いけど、かなり重い。
 何キロあるかは分かんないけど、体長はしっぽを入れないで1mくらい。
「それ、猫じゃねーぞ、多分」
 泉君が、顔をしかめてオレのヒザの上をじっと見る。
「ヤマネコじゃねぇ?」
「ヤマネコはヤマネコでも、欧米のヤマネコな……」
 2人の話すのを聞きながら、オレはヒザの上の猫を撫でた。お腹も背中も、すっごく触り心地がいい。猫も気持ちいいのか、ごろごろと低くノドを鳴らした。

 よく分かんないけど、ヤマネコの方が猫より大きいのかな?
「まあ、ピューマまではヤマネコでいいらしーけどな」
 田島君が面白そうに言ってるけど、ピューマってそれ、もう肉食獣だ。
「ふてぶてしい顔してるよなぁ」
 感心したように、猫を覗き込む泉君。猫はっていうと、ちらっと片目を開けて泉君を見たものの、すぐに興味なさそうに目を閉じてる。
 オレのヒザの上にいれば、大丈夫って思ってるのかな? そろそろヒザが限界なんだけど、一向にのいてくれない。
 それに、ヤマネコって聞くと、ちょっと心配だ。個人が飼ってても大丈夫だっけ? 何かの条約に引っかかって、没収されたり保健所呼ばれたり、しないかな?

「大丈夫だと思うけど、日中に散歩させたりすんなよ?」
 そんなもっともな言葉を残して、2人が帰った後――ようやく猫が、オレのヒザから降りてくれた。
 2人の座ってた辺りを熱心に嗅いで、ニオイを確認したり、自分のニオイを擦りつけたりしてる。なんか、縄張りを守ってるみたいで可愛い。
「2人とも、オレの大事なトモダチなん、だ。仲良くして、ね?」
 そう言いながら頭を撫でると、野太い声で「にゃー」って言われた。
 まるで、「仕方ねーな」って言ってるみたいに聞こえて、それもスゴく可愛かった。

 お土産に貰った手羽先を一緒に食べた後、いつものように一緒にお風呂に入り、ドライヤーで毛を乾かしてあげて、それから一緒に寝ることにした。
 猫は、オレの足元でいつものように丸くなってて、変わった様子は見られなかった。
 異変が起きたのは、真夜中のことだ。
 何かがのしっと布団の上に乗っかって来て、ああ、猫だなー、とぼんやり思った。
 ふんふんとニオイを嗅ぐ気配。ざらついた温かい舌で、ペロッと顔を舐められる。そこまではいつものことだったんだけど――。

「そろそろ潮時だな」

 低い声で耳元に囁かれ、ハッと意識が浮上した。
 パッと目を開けると同時に、布団の中に猫が潜り込んでくる。毛皮に覆われたしなやかな身体、オレより少し高い体温。
 暗がりに見えるのは、もこもこと目の前で動く掛布団だけで、状況がよく分かんない。
 っていうか、えっ、これ、猫?
「ええっ!?」
 下着ごとパジャマのズボンを降ろされて、猫のイタズラにしては何か変だ。
 股間をふんふんと嗅がれる気配。
 か細い鼻息が、敏感な部分にかすかにかかる。
 そりゃ、お風呂でもたまにそうされるけど、それは動物としての本能みたいなものかな、って……。

「ちょっと、待って」
 温かい舌が、ざりざりとオレの股間を舐める。太もものキワ、睾丸の裏、会陰、そして肛門の周り。
 母猫が子猫のソコを舐めて、排泄を教える……みたいなのは聞いたことあるけど、お、お、オレ、子猫じゃない、し。それに、そういう舐め方じゃない。
「ま、待って」
 慌てて身じろぎしたけど、言葉が通じるハズもない。
 ベッドから逃げようと四つ這いになったけど、容赦ない力で、逆に上からのしかかられて――。

「大人しくしてろ」

 聞き覚えのあるような無いような声に命令されて、恐怖にビシッとフリーズした。
 背中に乗ってる大きい野獣が、猫なのか猫じゃないのか、怖くてとても確かめられない。
「お前がワリーんだぜ? 巣の中に他のオス、入れたりするから」
 首筋をざりざりと舐めながら、誰かが言った。
「体ん中まで、オレのニオイ、付けてやる」

 それがどういう意味なのか、たっぷり思い知らされたのは、それから間もなくのことだった。

   (終)

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