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Season企画小説
My Sweet・5
 せっかくのブルーラグーンも、味がよく分かんなかった。
 勿論、ブルーラグーンはブルーラグーンだし、ブルーキュラソーのほのかなニオイとか、風味とかは分かる。
 ただ、自分のと比べてどう、とかが分かんない。他のお店のカクテルを飲む機会なんてあんまないから、勉強できるチャンスなのに。
「阿部君はまるっきり無防備の無警戒だったけど、キミは違うようだねぇ。人の視線に敏感なのは、商売柄かな?」
 隣の席からじっと見つめられて、ぼそぼそと話しかけられて、何にも集中できない。
 コンテストの演技にも、集中できなかった。
 軽快な音楽、軽快な技、ちゃんと見とかないとって思うのに、眺めるだけしかできてない。
 阿部君が無防備って。無警戒だ、って。どういう意味なのか、気になって仕方ない。まさかこの人、阿部君にもこうやって、じっと見つめたりしたのかな?

 そうしてる内に、修ちゃんの出番になった。
『10番、フレアバー・MIHOSHI所属、フレアネーム・修!』
 アナウンスと共に修ちゃんが舞台に上がり、パチパチと拍手が鳴る。
 オレもひと際大きな拍手を修ちゃんに送って、目の前の演技に意識を向けた。隣の人のことは一旦忘れて、音楽に耳を傾ける。
 銀のティンを3つ操り、肩やヒジを使って、バリエーションをつけてタップする。
 素早く掴んだリキュールのビンに、3つのティンをカッカッカッと被せて受けて、まとめて投げ上げてビンをフリップ、先に受けたティンの上で、リキュールビンをスピンする。
 基本的な技でも、バリエーションつけると華やかで格好いい。
 特に修ちゃんは、さすがにアピールの仕方が上手で、ショーマンシップにいい点つくんじゃないのか、な?

 コンテストの審査基準はほぼ決まってて、バラエティ、クリエティビティ(独創性)、ディフィカルティ、スムースネス、ショーマンシップ、コレオグラフィ(振付)が主な項目だ。
 あとコンテストによっては、カクテルを目分量で正確に測れてるかっていう審査とか。課題リキュールをうまくアピールしてるかっていう基準も加わるみたい。 
 それから、液の落下や飛び散り、ボトルやグラスの破損なんかは減点になる。
 時間内にカクテルを作れなければ、40ポイントの減点、だ。
 このコンテストも、規定時間は3分。3分の間にバリエーションをきかせたフレアの技をこなしつつ、カクテルも作んなくちゃいけないし、大変だと思う。
 いや、他人事じゃないし、オレだって4月にはやるんだけど。
 でも――修ちゃん、いい点取れてて欲しいなぁ。

 3分の演技が終わり、早めにカクテルを仕上げた修ちゃんが、格好よく両手を挙げてフィニッシュした。
 盛大に拍手して手を振ると、修ちゃんも気付いたみたい。ステージからの去り際に、ちらっと手を挙げて合図してくれて、仲間って感じがして嬉しかった。
「友達か?」
 隣からの質問にギクッとしたけど、「はい」ってうなずいてステージに向き直る。
 友達って見えるなら嬉しい。修ちゃんは幼馴染で、阿部君とはまた違った意味で、オレの大事な人だった。
「なかなか上手かったな、技術的なことは門外漢だが」
 そんな風に誉められたのも嬉しかった。
 リップサービスかも知れない。オレが手を振ったの見ただろうし、ただの話題作りかも? でも、単純に嬉しくて……。

「採点、楽しみ、です」
 オレはそう言って、警戒してたハズの阿部君の上司に、にへっと笑った。
 そしたらその人は驚いたように眉を上げて、それから「ふーん」と、意味深にうなずいた。


 全員の演技が終わってから、30分の休憩を挟んで結果発表と、表彰式。
 修ちゃんは初出場なのに5位入賞で、自分のコトみたいに嬉しかった。やっぱり修ちゃんはスゴイ。
 この後、この会場はそのままバーになるらしい。
 そしたらお客さんを入れて、出場者がそれぞれコンテストで作った、オリジナルカクテルを出すんだって。
 準備するからって言われて会場を追い出された後、さっそく控室に「おめでとう」を言いに行く。
 けど、オレと違って修ちゃんにはトモダチが多い。
 控室にはもう先客がいて――色んな人に囲まれて楽しそうに話をしてたから、オレは遠慮して、声を掛けるだけにした。

 上がりかけてたテンションも、分かち合う人がいないとじわじわ冷める。
 この後どうしよう、かな?
 修ちゃんや他の出場者が作ったオリジナルカクテル、勉強の為にも飲んだ方がいいのは分かってる。でも、1人でずっと回るのはしんどい。
 阿部君がいればよかったけど、オレ1人だし……。
 落ち着かない気分で時計を見ると、まだ2時ちょっと過ぎだ。
 オレ、阿部君と一緒にデートできればそれでいいって、どこに行こうとか何も考えてなかった。
 お店に直行するには早いし、家に帰っても仕方ないし、ホントどうしよう?
 阿部君、まだ接待かな? ケータイをチェックしたけど着信はない。まだあの女の子といるのかな? そう思うと余計、そわそわして仕方なかった。

 取り敢えず行くあてもなくて、オレはそのまま、会場の準備ができるのを、壁にもたれてぼうっと待つことにした。
 声を掛けられたのは、そのときだ。
「1人?」
 ハッと振り向くと、そこに立ってたのは三つ揃えのグレーのスーツを着こなした、壮年の男性――阿部君の上司。
 さっきみたいにじっと見つめられはしてないけど、何となく怖くて、1歩後ずさる。
 こういうの何ていうんだろう? 蛇に睨まれたカエル? 
 どうしようって思うけど、阿部君の上司だと思うと、逃げるのも失礼、で。

「この後、阿部と合流するんだけど。よかったら一緒にどう?」

 ポンと肩を掴まれて、そう言われて。ホント、なんて答えればいいか分かんなかった。

(続く)

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