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Season企画小説
運を呼ぶ・前編 (2015水谷誕・原作沿い高1・ミズチヨ)
 レンタルビデオショップに、借りた映画を返しに行った帰り道。神社の前を通りかかると、偶然篠岡に出くわした。
 初詣かな? 毎年4日には境内の屋台もなくなるんだけど、今年は日曜だからか、まだまだテントがずらっと並んでて、賑やかだ。
 でもやっぱ、1日2日に比べると、参拝客は多くない。
「篠岡」
 手を挙げて声を掛けると、彼女はにっこり笑って、こっちにタタッと駆けて来た。
「水谷君、明けましておめでとう」
 って。スゲー可愛い。
「おめでとう〜。みんなで初詣?」
 篠岡の後ろには、車いすに乗ったおばあちゃんらしき人と、ちょっとぽっちゃりめのお母さんらしき人とがいて、こっちをにこにこ眺めてる。

「おめでとうございまーす!」
 大声で挨拶して頭を下げると、横から篠岡が「そうなの」って言った。
「人が多いと大変だし、おばあちゃんも疲れちゃうからね」
 いつも通りの口調でそう言う篠岡は、何の気負いもなくおばあちゃんを気遣ってるみたいで、いい子だなぁってしみじみ思う。
 好きだなぁ。
「そっかぁ。車いす、大変だよね、段差とか」
「うん。でも、この神社はスロープがあるからね……」

 そんな話をしてると、後ろからお母さんが篠岡を呼んだ。
「千代ー、先行くよー」
 そう言われたら当然、篠岡は家族優先だ。大声で「すぐ行くー」って返事してて、ちょっと寂しい。
「……何か、手伝うことある?」
 若干の下心を隠しつつそう訊くと、「あはは、ありがとう」って笑われた。
「大丈夫だよー」
 って。
 これ、躱された? 気のせい? どっちにしろ、断られちゃった以上、しつこくはできない。
 オレは大人しく、「じゃあまた7日にね」って手を振って立ち去った。

 学校が始まんのは7日の水曜日から。
 宿題が鬼のように出てたし、始業式の後に課題テストがあるから、部活はそれが終わるまでお預けだ。
 つまり、篠岡と会えるのも7日からってことで、後3日が遠いなぁって思う。
 同じクラスなんだし、部活がなくても会えるけど……やっぱ篠岡は、教室よりも青空の下が似合うと思う。
 オレもそうありたいと思うんだけど、それにはやっぱ、練習だよね。
 帰ったら素振り、しようかなぁ……?

 しばらくぼうっと歩いてから、ふと、オレもお参り行った方がよかったかな、と思えてきた。
 ハッとして立ち止まる。
 そうだよ、そりゃ一緒にいたって何も手伝えることないかもだけど、だからってあっさり諦めて、立ち去らなくてもいいんじゃん?
 初詣に2回行っちゃいけないって決まりはない訳だし。
 ……行こう。
 思い立ったら善は急げ。オレはくるっと回れ右して、小走りにさっきの神社に戻った。
 車いすを目印に、境内から駐車場までぐるぐると見て回る。
 けど、ちょっと遅かったみたいだ。おみくじのとこにも、ずらっと並んだ屋台の前にも、もう篠岡の姿はどこにもなくて――。

 新年からすれ違い、か。
 あー、誕生日だってのについてないなぁ。
 はぁー、と大きなため息をついて、がっくりと肩を落とす。
 今年1年こんな感じだったら、切ないな。けど、後悔したって仕方ない。せっかくだから、お参りだけしてくことにして、改めて手水で手をすすいだ。
 突然思いついてのお参りだから、当然ハンカチなんて気の利いたものは持ってない。
 わー、失敗したなぁ、と思いつつ、濡れた手を軽く払ってると……。
「つ、使う?」
 斜め後ろからそんな声がして、にゅっとタオルが突き出された。

 えっ、と思って振り向くと、大きな薄茶のつり目男子と目が合った。
 っていうか三橋だ。紺色のハンドタオルをオレに差し出したまま、キョドキョドと視線を揺らしてる。
 篠岡じゃなくて残念、なんて、ちょっとしか思ってないけどさ。
「おー、さんきゅー」
 苦笑してハンドタオルを受け取ると、三橋の後ろに立ってた男が、「こら」と低い声で怒った。
「水谷にタオルなんか貸すなよ。ヘタレが感染るだろ」
 そういうヒドいセリフを真顔でいうのは、勿論阿部だ。新年早々容赦ない。
 阿倍のヘタレ呼ばわりもヒドいけど、「うおっ、そ……っ」って納得してる三橋もヒドイ。
 オレ、そんなにヘタレかな?

 思わずぼそっと訊くと、「ヘタレだろ」って真顔で言われた。
「打てそうと思ったら打て、走れそうなら走れ。捕れると思ったらボールに食らいつけ。野球と一緒だっつの」
 阿部はエラそうにそう言って、それからニヤッと笑って三橋の肩を抱き寄せた。
 蕩けるような、恐ろしくも甘い笑顔で「なあ?」と三橋を見つめる阿部は、確かにヘタレじゃないんだろう。
 望み通りの恋人を手に入れて、ラブラブで、こうして2人で初詣に来てて。
 まあ、その相手が同じ男同士って時点で、ビミョーにうらやましくないんだけど……幸せそうなのは、いいなーと思う。
「野球ねぇ……」
 オレだって一応、野球、頑張ってるよ? 素振りやりまくって、手のひらガチガチだし。最近はエラーもないし。バント練習のお陰で、出塁だって増えたし。
 けど、そこで満足しちゃダメってことなのかな?

「おら、ボケッとしてっと置いてくぞ」
 阿部が片手でケータイをいじりながら、エラそうに言った。もう片方の手は勿論、恋人の肩を抱いたままだ。
 えっ、いつの間にか、一緒にお参り行くことに決定?
 オレ、お邪魔じゃない訳?
 いや、「邪魔だ」って野良猫みたいに追い払われたら、それはそれで傷付くけどね。ホモップルと一緒に行動すんのもビミョーかな。

「水谷君、行こ、う」
 嬉しそうに頬を染めて、三橋が言った。
 そんな風に誘われたら、「やめとくよー」なんて言えなくて。
 オレはそのまま成り行きで、2人と一緒に門をくぐり、敷石の上を歩いて、拝殿に向かうことになった。

(続く)

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あきゅろす。
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