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Season企画小説
ギャップ[・6
 レンのショーを見に行ったことはあるけど、その裏側の部分を見た訳じゃねぇ。
 だから、レンの仕事風景を実際に見るのは、これが初めてってことになるんだろう。
 いや、付き合う前、大学の近くで女モデルと撮影してるとこ、偶然見たことあったっけ?
 でも、ホント通りがかりなだけだったし。今みてーにスタジオに入り込んで、ガッツリ見学するなんてのは初めてだ。
 あん時は夏なのに冬物のコート着ての撮影で、デカい扇風機の前で休み休み写真撮ってて、大変だなと思ったっけ。
 今回は逆で、真冬なのにレンは上半身裸だ。
 勿論、スタジオの中だからエアコンは効いてるけど、建物が古いせいか、足元から底冷えしてくる。
 そんな中、レンはキレイな上半身晒して、床に敷かれたガラスの上に横たわってた。

 一昨日スパで言ってた、あの柑橘系の香水の写真撮りだ。
 レンの周りには、輪切りだったりそのままだったりの、本物の柑橘類がごろごろと散らされてる。
 そのオレンジや黄色や白が、ガラスの下に敷かれた黒い布によく映えてキレイだ。
 パシャパシャと連続でシャッターが鳴り、眩しい白いフラッシュが散る。
「Vi sono più fresco! Più fresca!」
 カメラマンのオバサンがレンに何度も指示を出して、レンは黙ってそれに従い、次々とポーズを変えていく。
 両手を投げ出して仰向けになったり、頭を抱えたり、髪を掻き上げたり。少し斜めを向いたり、横を向いたり、ちょっと起き上がっては、また寝たり。
 オレンジを手に取ってキスしてみたり、笑ってみたり、カメラに向かって差し伸べたり。
 で、それをカメラマンが時々何か叫びながら、ひたすら写真を撮りまくってる。
「Vi sono più sexy. Più piacevolmente!」
 何言ってんのかワカンネーけど、ノリノリなのは見てても分かった。

 やがて、カメラのフラッシュが突然やんだ。
 休憩に入ったようで、オバサンカメラマンがモニターの前に移動する。そこで、撮った写真のチェックをしてくみてーだ。
 レンも、スタッフにガウンを着せられて、モニターの前に移った。
 オレの知らねースタッフに囲まれ、オレの知らねー言語を使って真剣な様子で話してるレンは、格好いいけどちょっと遠い。
 別のスタッフに呼ばれてイスに座らされ、メイクを直されたりもしてて、それなりに忙しい。
 その内写真のチェックが終わったようで、今度は黒い幕の前に立たされて、また写真撮りが始まった。
「Ridere e rinfrescante. Prendete la doccia dell'arancia!」
 オバサンカメラマンが大声で指示を出す中、レンがまた、向きを変え、ポーズを変え、表情を変えていく。
 フラッシュを浴びるのが気持ちよさそうで、ダンスを踊ってるみてーだ。
 エロ格好良くて、キレイで、見てるだけでドキドキした。

 スタジオの隅でパイプイスに座って見学してると、たまにレンからの視線が来る。
 ちらっと手ェ上げて合図してやると、にへっと笑顔になんのが可愛い。
 けど、撮影中はカメラにずっと集中してて、オンオフがハッキリしてる。そんな真面目さ、ひたむきさも、格好良くて好きだと思った。

 黒い幕の次は白い幕の前で、また同じような撮影があった。
 途中、カメラマンの指示なのか、水をぶっかけられたりもしてたけど、そんなことくらいで動揺なんかしねーようだ。
 それとも、慣れてんのかな?
 濡れた髪を掻き上げ、挑発するようにカメラを見つめるレンは、ゾクッとする程キレイでエロい。
 白い肌が水滴を弾いて、それがつうっと落ちるところも、ヤバいくらいエロかった。

 日頃、雑誌でちらっと見かけるだけの広告1枚にも、スゲー時間かかってんだな。
 写真撮ってる時間も長いけど、それ以上に待ち時間も長い。つーか、拘束時間がスゲー長い。
 日本でもこんな感じなんかな?
 何時に終わるか訊いても「分かんない」って言われることが多かったけど、実際に間近で見学すると、成程な、と思えてくる。
 昨日なんか、どっかのブランドのオーディションに付き添ってったけど、レンの順番が来るまで、寒空の下で何時間も待たされた。
 他のモデルも、黙って整然と並んでたから、多分いつものことなんだろう。
 スマホいじるより、3DSやPSP持ってるヤツが多いのはご愛嬌だけど、メンズモデルがずらっと路地に並んでんのは、圧巻だった。
 デニスもマネキンみてーだと思ったけど、やっぱイケメンが多い。
 オレはただの付き添いだし、何の手伝いもできねーけど、それでも一緒に外に並んで、同じ時間を過ごせてよかった。


 昼にはレンと一緒にピザを食いに行って、午後からは服を着ての撮影になった。
 黒のスーツの中にオレンジのシャツが、よく映える。襟を立て、胸元をちょっと開けてて、その下から覗く肌がやっぱエロい。
 背景を変えたり、小道具を整えたり、照明を調節したり、と、カメラマン以外のスタッフも忙しそうだ。
 昼休憩のほかに、午後のお茶休憩とかもあるみてーで、その間にちょっとだけ、スタッフやカメラマンとも会話した。
 レンはまた、オレのコト恋人だって話したのかな? にっこにっこ笑顔向けられて、何言われてっかワカンネーけど、気恥ずかしくて不気味だ。
 撮影が終わったのは夜の8時を過ぎてからで、みんな多分フラフラになってたけど、それでも笑顔で陽気だった。

 機材を片付ける前に、オバサンカメラマンが、レンと写真を撮ってくれた。
 オレら一般の日本人としては、写真撮るっつっても横に普通に並ぶだけだ。けど、オバサンはそれに納得してくれなかったみてーで、色んなポーズ取らされた。
 疲れすぎてハイテンションになってんのか、それとも元からの性格なんだろうか?
 そのうちオバサンはノリノリになってきて、スタッフも悪ふざけしてきて、レンと一緒に裸に剥かれた。
 いや、勿論上半身だけだったけど、素人にはハードル高ぇっつの。
「いい体だ、って、誉めてる、よ」
 レンがこそっと教えてくれたけど、あんま嬉しくねーし。「Thank you」って軽く返すこともできねーで、ちょっと疲れた。

 それにホント、別な意味でも危なかった。
 レン、ナチュラルにエロいし。裸の背中に裸で抱き付かれ、慣れた体温と気配に、正直くらっと来た。
 カメラの前っつーんで緊張もあって、無様に勃起したりはしなかったけど……マジ、ヤバかったっつの。勘弁して欲しい。
 みんなの前じゃ、抱き締めてキスすることもできねーし。
 異国の地で、毎晩ダブルベッドで抱き合って寝てるっつーのに、ずっとお預けが続いてる。

 でもやっぱ自分の性欲より、レンの仕事の方が大事なのは明らかだ。
 レンからOKが出るまで、キスだけで我慢するしかなかった。

(続く)

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