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Season企画小説
策士のその後 (2014畠誕・大学生・畠視点・にょた注意)
※この話は2014沖誕・「策士の恋」の続編です。

※三橋が女の子です、苦手な方はご注意ください。







 原則として全員、普段から野球部の寮に住んでんだから、夏キャンプっつったって、環境はそんな変わんねぇ。
 部屋が2人部屋から大部屋になんのと、掃除や食器洗いなんかの雑用が増えんのと、そんくらいなもんだと思う。
 いや、勿論涼しいし、朝から晩まで野球漬けになれるし、そういう面では変わるんだろうけど、そういう問題じゃなかった。
 問題は、結局朝から晩まで、同じメンツと顔突き合わせてるってことだ。それは寮でもキャンプでも一緒で……だからキャンプだっつって、はしゃごうってヤツらの気が知れなかった。
「怪談しよーぜ」
 とか。
「暴露大会は?」
 とか。小学生か、っつの。

 捕手仲間の阿部も、同意見らしい。
「よくそんなくだんねーコトで盛り上がれんな」
 呆れたような顔で荷物からミット出して、廊下に出て行こうとした。
 どこ行くのか訊いたら、「ミットの手入れ」だって。ウソつけ、練習の後に2人でやっただろ、っつの。
 けどまあ、わざわざ指摘してやる程、オレも人が悪い訳じゃねーし? 「ふーん」の一言で済ませてやる。
 けど、そんな阿部を、無粋な連中は放っとかなかった。
「待てよ阿部ぇ」
「暴露していけよ」
 そう言って、阿部をわざわざ引き留めてる。

「はあ? 暴露? 隠してることなんか何もねーぞ」
 思いっ切り機嫌悪そうに返事する阿部。その阿部に、チームメイトがズバッと訊いた。
「なあ、お前ってまだ童貞?」
「おぉい、お前らなぁ……」
 呆れて声を掛けたけど、これも集団心理ってヤツか? 恥ずかしい質問を引っ込めねぇ。
 対する阿部は――。
「はあ? じゃなかったら何だってんだよ?」
 デカい声でそう言って、質問したヤツの顔をじろっと睨んだ。

 垂れ目のくせに鋭い眼光、ナチュラルにデカい声、なまじ整った顔立ちしてる分、睨むと結構迫力がある。
 はしゃいでた連中も、一瞬でしんと黙っちまった。
 ちっ、と舌打ちを1つ残して、オレらに背を向け、大股で大部屋を後にする阿部。
 ガラガラ、パシッ、と引き戸が閉まって、金縛りが解けたみてーに、みんなが大声で「えーっ!?」と叫んだ。
「おいおい、あれってどういう意味?」
「童貞じゃねーって意味じゃねぇ?」
「マジか、あいつ!?」
 口々に叫ぶチームメイトは、完全に浮かれてるみてーだ。
 誤魔化されんなって。考えろよな。阿部は、「じゃなかったら何だ?」って訊き返しただけで、肯定も否定もしてねーっつの。

 ふっ、と鼻で笑ってたら、何でか鉾先がこっちに向いた。
「畠、お前、何も聞いてねーの?」
 って。何をだ、っつの。
「はー? 何を聞くんだよ? 聞いてねーよ、興味ねーし」
 正直に答えたら、「なんでだよ?」ってブーイングされた。意味分かんねぇ。
 たまたまポジションが同じだってだけで、特別仲いいって訳じゃねーし。まあ、たまたま先月、阿部と共謀して協力めいたことしてやったけど、でも、そんだけだ。
 その後どうなろうが、興味なかった。

 オレが黙ってる間に、大部屋にいる連中の話題は、付き合い始めたばかりの、阿部のカノジョに移ってた。
「やっぱ相手は、三橋ちゃんかな」
 って。下世話な詮索やめろっつの。
 まあでも、今だって多分、ミット言い訳にして逢引きに行ってんだろうし。噂されても平気なんだと思うけど。

 その阿部のカノジョ、1年マネージャーの三橋廉とは、小学校の頃からの知り合いだ。つっても仲良かった訳じゃなくて、ダチの幼馴染のイトコだけどな。
 色が白くて、髪の色も目の色も淡くって、オレら男子とは目も合わせねぇ。何つーか、とっつきにくい女子だった。
 女子っつっても、異性の魅力なんかこれっぽっちも感じねぇ。
 ガリガリでペッタンコで、男の服着てたって違和感ねーし。とにかく、絶望的に色気がなかった。
 おまけにドモリがちで、キョドリがち。いっつもイトコの陰に隠れてたっけ。
 そんで、オレの何が怖いんだか知んねーけど、いっつも顔見ただけで逃げてたな。あれは結構、ムカついた。

 あの三橋に、阿部が惚れてるって知った時は、ワリーけど笑った。
「ウソだろ?」
 ゲラゲラ笑ってそう言ったら、マジだっつーんでビックリだ。
 同時に、こりゃダメだとも思った。だって三橋、阿部が声かけたり寄ってったりするたびに、怯えて逃げてたし。
 それは、オレに対する態度と同じで。だから多分、放っといたらいつまでもこのまんまだってのは、容易に想像できた。
 オレは別に困んねーけど、惚れてんなら困るよな。
「正攻法じゃダメだぞ」
 と、忠告したのはこれくらいだ。

 後はまあ、舞台と役者を用意して、ベタだけどオレが悪役引き受けて、一芝居打った訳だけど。
 その甲斐あって、今じゃ立派に公認カップルだ。
 付き合い出してからは、時々ビクッとはされるものの、そうそう逃げることもねぇらしい。
 やっぱ沖の言った通り、声のデケーのが原因だったか?
「お前が昔、イジメたからじゃねーの?」
 って、そんなイヤミも言われたけど、いや、誤解だし。
 あのウジウジとかキョドリとか、男同士なら気に障ったかも知んねーけど、女子にはオレ、優しーから。

「三橋ちゃん、最近可愛くなったよなぁ」
「ちょっと女の子っぽくなったよな」
 周りの声を聞きながら、まあな、と思う。
 今でもガリガリだし色気ねーけど、阿部の側で笑うようになって、白い顔赤くしてて、そういうの見ると、まあ可愛いと言えなくもねぇ。
 ドモリとキョドりと視線合わねーとこは、まだ当分直りそうにねーけどな。
 どっちにしろ、オレには関係ねぇ。
 あいつらがどこまで進んだかとか、ヤったとかヤってねーとか、興味ねーし。騒いでる連中にも、悪趣味はよせよな、って思うくらいだ。

 けど……一応、あんなんでも昔馴染みだし。仲良くはねーけど、古くからの知り合いだし。胸がどうとかケツがどうとか、そういうのはちょっと聞きたくねぇ。

「おい、阿部に聴かれても知んねーぞ」
 ぼそっと忠告すると、本気で言ってた訳じゃなかったのか、みんなが顔を見合わせた。
 阿部、怒ったら怖そうだもんな。つーか、怒るだろうって分かってんなら、噂話なんかすんなよな。
 やれやれ、と思う。んな環境変わった訳でもねーのに、はしゃぎ過ぎだろ、みんな。
「暴露大会すんじゃねーのかよ? それともやっぱ、怪談やるか?」
 場を取り仕切るようにそう言うと、すかさず沖が「それはやめようよ」って弱々しく言った。
 ドッ、と周りの連中が笑う。
 ナイス沖、ナイスフォロー。いや、本人にフォローのつもりはなかったかも知んねーけど、まあナイス。

「よし、じゃあ、暴露大会な! 1番。オレ、中高と男子校なのに、3年連続で同級生からチョコ貰って怖かった。幸い、まだキレイな体だ」
 オレの暴露に、みんながキャンプのノリでドッと笑った。
「じゃー、次!」
 近くにいた仲間を指差すと、「えー」と笑顔で立ち上がる。
 下世話な噂話より、こっちの方が面白かった。


 暴露大会も、やってみりゃいいもんだったかもな。わいわい楽しく喋って笑って、気持ちよく寝れた。
 ちょっと団結感も上がったかも知んねぇ。朝練の時の雰囲気も良くて、午後からの試合も期待できそうだ。
 先輩らのいるAチーム同様、オレらBチームも、今日はオープン戦だ。Aチームより試合数は少ねーけど、その分、しっかり見られてると思う。
 このオープン戦の結果が、秋の新人戦に繋がると思うし、気合入る。
 先週の初戦は、阿部が捕手やってたけど。
「今日の捕手は畠で行こう」
 朝練の時、監督にそう言われて「やった」、と思った。

 幸先いいなと思ってたら、朝メシん時、おかずを1品多く貰った。
 ポテトサラダを挟んだハムカツ、っつーチープなおかずだったけど、あれっ、と思ったら、持って来たのは三橋だ。
「畠君、誕生日、おめで、とう」
 三橋にそう言われて、さすがにちょっと照れた。
 阿部の目を気にしつつ、有難く受け取って、「さんきゅー」と礼を言う。
「カツだから、勝つといいと思っ、て」
 にへっと笑う三橋は、チームの連中の言ってた通り、最近ちょっと女らしくなったと思う。
 相変わらず色気ねーけど、髪をちょっと伸ばし始めて――。

 と、そこまで見て、オレは一瞬、目を疑った。
「えっ」
 声を上げて2度見して、改めて目を逸らす。いやいや、ちょっと。ヤベェもん見ちまった。
 当の三橋は気付いてねーのか、きょとんと首をかしげてる。
 鏡見ろっつーの、このバカ、ホント大雑把だな。小学生か?

 オレ、ホントマジ、阿部とコイツがどこまで進んでようが関係ねーし、興味なかった。
 ヤったとかヤってねーかとか、はなから訊こうとも思ってねぇ。
 けど……午後から試合だぞ? マネージャーが首筋に、あんなモンつけてちゃダメだろう!?
 チームの士気に関わるっつーか、いや、ともかくダメだろう?
「阿部……」
 力なく捕手仲間に目を向けると、「何だよ?」つって、ニヤッと笑われてゾクッとした。
 虫除け? 牽制? それとも単に、見せびらかしてぇだけなのか?
 何にせよ、確信犯なのは間違いねぇ。独占欲丸出しの笑みが、黒過ぎる。

 阿部はいいヤツだし、優秀な捕手だし、三橋にぞっこんだし、大事にするだろうし、普通に考えりゃ不安なトコなんて何もねーハズなんだけど。
 ……大丈夫か?
 オレは、目の前の小柄なマネージャーを見て、言葉と生唾を呑み込んだ。

   (終)

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