Season企画小説
期間限定で別れようと言われたら・7
なんであの女は、一週間なんて期間限定の恋人を欲しがるんだろう。
なんで三橋は、それに簡単に応じたんだろう。
思い出作り、とか、三橋が言ってたような気がするけど。
でも普通、ここまできたら、思い出で済ませたくなくなっちまうのが人間じゃねーの?
ちょっと貰ったら、もっともっと欲しくなっちまうのが人間じゃねーの?
あの女は、ホントにそれでいーのか? 諦め切れんのか?
諦めなきゃならねー理由があんのか?
あの女の病状は、オレが思ってたより、もしかしてずっと悪ぃんじゃねーのか?
けど……そんなこと、部外者のオレが訊いていいことじゃねぇ。
どんなに気になるっつっても、部外者である以上、聞きたいなんつーのは興味本位だ。
聞いたって、何も力になってやれねーし。オレの関与なんて、求められてねーし。
だからオレが唯一してやれるのは、目を逸らさねーでいてやること。
全部受け止めて、受け流すこと。
多分、きっと……そんだけなんだ。
春季リーグ、第6週。三橋が先発で投げるってんのに、岩清水は家で留守番するらしい。
「家の者に、ビデオ撮影を頼んでありますから、いいんです」
岩清水はそう言って、三橋の手をきゅっと握った。
「ご朗報をお待ちしています」
「うお」
三橋はちょっと顔を赤くして、しばらくキョドってから「ありがとう」と笑った。
ああ……こういうとこ、やっぱ魔女だ。
オレはっつーと、今日明日は塾講師のバイト。9時からだ。
駅前の雑居ビルの2階と3階にある小さなとこで、メインは高校受験を控えた中学生。
中2と中3の数学が担当だが、たまに理科なんかもヘルプで教えたりなんかする。
「先生の授業は、数学より理科の方が面白い」
そんなこと言われたりもするが、そりゃ教え方ってよりもむしろ、内容自体、数学より理科の方が面白いってだけだろう。
周りが大学生ばっかだからかな。中学生はホント、ガキみたいに感じる。特に女子。
「先生、彼女いないのー?」
「あたし、なったげるー!」
「先生、マジ格好いーから好き」
「今まで何人とセックスした?」
そういう事言われても、全然ギョッとしねー辺り、ストライクゾーンじゃねー証拠だ。
つかオレ、三橋しかいねーし。
三橋にしか反応しねーし。
昔は一応、適当に写真雑誌見たんでも抜けたんだけどな。あれは多分、三橋を知らなかったからだ。
三橋の……カラダを。
午後6時。バイト終えてアパートに戻ると、言い争いの声が聞こえた。
三橋がそんな、人の意見に逆らってんのは初めて聞いたんで、びっくりした。
しかも、何を揉めたか知らねーけど、頭ごなしに否定してっし。
「絶対、ダメ、だ。オレは、イヤです。イイコトなんて一つもない、し。無理、です」
それに対して岩清水は、半泣きで言い募ってた。
「お願いです。一度だけでいいんです。後悔しないし、したくないんです」
オレが玄関からダイニングに入っていくと、二人ははっとして、口論をやめた。
「あ、阿部君、お帰り。試合、勝った、ぞ」
三橋が取り繕うように言った。
「おー、やったな」
オレは話に乗ってやりながら、二人をそっと見比べた。
三橋はまだちょっとピリピリしてっし、岩清水はこっちに背を向けて、そっと目元を押さえてる。
彼女がバカなことを言って、三橋を怒らせた――そんな感じか?
バカなことって、どんなことだ?
翌朝。
オレは岩清水本人の口から、そのバカなことの内容を聞かされる。
ホント、バカなことだ。
三橋も怒るハズだ。
しかも、オレに相談することじゃねぇ。
三橋が試合に出て行った後。オレがバイトに出かける準備をしてる時に、部屋のドアがノックされた。
「……はい」
ドアを開けると、岩清水が真っ白い顔を赤く染めて立っていた。
「一生のお願いです」
岩清水は、浅い呼吸を繰り返しながら、オレに言った。
――三橋を一晩、貸してくれ、と。
(続く)
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