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Season企画小説
ギャップY・5
 17日は朝から完全オフの予定だけど、その前の日は、何時に仕事が終わるか分かんねぇらしい。
――連絡くれれば迎えに降りるけど、勝手に上がって来てくれていいよ――
 前日の昼にそんなメールをくれたっきり、レンからの連絡はなかった。
 何時にマンションに行っていいか、の問いへの答えがそれだったから、相変わらず会話が噛み合ってねぇ。
 ただ、渡欧を前に、相当忙しくなってんのは確からしい。どうやら、TV放送以来、特に雑誌の取材が増えてるみてーだ。
 ちゃんと食って、ちゃんと寝てんのかな?
 あんま仕事のことは聞かねーけど、健康には気を遣ってんだろうか?

 夜の間は諦めてたけど、朝になっても連絡がなくて、ちょっとだけ不安になった。
 ちゃんと、マンション帰ってるよな?
 夜中に仕事終わって、疲れてまだ寝てるとか? まさか、打ち上げで酔いつぶれて、まだ帰ってねぇとかねーよな?
 すぐに様子見に行きてぇような気もしたけど、疲れて寝てるとこに押しかけても悪ぃし。
 結局、昼まで待とうと思って、午前中をじりじりと過ごした。

 その間にレポートを……って思ったけど、まるっきり集中できなくて、早々に諦める。
 誕プレは、迷ったけどアイスケーキを予約した。
 バイト先の近くの、つまりレンのマンションからも近くの、有名チェーン店のアイスケーキ。
 アイスならちょっとずつ食えるし、日持ちもするだろう。
 キャラクターものも喜びそうだなと一瞬思ったけど、自分も食うコト考えて、4種類の定番アイスの組み合わせにした。
 チョコプレートに名前を入れて貰うとき、「レン、でお願いします」って言うの、ちょっと照れた。

 ゴムもローションも用意したし、セックスの手順も、それこそきっちり調べまくった。
 3日間オフだ、って。そう言う意味だよな? つーか、アレが誘ってんじゃねーなら、何なんだっつの。
 けどやっぱ、それでも、なるべく気遣ってやりてーし。
 極上の身体を、傷付けたくなかった。

 12時を過ぎてから電話すると、すぐにレンが出てくれた。
 やっぱ疲れて寝てたらしい。
『いっぱい寝だめした、から、今夜は大丈夫、だよっ』
 って。どういう意味だ?
 一瞬ドキッとしたけど、レンの方は相変わらずのマイペースだ。
『阿部君、何時に来れ、る?』
 そんな風に普通に訊かれて、苦笑するしかねぇ。
 30分以内に行く、つったら、『じゃあ、お風呂入っとく、ね』って。それ、マジ、誘ってんだろ?

 はーっ、とため息をつきつつ、電話を切って準備する。
 つっても、もう持ってくモンはカバンに入れたし、着替えもとうに済んでるし。後は向こうの駅に着いてから、ケーキを取りに行くだけだ。
 先に進めりゃいーなとは思ってるし、その用意もしてるけど、今は何より、レンに会えんのが楽しみだった。


 アイスクリームショップでケーキを受け取ると、「サービスです」ってアイスの形のメッセージカードを1枚くれた。
 いらねーだろ、と一瞬思ったけど、ふと思い直して適当なコンビニに寄り、サインペンを買う。
 「誕生日おめでとう」と書いた後、先に続かなかったから、その下に「好きだ」って書き加えて、封筒に入れる。
 書いた後で、なんか恥ずかしくなったから、帰り際に渡した方がいいかも知んねぇ。
 カードをポケットに入れ、代わりにケータイを出して時間をちらっと確かめる。

 レンはもう、風呂から出たのかな?
 目の前で半裸とか見せられたら、誕生日祝うどころじゃねーんだけど。

 マンションのエントランスに入ってからソファセットに座って電話を掛けると、しばらくしてレンが『ごめん』って言って来た。
『い、今、出られない、から。あ、上がって来て』
 そんだけ言って、ぷつんと通話を切られちまって、マジかよ、と思う。
 カギの使い方は知ってるし、部屋番号も知ってる。別に何もやましいことなんかねーんだけど、コンシェルジュに見られてると思うと、なんかスゲー緊張した。
 大股でエレベーターに乗り込んで、はーっ、と息を吐く。
 相変わらずエレベーターもピカピカで、38階のフロアに降りると、内装も雰囲気もピカピカだった。

 焦げ茶のドアの前に立ち、一応だけど、呼び鈴を鳴らす。
『は、い』
 インターフォンから、レンの声が響いた。
「オレ」
 短く告げるとしばらくして、カチャッと鍵の開く音がした。
「どう、ぞー」
 そう言って、ドアを開けてくれたレンは、何つーか無防備すぎる格好で。
 裸の上にバスローブ着て、洗い髪をタオルで拭きながら、オレを見て嬉しそうににこっと笑った。

 ドキッとして、慌ててパッと目を逸らす。
 自分のコト「抱きてぇ」つった男を部屋に入れんのに、その格好はねーだろう。自覚ねーのか?
「ごめんな、風呂、入ってたのか?」
 目を逸らしたまま靴を脱いでると、レンが「うん」とうなずいた。
「中も、キレイに洗った、よっ」
 そんなことを言われて、またドキッとする。
 中、って何だ?
 風呂ん中? それとも体ん中か?
 もうホント、天然なんかワザとなんか分かんねぇ。
 どう答えていーのか、どんな顔してりゃいーのか、それももう分かんねぇ。

「これ、アイスケーキ。日持ちするから、冷凍庫にしまっとけよ」
 照れ隠しに、ぐいっとアイスの箱を押し付けると、レンは「ふおっ」っと驚いたような声を上げて、それから「ありがとう」って無防備に笑った。
 オレがぐっと息を詰めたのに気付いてんのか気付いてねーのか、「冷凍庫、入れるねー」つって廊下の奥に消えていく。
 レンの後を追って狭い廊下を抜けると、突き当りにあるのは明るいリビングダイニング。
 2月に来た時と、家具も雰囲気も変わってねぇ。
 チョコレート色のダイニングテーブル。カウンター越しのキッチン。大きな冷蔵庫の前に立って、ケーキを冷凍庫に入れてるレン。
 奥にある赤いソファもそのままだ。

 緊張しつつソファに座ると、ダイニングからレンが大股で歩いて来た。
 バスローブ1枚で風邪ひくぞ、と思いつつ、わざと目ぇ逸らしたまま座ってると――。
「阿部君」
 静かに名前を呼びながら、レンがぎゅっと抱き付いて来た。
 なんだ、それ?
 はっ、と笑いながら「誘ってんの?」って訊いたら、「んっ」って言われてドキッとする。

「誘ってる、よ?」

 半裸で、湯上りで、いいニオイさせて。にへっと笑いながら、顔を覗き込まれたら……もうその誘いに乗るしかねぇ。
 理性の糸がぶちっと切れて、奪うようにキスをした。

(続く)

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あきゅろす。
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