[携帯モード] [URL送信]

Season企画小説
ギャップX・5
 NYコレクションを特集した、この間の雑誌ができたっていうから取りに行った。
 そう言えば、写真サンプルって見せて貰ってないけど、どの写真使うことになったんだろう?
 不思議に思いながら事務所に行くと、担当の人がにこにこ笑いながら「可愛く撮れてるわよ〜」って言った。
「えっ、か、わ……?」
 コレクション特集の雑誌で、メンズモデルに「可愛い」って、あまり言わないよ、ね?

 不審に思いつつも、ずっしりと重い雑誌の表紙をめくると、巻頭から特集が始まってた。
 やっぱり女性誌だけあって、レディースの各ブランドのコレクション写真がいっぱいだ。メンズの扱いは小さくて、でもこんなものかな、と思う。
 オレの写真、使ってくれてたから、それだけで嬉しい。
 阿部君が教えてくれた、オンライン雑誌に使われてたのと同じ服のショットもあった。
 キャットウォークをまっすぐに歩いてる写真。
 こうして自分の写真見るときは、どうしても姿勢とかに目が行ってしまう。歩き方はキレイかな、とか、体はまっすぐかな、とか。
 服をちゃんと表現できてるかどうかは、自分だとよく分かんない。
 でも、仕事貰えてるし。オレは精一杯やるだけだ。

 自分の写真から目を逸らし、また次のページをめくる。
 パッと目に入ってきたのは縦文字がいっぱい並んだ見開きページで、ああ、この前のインタビューのだってすぐ分かった。
 4時間かかったうちの1枚、イスに座って斜めから撮った写真が大きく左側に載せられてる。
 ちらっと見ただけだけど、インタビューに対する受け答え、ちゃんと編集してくれてるみたいでよかった。
 阿部君も読んでくれるかな? それとも、こういう記事には興味、ない?
 もう1枚ぺらっとめくると、右側には春物ジャケットを着た、スタジオ写真。そして左下には、NYで選んだ小物のプレゼント。
 NYで撮った写真も使われてる。
 読者の人に、欲しがって貰えればいいなぁと思う。

 けど、最後のページをめくった途端。
「う、え……っ!?」
 ビックリして、思わず声を上げちゃった。
 オレがインタビュー中、真っ赤になっちゃった写真が入ってる! かなり小さいし、おまけみたいだけど、真っ赤なのはモロ分かりだ。
――バレンタインに素敵なことがあったらしいレン君。ホワイトデーはどうするのかな? 報告待ってます。――
 インタビュー記事は、そんな感じでまとめて終わりになってるし。
「うお、これ……」
 事務所的にはいいのかな? そりゃオレ、別にアイドルとかじゃない、し、結婚してるモデルさんなんていっぱいいるし、個人の自由だと思う、けど。
 しょ、しょーぞー権とか、そういうの……大丈夫なの、かな?

 雑誌を手に思いっ切りキョドってると、事務所の人にけらけらと笑われた。
「可愛く撮れてるでしょ?」
 って。
「レン君の素顔、見て喜ぶファンも多いと思うなー」
 って。そ、そういう問題、かな?
「そうそう。レン君、モデルの顔とプライベートな顔とじゃ、色気の種類が違うからねー」
 事務所の他のスタッフさんにもそう言われたけど、動揺は簡単に収まらない。

「はい、2冊あげるから。バレンタインのお相手さんに、持ってってあげなさい」
 そんな余計な言葉と共に、ずっしり重い雑誌をもう1冊ドシッと渡されて、わあ、と思う。
 阿部君にこの本見せたら、なんて思う、かな?
 でも、NYコレクションの写真とか、見て貰いたい、し。もしかしたら、インタビュー記事までは見ないかも知れない、し。
 ……渡しても大丈夫、かな?

 阿部君のことを思い出しながら、コートのパンツのポケットをそっと押さえる。
 そこには今朝、マンションを出るときにコンシェルジュさんに渡された、うちの合いカギが入ってた。


 ドキドキしながらコンビニを覗くと、阿部君がカウンターに1人だった。
 たまにあるけど、最近はなかったから、チャンスだと思って大股で近寄る。
 自動ドアをくぐると「いらっしゃいませー」って言ってくれたのは、阿部君、で。オレの顔見て、ニヤッと笑ってくれたから嬉しかった。
 もうちょっとゆっくり会いたいなーって思う。14日もバイトだっていうし。
 ……合いカギ渡すの口実に、ちょっと時間、貰えない、かな?

 スイーツの棚には向かわずに、直接レジカウンターに行って、中の阿部君に雑誌を渡す。
「これ、15日に撮影した、ヤツ。あの時は、ごめん」
 阿部君は雑誌をサッと受け取りながら、「いーって」って言ってくれたけど……ホントはちょっと、気にしてた、よね?
 オレの顔見て苦そうに笑われたの、あれ、結構ドキッとした。
 もうあんな笑顔、見たくない、し。
「あの、渡したいモノ、ある、から。夜、とか、会えない、かな?」
 言いながら、じわーっと顔が熱くなる。
 普段から確かに赤面症ではあるんだけど、こんな風になっちゃうのは阿部君だけ、だ。

「いーけど、今じゃダメなんか?」
 阿部君が、きょとんとした顔で言った。
 う、確かに、雑誌を渡しといて、「渡したいモノが」って変だった、かも?
 ちゃんと落ち着いて渡したかったけど、真顔で指摘されると急になんか恥ずかしくなって、黙ってポケットに手を入れる。
 取り出したのは、今朝できたばかりの特注のカギ。
 オレはそれを、阿部君の手を強引に掴んで、大きな手のひらにギュッと握らせた。
「だ、大事にして、くだ、さい」
 って。
 もうちょっと、気の利いたセリフ、あると思うんだけど――やっぱ急だったから、思いつかなかった。

「……え? これっ!?」
 阿部君が驚いたように目を剥いた。
 あんまり大声だったから、奥から店長さんが不審そうに出て来る。
「阿部君? どうした?」

 なんかもう、それ聞いたらもうダメで。
 恥ずかし過ぎて耐えられなくて、オレは「じゃあっ」って手を挙げて、逃げるように店を出た。
「あっ、レン!」
 阿部君が呼んだの聞こえたけど、余計に照れて、立ち止まったりできなかった。

(続く)

[*前へ][次へ#]

20/47ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!