Season企画小説
ギャップX・4
お仕事、邪魔かなぁと思って行くの控えめにしてたけど、そんなことなかったのかな?
ずっと阿部君のことが気にかかってる。
「やっぱ、写真より実物の方がイイな」
1週間ぶりに会ったコンビニで、耳元でぼそっと言われて、かすめるようにキス、された。
不意打ちのキスに慌ててよろめいたら、「お客様ー、大丈夫ですかー?」って。ニヤッと格好よく笑われて、またドキッとした。
そのくせ、レジ売つ時には、はーって大きなため息ついてるし。
寝不足なのかなって、どうしたのかってメールしたら、「何でもねぇ」って。
でも、何でもないって感じじゃなかったし。阿部君、青空が似合う感じの人だった、のに。曇ってる感じなの、気になるよ、ね。
やっぱり、この間の15日、置き去りにしちゃったのが悪かったの、かな?
一緒にうち、出れば良かった?
合いカギ渡して、「待ってて」って言うべき、だったかな?
でもじーちゃんに、「合いカギ、トモダチに渡したい」とか言ったら、絶対うるさく言って来るだろうし。「どんな人間か、会わせなさい」とかなったら、きっと阿部君に迷惑かかっちゃう。
それはヤダし、でも合いカギ欲しい気もするし……。どうしようと思ってコンシェルジュさんに訊いたら、「手配致します」って言って貰えてよかった。
なんか、特殊なカギらしいんだけど、難しいことはよく分かんない。
1週間くらいかかるって言われたんで、ホッとしてお任せすることにした。
その1週間の間に、例のTV番組の打ち合わせがあった。
TV局の受付で名前を書いて、首からかける通行証みたいなのを貰う。
おっかなびっくりで廊下を進み、向かった先の会議室には、もう結構な数の人がいた。
ロの字に配置された机に座って、プロデューサーさんの話を聞く。
簡単な自己紹介があったけど、ホストとか、宅配業者とか、バーテンダーとか、ホテルマンとか……色んな業界の人がいるみたい。
ふえー、って感心しながら聞いてる内に、オレの番が来た。
「じゃあ、次」
そう言われ、慌ててガタッと立ち上がる。
コレクションのオーディションなら、いっぱい自己アピールしなきゃいけないんだけど、こういうTVのお仕事で、どこまでそれをやればいいのか分かんない。
目立ちたくもなかったから、短くすませた。
「レンです。モデル、です。よろしくお願い、します」
ペコって頭を下げてまた座ったら、「もうちょっと話そうよ」ってスタッフの人に言われて、すっごい焦った。
「モデルだって自己アピールが大事でしょ?」
って。
確かにそうなんだ、けど、むしろ大事なのはボディランゲージ、だし。そういう勉強はした、けど。
「え、と、でも、服が主役、だから……」
そう言うと、なんでか爆笑された。「確かにねー」って。
こんなとこでキョドるのもどうかと思ったから、心の中だけで盛大にキョドって、黙ってイスに座り直した。
ウケたのか、笑われたのか、それも分かんなかった。
真っ赤になってんのは隠しようがなかったけど、もうなんか、どうでもいい。
トークに不向きっていうのは、分かってくれたと思うし。本番さえ話を振らないでくれれば、それでいい。
もう、とにかく恥ずかしくて、早く終わって欲しかった。
帰りに、なんかイベントのチケットをお土産に貰った。
アクションショーと、レストランの割引券のセットを2枚。
アクション俳優みたいな人、今日のメンバーにいた、かな? よく分かんないけど、ドキッとした。
だって、日付が14日までで――。
阿部君を誘う口実になるかな、って、思った。
口実がないと誘えないって、変、かな?
映画の試写会とか、この間のお土産とか……コレ、とか。でもオレ、経験値低い、し。
こうやって口実つけて誘うだけで、もういっぱいいっぱいなんだ、けど。
――14日、空いてますか? イベントのチケット貰ったから、一緒にどうですか?――
阿部君にさっそくメールして、ドキドキしながら返事を待つ。
阿部君は今、バイトかな? いつも大体何時に終わるんだろう? 14日もバイトかな?
事務所に寄って、今日の会議の報告をして、次の仕事の連絡を受ける。
イベントのポスター撮影に、それから東京コレクションのオーディション2次審査、と、今週もぽつぽつ忙しい。
毎日仕事って訳じゃないけど、予定時間過ぎても終わらないことなんかザラだから、体力勝負だなぁって思うとき、ある。
今日のTV局の打ち合わせ会議も、ただ座ってただけだったけど、すっごく疲れちゃった。
疲れた時には、甘いモノ、食べたい。
ケーキ屋さんでケーキ1個だけ買うのは恥ずかしいから、やっぱりこういう時は、コンビニが便利だ。
看板の明かりに誘われるように、ふらっと阿部君の店に足が向かう。
「いらっしゃいませー」
自動ドアを入ると、いつもの店長さんの声がした。また阿部君はカウンターにいなくて、顔見たかったのになぁってがっかりした。
ドリンクの冷蔵庫の前をくるっと回り込んで、いつものようにデザートコーナーの方に向かう。
どら焼き系のってある、かな? そう思って、キョロッと棚を見回した時、マナーモードにしたケータイが、ポケットの中でブゥンと震えた。
画面を見ると、阿部君からの短いメールで。
――会いたい――
ドキッとして、胸がじわっと熱くなる。「オレもだよっ」って伝えたくてたまらない。
とっさに住所録開いて、阿部君に電話を掛けると、ワンコールで出てくれた。
『はい』
耳に心地いい低い声が、ケータイの向こうから聞こえた。
そんだけで嬉しくて、うひっと笑う。
『今、どこ?』
阿部君の声に、店長さんの「いらっしゃいませー」が重なった。
耳からもケータイからも聞こえて、おかしい。きっと阿部君にも聞こえてる。
「どこで、しょう?」
そう言ったオレの声に、また、店長さんの元気な挨拶が重なった。
『ありがとうございまーす』
電話の向こうから重なる声。
『レン!?』
阿部君の声も、重なって。
ケータイを耳に当てたままレジカウンターに目を向けると、同じくケータイ片手の阿部君が、レジ奥のドアから飛び出して来た。
嬉しそうに笑われて、またドキッとした。
(続く)
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