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Season企画小説
ギャップW・5 (完結)
 ビンからぼたぼたとチョコを振り落したレンだったけど、やっぱ思った通り、あんまたくさんは食べらんねーらしい。
「ふ、太ると、スタイリストの、先生、に、怒られる」
 って。
 いつも一番キレイなシルエットになるよう、衣装を管理して貰ってるからには、モデル自身も自分のサイズを、きちっと管理しなきゃなんねぇって。
 プロ意識とかプライドとか、そういうのがちらっと垣間見えて格好いーな。
 レンからそうやって、仕事の話なんか聞くの初めてだったから、なんか興味深かった。

 普段は夜9時以降、食べねーようにしてるらしーのに。
「きょ、今日は特、別」
 そう言って、一緒にチョコを口にしてくれんのも嬉しい。
 特別って、今日が特別? オレが特別?
 抱き締めて問いただしたくなんのを抑え込み、平気なフリでチョコのアルミ包装を剥がす。
 1個がデケェ。
 アルミ剥がしてる間にも、ふわんと洋酒の匂いがした。
 先にチョコを口に入れたレンは、うわって感じで目を細めてる。

 でも、チョコレートボンボンって、前にも食べたことあるけど、んな強いモンじゃなかったよな? モロ酒が入ってる訳じゃなくて、とろっとした感じに加工されてて……。
 と、思いながら半分かじる。
 断面図が見たくて、ただそれだけの理由だった、けど。
「うわっ!」
 かじった残り半分から、だらっと液体が手にこぼれた。

 つんと酒の匂いが鼻につく。
 ウソだろ、これ、そのまま酒が入ってる!? しかも1個がデケェからかなりの量だ。
「レン、ワリー、ティッシュか何か……」
 オレは慌てて腰を浮かせ、隣のレンに声を掛けた。
 酒はつまんだままの半欠けチョコからたらたらとこぼれ出し、指を伝って手首まで届く。
 ヤベェ、ととっさに舐めようとすると――。

 ぐいっ。手首が引かれた。

 ハッと顔を向けると、直後、ぺろりと手首に舌を這わされる。
 生温かくてザラリとした感触に、電流が走る。
「れん……」
 オレの手首をぎゅっと掴み、こぼれた酒を舐め取るレン。手首から手のひら、指にまで、丹念に這わされる赤い舌。
 最後に、つまんだままの半欠けチョコをぱくりと奪って、長いまつ毛がぱさっと上がった。

 上目使いにオレを見上げる、その顔がほんのりピンクに染まっててエロい。
 とろっと熱に溶けたみてーに、うるんだデカい目もエロい。
 じわっと緩んだ口元もエロい。
 薄い唇も、赤い舌も!
「レン!」
 
 飛び付くように肩を掴み、ソファベッドに押し倒す。
 薄い唇はキス待ってるみてーに開いてて、オレは迷わず口接け、そこに舌を捻じ込んだ。
 濃厚なチョコの匂いと、酒の匂い。入り混じった甘い味。
 柔らけぇ髪をかき混ぜながら、夢中で舌を絡め合う。
 息が荒い。オレも、レンも。
 仕事ですることもあんのかな? ピアス穴の幾つか空いた耳たぶを触ると、レンが上ずった声を上げた。

 長いまつ毛がひくっと動いて、琥珀色の瞳が覗く。
「レン……なあ……」
 上から覗き込みながら、頬を撫でて名前を呼ぶと、甘えるように「もっと」って言われた。
「もっと、チョコ」
 チョコかよ、とか思いつつも、こっちだって余裕がねぇ。
 ガラステーブルに目を向けると、コーヒーカップの横、さっき豪快に散らばせたチョコが、金に光って目についた。
 手を伸ばして1つ掴み、性急に薄いアルミを剥がす。
 チョコを軽く口にくわえ、ゆっくりと顔を寄せると、レンがとろけるように笑って口を開いた。

 レンの口にくわえさせ、そのまま深くキスをする。
 軽く噛んだだけでチョコから洋酒が浸み出して、レンの口の中に広がる。
 オレはそれを舌で混ぜ、チョコと絡め合い、貪った。
 レンのノドが、こくりとエロい音を立てた。
「ん……」
 甘いうめき声。
 レンがゆっくり両手を伸ばし、オレの首に縋り付く。
 全身がぶるっと震えた。

 これ、誘ってるよな?

 右手で髪を撫でながら、左手をパーカーの下に這わす。
 想像通りの滑らかな肌と、整った腹筋。そっとめくり上げると、雑誌で見たままの白い肌、極上の体が現れる。
「はっ……レンっ」
 たまらずもっかいキスすると、レンが誘うようにオレの髪を撫でた。
 チクショー、煽り過ぎだっつの。
「なあ、レン、いーよな?」
 尋ねながら、パーカーを大きくずり上げる。
 ムダ毛なんて1本も生えてねぇ、ムダ肉もついてねぇ、キレイな胸板に目眩がした。
 今すぐ所有印散らしてぇのを理性でこらえ、茶色い乳首に口接ける。
 ねっとりと舐めてやったら、オレの下でレンが身じろぎをした。

「ふぁ……」
 甘い喘ぎ声。ガツンと股間に響いて、おかしくなりそうでヤベェ。
 レンは両腕で庇うように顔を隠し、甘えた声で「もっと」つった。
 もっとって、何だ? チョコ? キス? それとも、この先のコトか? 違うって言われても、止めらんねーぞ?
 夢中で肌を撫で回し、所構わずキスをする。
 今だけはコレはオレだけのモノだって、指を這わせ、唇を這わせ、舌を這わせて存分に味わう。
 「ダメ」って言われたって今更遅いし。
 火を点けられて煽られて、いつ爆発してもおかしくねぇ。

 レンだってほら、イヤがってねぇ。
 顔を両腕で庇うように隠したまま、オレに身を預けてる。

 上等そうなスウェットのウェスト、蝶結びにされた平紐をほどきつつ、オレは「レン」と優しく名前を呼んだ。
 返事はねぇ。照れてんのか?
 きっと真っ赤になってんだろう、エロ可愛い顔を覗き込むと――。

「――え……?」

 ぷしゅー、という音が、耳に聞こえてギョッとした。
「おい?」
 イヤな予感に息を詰め、顔を隠してる腕をそっと外すと、案の定。レンは口を無防備に半開きにして、ガキみてーな寝息を立ててる。
 ぷしゅー、くー。ぷしゅー、くー。って。冗談じゃねーっつの。
「レン、起きろ!」
 頬を軽く叩いても、レンはぴくっとも動かねぇ。
「ちょっと、待てって。レン!」
 声を大きくして、肩をパンパン叩いてみたけど、それでもやっぱダメで。

 寝てるヤツに襲い掛かる程、オレはまだ酔ってなくて。

「ウソ……だろ」
 ガックリと肩を落としながら、ずり上げたパーカーをそっと戻して、目の毒でしかねぇ肌を隠す。
 寝顔の写真撮ってやろうとか、裸の写真も撮っとこうとか、そんな余裕が出てくんのは、まだもうちょっと先のコトだ。
 行き場のないエネルギーと、失望と、諦めと、それでも減らねぇ想いとが、ぐるぐる体中を駆け巡る。
 最大のチャンスだと思ったのに、何だコレ。何の罰?
 けどオレだって本気だし。こんな状態で既成事実とか、卑怯な真似はしたくねぇ。

「くそ、レン、覚えてろよ」

 捨て台詞と共に立ち上がり、ふらっとリビングダイニングを後にする。廊下に出て、あちこちのドア開けるくらいは許して欲しい。
 今はトイレに籠りたかった。

   (完)
 

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