Season企画小説
平穏祈願・前編 (2014水谷誕・原作沿い高1)
高校生にもなると、誕生日だっていってもそう特別なことは無い。
お年玉は貰ったばかりだし、ご馳走も食べたばかりだし。親からは精々、ケーキを買って来て貰えるくらいだ。
バッチリ冬休みの最中なせいもあって、存在感も薄いんだろうな。日付変わった瞬間のバースデーメールも、割と忘れられがちだった。
だから、日付変わってすぐに阿部から電話貰った時、嬉しくてつい取っちゃったんだ。
だって、同じクラスだし、同じ野球部だし、教室でも色々フォローしてやってるしさぁ、当然気にかけてくれたんだと思うじゃん?
用がある時以外、話すどころか目も合わさないようなヤツだけどさ。意外と仲間思いなとこもあるんだなー、って感動すらしちゃったね。
けど――。
『あけおめことふら』
開口一番、電話の向こうでそう言った阿部は、オレの返事も待たずに『初詣行こうぜ』と言った。
「はあー? 初詣? いつ? っていうか、『ことふら』って何?」
『なんで今電話したと思ってんだよ、行くなら今だろ、出て来いよ』
阿部は自分勝手にもそう言って、電話口でふっと笑った。
ゾッとした。
真っ黒な笑みを浮かべてんのが、リアルに想像できたね。
なんでオレ、新年早々……つーか誕生日早々、そんな黒いのと夜中に出掛けなきゃいけない訳?
3が日はさっき過ぎたのに、こんな夜中に初詣ってアリ?
いや……ないよね……?
っていうか、深夜徘徊とか言われかねないよね?
「イヤだよ〜、なんでオレが」
ややキッパリ断ると、『お前の為だろ』とか言われた。
『今年はフライ落とさねーよう、祈願しに行くぞ』
って。大きなお世話だよ! 「ことふら」ってそういう意味!? オレ、フライ落としたの、三星戦の時だけですけど?
そう言うと、阿部は『はぁ〜?』と嫌味っぽい声を出した。
『じゃあ、言い直してやるよ。ことえら。今年はエラーしねーように』
ぐっ、と言葉に詰まったね。確かにオレ、去年、チームの中でも1番エラーが多かった。トンネルはさすがになかったけど……ゴロを取り損ねとか、何度もあった。
夏の終わりにモモカンから受けた特別守備練習は、当分忘れられそうにない。
そんなオレの守備祈願……正直心が痛むけど、でも、夜中の0時はマズイでしょ〜。
それ以前に、阿部と2人でってのがもう有り得なく思えて来てるけど。
『ほら、行くぞ。支度しろよ? 1時に迎えに行くから』
当の阿部は、オレの気持ちなんかお構いなしで、勝手に話を仕切ろうとしてる。
いやいや、オレまだ「行く」って言ってないけどね?
「えー……」
オレは必死で言葉を繋いだ。黙ってたら、ホントにあと1時間もしないうちに、阿部が迎えに来てしまう!
夜中の1時にピーンポーンと鳴る呼び鈴、ドアを開けたらそこには笑みを浮かべた阿部がいて……って、ナニソレ、どんなホラー!?
「あー……いや、ちょっと夜中はやめようよ」
ホラー展開を回避すべく、オレは懸命に言葉を尽くした。
いや、尽くそうとした。けど。
『じゃあ、朝ならいーんだな?』
予想外にあっさりと譲歩されて、拍子抜けしたオレは思わず「いいよ」って言っちゃった。
『じゃあ5時な』
って言われて「5時!?」って思ったけど、まあ1時よりはマシだ。
「あっ、ピンポンはしないで、オレ5時にうちの前まで出とくから」
最低限の約束した後、阿部は予想通りあっさりと電話を切った。はぁー、とため息をつく。
時刻は1月4日、午前0時8分。
なんでオレ、誕生日の早朝に阿部と――?
しみじみと考えてみるけど、結局理由は分からなかった。オレのエラー祈願だとか、そんな理由は信じたくなかった。
ろくに眠れないまま、約束の5時。約束の時間ピッタリに、阿部はうちの前に現れた。
黒のロングコートに暗い色のマフラー巻いて、黒いブーツ履いて。ホント黒いね。
日の出は確か6時50分頃だから、夏とは違ってまだまだ辺りも真っ暗だ。
「行くぞ」
阿部はエラそうにそう言って、真っ暗な道をずんずんと歩き出した。
「待ってよ〜、どこ行くのさ?」
慌てて追いかけると、「ふん」と鼻で笑われてムカつく。
あのね、今日オレの誕生日なんだけどね?
「神社行くに決まってんだろ」
って。分かってるよ、そんなこと〜。どこの神社行くのかって訊いてんじゃん?
もう〜、行く前から疲れる。
「で? なんでオレなのさ? いや、迷惑とかそういう意味じゃないけど……もっと他にいるじゃん? 三橋とか」
オレがそう言うと、少し先を行ってた阿部がピタッと足を止めた。
なに? と思ったら、不機嫌そうな声で、低くうなられる。
「アイツの話はすんな」
「……えっ?」
空耳かと思って訊き返したけど、阿部はそれ以上何も言わず、ムスッとして早足で歩き始めただけだった。
……あれ、何かあった?
イヤな予感に、ぶるっと背筋が震える。寒さのせいだけじゃ絶対にない。
だって三橋は――うちの野球部のエースで、男で、阿部の恋人でもあったから。
男同士でどうなの、とか、そういうの思う人もいるだろうけど、オレら関係者に言わせれば、2人一緒にいてくれないと、ハラハラしちゃって仕方ない。
互いが互いのストッパーになってるっていうか、われ鍋にとじ蓋っていうか。つまり、ペアなんだよね。
その運命の相手の三橋のことを、「アイツの話はするな」って!? ウソでしょ、阿部ぇ!?
でも同時に、なんか合点がいった。これか、と思う。
おかしいと思ったんだよ、阿部が夜中にオレを呼び出すなんて。そうか、三橋のせいなんだね?
どうせ、阿部の方が無神経なこと言って、三橋を泣かせたとかそんな感じなんだろうけど。ご指名を受けたってコトは、頼りにされてるってことだしね?
この際、愚痴の聞き役でもキューピッドでも、なんでもやっちゃうよ?
オレは、そう自分を奮い立たせ、阿部の背中を追い掛けた。
(続く)
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