Season企画小説
期間限定で別れようと言われたら・2
※オリキャラが出ます。苦手な方はご注意下さい。
90分授業、15分休憩、90分授業。昼メシ食って午後から学生実験で、その後は研究室。
理系の4年生ったら、どこでも同じだと思うけど、オレの生活は大学メインだ。
担当教授の熱心さにもよるし、研究内容にもよるんだろうけど……うちの研究室では、一日終わんのが大体、夜の9時、10時。
もう平日にバイトなんて入れらんなくって、土日限定で、塾講師だけやってる。
三橋は春季リーグの真っ最中だから、ずっと帰って来るの遅いし、土日も試合だ。
飯だってなかなか一緒に食えてねーけど、でも夜に一緒に寝るだけで、充実感はまるで違う。すれ違ってても、気持ちは寄り添ってる感じ。
三橋が、一緒に寝るのにこだわってる理由が、最近になってよく分かる。
セックスも会話もしねーで、ただ横になって眠るだけでも、温もりとか匂いとか感じて、そんだけで安心できるんだよな。
だからうちには二部屋あるけど、寝るのは専らオレの部屋の、ダブルのマットレスの上だった。
研究にひと段落ついたので、器具を洗って、今日の分をおしまいにする。
「先生、お先に失礼させて頂いてよろしいでしょうか?」
一応教授に聞いてから、「うん、帰りなさい」と言われて、研究室を後にした。午後8時。この時間、残ってる奴はまだ残ってるけど、一番乗りで帰るって訳じゃない。
オレは駅まで歩きながら、ケータイメールをチェックした。
着信なし。
あれ、三橋、まだ帰ってねーんかな?
取り敢えずオレから、「今から帰る」って送信する。
駅で電車を待つ間に、三橋から返信が来た。
――今夜は彼女と食事して帰るから、晩ご飯は適当に食べてね――
そうか、三橋は誰かと外食か。
じゃあメシどーすっか。でも作るの面倒くせーし、カレーハウスでも寄ってくかな……。そんなこと考えながらケータイを閉じようとして、待てよ、と思う。
何か、変じゃなかったか、今のメール?
もっかい読み直す。
――今夜は彼女と食事して帰るから、晩ご飯は適当に食べてね――
今夜は、何だって?
彼女? 何かのドッキリか?
即行で電話を掛けたかったが、電車が来ちまった。乗り過ごして電話するかどうか、一瞬迷ったが、結局乗り込むことにする。
何つって怒鳴るか、それとも優しく問い詰めるか?
電車に揺られながら、じりじりと考える。
いや、駅だって、無人じゃねーんだし。誰が見てっか分かんねーんだから、怒鳴んのはマジーよな。冷静に冷静に……。
そう心に言い聞かせながら耳に当てたケータイから流れたのは、素っ気無い女の機械音声。
『お客様がおかけになりました電話番号は、現在、電波が届かないところにあるか、電源が……』
電源が、切られているか?
三橋。
てめー、オレを怒らせたな?
三橋が帰って来たのは、夜9時を少し過ぎた頃だった。
ダイニングチェアに座って待ち構えてたオレは、鍵を開ける音に玄関まで飛んでって、仁王立ちで出迎えた。
あいつはビビッてキョドってたけど、オレもビビッて絶句した。
三橋が、女連れだったからだ。
「廉様の同居人の方ですか?」
女が、頬を染めてオレを見上げた。
同い年くらいか? 背が低くて、線が細くて、三橋より色が白い。つーか、細い。ワンピースから伸びる腕も、首も、折れそうなくらい細い。
「あ、阿部君、しょ、紹介するよ。オレのカノジョの、岩清水さん、だ」
三橋が、冷や汗ダラダラの顔で言った。
「岩清水雪子です。よろしくお願い致します」
女が、深々と頭を下げた。
オレは、なんて応えたらいい?
「ま、まあ上がって。お、お茶入れよう(阿部君)」
三橋が、絶句したまま立ち塞がってたオレの両肩を押して、小声で言った。
「(愛想よくしてよ)」
できるかっ!
そう叫ばなかっただけ、褒めて貰いてーんだけど。
大体、何だ、その大荷物。
いつものスポーツバッグの他に、三橋はでっかいボストンバッグを提げていた。そして、海外旅行帰りかってくらい大きなサイズの、キャリーバッグが二つもある。
おいおい、家出娘じゃねーだろうな?
つか、スゲーイヤな予感すんだけど、気のせいか?
岩清水と名乗った女は、ダイニングのオレのイスに座って、三橋と向かい合って紅茶を飲んだ。
ダイニングには、オレと三橋の分しかイスがない。あぶれたオレは、ダイニングの壁にもたれ、二人の会話をずっと聞いてた。
部屋に戻る気にも、リビングに座る気にもなれなかった。
正解だ。
だって、この後の展開を、逃さずにすんだからな。
「ところで、廉様のお部屋はどちらですか?」
「あ、こ、こっちです」
部屋の前に案内した三橋に、岩清水は甘えるように寄り添った。
部屋の中は、珍しく、いつものカオスじゃねーんだろう。
昨日、おととい。試合で疲れてんだろうくせに、掃除をやけに頑張ってたのは……もしかして、そのせいか、三橋?
「まあ、ベッドが一つしかありませんね」
岩清水が頬を染め、三橋のシャツの袖口を握った。
そして、三橋の胸に顔を寄せ、ねだるように言った。
「ご一緒していいですか?」
オレの、イヤな予感は的中した。
(続く)
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