Season企画小説
臆病者の誕生日・1 (2013阿部誕・大学生・両片思い)
※この話は意地とプライドとやせ我慢の続編です。
「阿部、誕生日おめでとうー!」
パチパチパチ、と拍手が聞こえ、同時に部屋の照明が落とされた。
バースデーケーキに灯ってる2本の長いロウソクを、やってらんねーと思いつつ吹き消すと、また拍手が貰えた。
長いロウソクは、1本で10年分らしい。20歳の誕生日に細長いロウソク2本って、スゲー空しい。いや、20歳にもなってロウソクがどうとかいうのも恥ずかしい。
ケーキにはご丁寧に、「たかやくん、誕生日おめでとう」って書かれたチョコプレートが飾られてるし。
どんな羞恥プレイだっつの。
しかも今日は、別にオレの誕生日じゃなかった。過ぎた後だ。12月第2週の土曜日。
けど、そんなことはここにいる全員が分かってる。これは誕生日にかこつけた、月1の定例飲み会だからだ。
メンバーは、大学の野球部同期一同。
チームメイトの誕生月にかこつけて、一人暮らししてる誰かんとこに集まって、ケーキを囲んで飲み会を開く。
誕生日のヤツがいねー月も開く。ケーキがあるかないかの違いくらいで、会費も1律1000円だった。
去年から続くこの習慣、そもそもの始まりは、叶が仕切った三橋の誕生日パーティだった。
三橋と「チームメイト」をやり直すために、上京して一緒の大学に来た叶は、中学時代とは一転、積極的に三橋に関わろうとしてた。
誕生日パーティもそうだ。幼馴染だっつーのに、1回も祝ったことがなかったらしい。
勝手だな、と思ったけど、三橋が喜ぶだろうと思って、敢えて反対はしなかった。
つーか、なんでオレが先に提案してやれなかったんだろうって、自分の気の利かなさに呆れた。
でも、悔やんでも仕方ねぇ。
オレにできるのは、せいぜい笑顔で参加してやることくらいなモンだった。
7月の叶の誕生日は、三橋が仕切った。
キョドリまくり、ドモリまくりながらもみんなから1000円ずつ徴収して、ケーキや食い物を用意した。
叶なんかのために一生懸命になる三橋にモヤッとしたけど、オレはそん時、自分の気持ちにフタをして、三橋の仕切りを手伝った。
「しゅうちゃんへ、でお願いしま、す」
ケーキ屋で、バースデーケーキのチョコプレートに、そう書くよう頼んでんのを隣で見るのは辛かった。
なんでかっつったら、オレはもうずっと前から、三橋に片思いしてたからだ。
他の男を見ねーで欲しかった。
三橋を追い掛けて上京までした叶に嫉妬してた。
けど、それでも……三橋が他のヤツを頼るとこ、見せられるよりマシだった。
2回目になる今年の叶の誕生日も、三橋が幹事をやってた。
叶に付き合ってるカノジョがいるってこと、今年は知ってたから、ちょっとは気分が楽だった。
ただ、叶への嫉妬は弱まったとしても、オレの片思いが解決するって訳でもねぇ。
相変わらずオレは、三橋が好きで――。
そしてそれは、やっぱ、実りようのねぇ恋だった。
オレがロウソクを吹き消すと同時に、パチッと部屋の明かりが点いた。
点けたのは、部屋の主である三橋だ。
前もって片付けを頑張ったらしく、部屋はさっぱりと整っててキレイで、普段の散らかりようがウソみてぇだ。
こうしてみると、オレんとこより少し広い。
「け、ケーキ、切ろうか」
紙皿をテーブルに並べながら、三橋が言った。
野球部同期は15人。だからケーキを16等分して、本日の主役だけ2切れ貰える。薄ーい2切れだ。
オレはそんなケーキ好きって訳でもなかったし、薄いの1切れで十分だったけど……三橋が四苦八苦しながら取り分けてくれてんのに、「いらねー」っつーのも悪い気がした。
三橋の手元をぼうっと見つめてると、横から軽くひじ打ちされた。
「阿部、何飲む?」
そう言って、酒の入ったレジ袋をごちゃっとオレに向けたのは叶だ。
「お前もようやく20歳だなー」
って。たった数ヶ月の差なのに、先輩面されてイラッとする。
「阿部君、カルピスチューハイ、美味しい、よっ」
三橋がケーキを切る手を止めて言った。酒が嬉しいのかケーキが嬉しいのか、頬を赤らめて満面の笑みだ。
じわっと胸が熱くなる。
けど、それもすぐに叶に邪魔された。
「それはお前が好きなだけだろ、廉」
三橋の頭をくしゃくしゃと撫でながら、叶が機嫌よく笑った。
その馴れ馴れしい仕草に、また苛立ちがつのった。
お前にはカノジョいるんだろ、と言いたくてたまんねぇ。カノジョいるんなら三橋に触るな、って。
さすがにそんなこと言っちまったら、ヤブヘビだって分かってるから――言わねーけど。
言わねーけど、ムカついた。
結局、他の部員に強引にビールを持たされて、そのままそれで乾杯することになった。
「阿部の12月生まれを祝して、カンパーイ!」
誰かの適当な音頭で、みんなが口々に「乾杯」を言う。早生まれの数人を除く全員が、アルコールの缶を互いに打ちつけた。
いくら三橋の部屋が広めだっつっても、実家のあの部屋ほどじゃねぇ。15人も入るとローテーブルも邪魔だし、さすがにキツキツだ。
けど、その狭さも楽しさの1つなんだろう。誰からも「狭い」と文句が出たことは無かった。
ケーキを食い終わった面々は、早々につまみを取り出し、飲みながら食い漁ってる。
唐揚げやウィンナーみてーな肉類はあっという間になくなって、あんま食ったような気はしなかった。
フライドポテトをつまみながら、苦い炭酸をぐいっと飲み下してると、三橋がふらっと横に来て座った。
「あ、阿部君、ビール、どう?」
伺うように訊かれて、ドキッとする。
周りがうるさい中で話そうとしてるせいか、いつもより距離が近くて緊張した。
オレの顔、赤くなってねーよな?
気になっても鏡なんか見れねーけど、せめて酒のせいだと思って欲しくて、もう一口ぐいっと煽る。
「あー、ビール苦ぇーな」
顔をしかめてそう言うと、三橋が「だよ、ねっ」と言って笑った。
その手には、さっき美味いって言ってたカルピスチューハイが、しっかり握られてる。
「それ、美味いのか?」
訊いたのは、特に意味があった訳じゃなかった。
ただ、カルピスって言うからには甘そうで――三橋に似合ってんな、と思っただけだった。
好きだと思う。
回し飲みなんか、高校時代から何度も経験してるのに。
「飲んでみ、る?」
無邪気に赤い顔で訊かれて、一瞬くらっと目眩がした。
(続く)
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