Season企画小説
プレゼント・中編
スポーツタオルの後はバッティンググローブ。その後は何か、キーホルダーやイヤホンジャックみてーな小物を眺めて、2人はまた何も買わねーまま、スポーツショップを出て行った。
買い物に来たっつーより、まるで買う物を探してるみてーだ。
それか、ウィンドウショッピングか。
……デート、か。
エスカレーターを乗り継ぎ、吹き抜けになってるフロアを縦横に行ったり来たりして。
キョロキョロと店を覗いて回り、あちこち入ってはすぐに出て。
たまに小物を物色しては、話し合い、笑い合って――。
泉が楽しそうなのもムカつくけど、三橋が楽しそうにしてんのも気に食わねぇ。
「マフラーなんかどうよ?」
とか。
「手袋もよさそうじゃね?」
とか。
泉の提案に、三橋が感心したような目を向けてんのも、ムカついた。
服買いに来たんじゃねーのかよ? だったら服屋だけ覗いとけ。「いい服の日」はどうなった? それともただの口実か?
イライラして大声で叫びてぇ気分。
今すぐ出て行って、割り込みてぇ。「オレを見ろ」って怒鳴りてぇ。
けど、分かってる。
そんな真似したって三橋が――オレのモンになんかなりそうにねぇって分かってた。
1時間以上巨大なモール内をうろついて、結局2人は、最初に入った服屋の中に戻ってった。
ガラス越しに中を覗きながら、何やってんだと我ながら思う。
親からは「どこに寄り道してんの」とかメール来るし、腹も減って来たし、なんか情けなくてため息が出た。
一方の三橋は、マフラーやニット帽なんかを鏡の前で試すがめすしてて、時々泉と笑い合いつつ、真剣な顔で選んでた。
たかが小物1つ選ぶのに、なんでそんな真剣なのか理解できねぇ。泉の勧める奇妙なのはともかく、紺のと黒のとじゃそう変わんねーし。
いっそどっちも買っちまえ。そう考えながらガラス越しに睨みつけると、まるでオレの言葉が聞こえたみてーに、三橋がたたっとレジに向かった。
はーっと息を吐く。長い買い物だった。
けど、会計終わったら、もう出て来るだろう。
オレは入り口付近の柱の陰に隠れ、三橋と泉が店を出るのを見守った。
「うおっ、泉君、ツリー、ある!」
三橋が店を1歩出るなり、斜め上を見上げて大声で言った。その首にはさっきまでなかったマフラーが、ぐるんと大雑把に巻かれてる。
あれ、自分の買い物だったんか? 紺か黒か散々迷ってた、黒の方だ。
じゃあ紺の方は……と思って見たら、店のロゴの入った紙袋を手に提げてて、やっぱ買ったんだなと分かった。
「今気付いたのかよ、ツリー」
泉が呆れたように言った。
けどその目は優しくて――三橋のマフラーを巻きなおしてやる、さり気ない手つきも優しかった。
泉の手が離れんのを待って、三橋が言った。
「今日は、ありが、とう」
「いーよ、オレも楽しかったし」
ニヤッと笑う泉の言葉に、ウソはねぇだろうと分かる。
「この後どうする?」
訊きながら、三橋の柔らかそうな頭を撫でる、男の仕草にイラッと来る。
けど、もっと衝撃を受けたのは、三橋の口から出た次の言葉だ。
「け、ケーキ、食べに、行こう! 泉君、誕生日だ、から、オレ、奢る!」
三橋は顔を赤くして、言い出したら聞かねー時のような目つきで、泉の答えをじっと待った。
「……知ってたんか」
照れを隠したような、ぶっきらぼうな声が響いた。
照れも喜びも隠しきれてなくて、ジリジリと胸が焦げる。
1時間もかけて、何買ったかと思ったら泉へのプレゼントか? だったら本人の勧めるダセェの買えばよかったんだ。
オレはもう、それ以上見ても聞いてもいらんなくて、耳を塞いで目を逸らした。ゆっくりと移動してく2人の後を、追い続ける気力もねぇ。
……帰ろう。
2人の去った服屋の前を、ふらふらと歩いて上を見る。4階まで吹き抜けになったホールには、巨大なツリーが立っていた。
もう12月だな、と思った。
クリスマスもあの2人は、ここでデートをするんだろうか?
その前に、オレの誕生日がある事を――三橋は知っててくれるだろうか?
もし誕生日に誘えば、オレとも……?
そう考えて、いや、と首を振る。望みの薄い夢なんか、はなから見るつもりなかった。
(続く)
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