Season企画小説
プレゼント・前編 (2013泉誕・原作沿い高1・片思い)
11月も終わりに近付き、野球部での練習メニューもオフシーズン用のものへとシフトした。
技術練習メインだった内容がトレーニングメインになり、技術練習はおにぎり休憩を経て、じっくりウォーミングアップしてからになる。
トレーニングに加え、栄養・休養も体をデカくするには大事なんだ、と説明を受けたのは先日のことだ。
練習が終わるのも早くなって、放課後にかなり余裕が生まれて来た。
三橋と泉との会話を耳にしたのは、そんな夕方のことだった。
「今日、どうだって?」
「う、うん、行っていい、って」
こくこくとうなずく三橋に、泉は「じゃ、決まりだな」ってニヤッと笑ってる。その距離が近くて、ズキッと胸が痛む。
別に、うらやましい訳じゃねーけど。近いと思った。
田島を含めた9組3兄弟で、どこか寄り道でもするんだろうか? あいつらは野球部の中でも特に仲がいい。
うちの7組だっていい距離感だとは思うけど、こんな風に誘い合って買い物に行ったりはしなかった。
「へぇ〜、どっか行くの?」
水谷のゆるい質問に、「ふ、服、買いに行くんだ、よっ」と三橋が答えてる。
「おー、今日は『いい服の日』だからな」
泉のセリフに意味分かんねぇ、と内心思いながら、オレは手早く着替えを済ませた。話を聞いてると、余計にモヤモヤが募る気がした。
部室を出ると、少し肌寒かった。まだ6時だが、外はもう真っ暗だ。
「レンタルショップ行こうぜ」とか「コンビニ寄るか?」とか、誰かの声を聞きながら、ぞろぞろと自転車置き場に移動する。
いつもの帰り道の光景だった。
あれっ、と思ったのは、田島が早々に「じゃーな!」と言ったからだ。
田島の家は学校のすぐ横だから、寄り道しねーでさっさと帰っちまう日も当然ある。けど、今日は……買い物行くんじゃなかったのか?
ハッとして振り向くと、三橋と泉が並んで田島に手を振ってた。
「また、あし、た!」
無邪気に笑う三橋を、泉が熱っぽい目でじっと見てる。
まるで鏡を見せられたような気がして、じりっと胸が焦げた。
オレが三橋に、バッテリーを組む相棒以上の感情を抱くようになったのは、秋大の頃からだった。
いや、自覚してなかっただけで、ホントはもっと前に惹かれてたんかも知んねぇ。目が離せなかったし、気付くといつも三橋のことばっか考えてた。
ただ、それでどうこうするつもりはなかった。
男同士だし、甲子園目指すからには、恋愛は二の次だと思ってた。
けど……。
「じゃ、行くか」
三橋に顔を近付け、笑い合ってる泉の姿を見ると、どうしようもなく焦った。
ヤベェと思った。奪われたくねぇ。
「ねぇ、阿部はコンビニ……、阿部?」
水谷の声を振り切って、オレはそっと三橋らの後を追い、自転車を走らせた。気付かれたらどう誤魔化すかとか、そんなことも頭になかった。
数十分後到着したのは、国道沿いにできたばかりの大型ショッピングモール。
オレも来たのは初めてだが、三橋も初めてだったんだろうか、歩きながらキョロキョロしてる。
おい、よそ見するな……と言いかけて、口を閉ざす。泉が三橋の肩に腕を回した。
一瞬、今すぐ背を向けて回れ右しようかと思った。いや、あいつらの間に入り込み、無理矢理その腕をどけさせるべきか。
ジリジリと胸を焦がして動けねーでいると、2人はオレに気付きもしねーで手前の店に入ってく。
服買いに行く、との言葉通り、服屋みてーだ。よく聞く名前の店だった。
さすがに店内まで入ってったら気付かれるかと思って、ショーウィンドウ越しに中を覗く。
広い店内には身長より低い棚がずらっと並んでて、中の様子が一望できた。
2人の様子も丸見えで。三橋と泉は棚から棚を移動して、シャツやパーカーを眺めたり、触ったり、指さして笑い合ったりして過ごしてた。
結局、そこでは何も買わなかったみてーだ。手ぶらで出て来た2人は、次に向かいのスポーツショップに入ってく。
今度はオレも店内に入り、物陰から様子をうかがった。
「た、タオルとかどう、かな?」
「まぁいーんじゃねー?」
三橋の言葉に適当に相槌を打ちながら、泉がスポーツタオルを物色する。
「おっ、コレとかどうよ?」
そう言ってヤツがびらっと広げたのは、黒地に黄色の星模様で、三橋が「う、えっ」と言葉に詰まってんのが可愛かった。
くそっと思う。
なんで今、三橋の横にいんのがオレじゃねーんだろう?
けど、仮にオレと一緒だとしても、そんな風に楽しそうにしてくれるとは限らねぇ。
三橋も今では自分の意見を言うし、大声出しても逃げねーし、嫌われたり怖がられたりしてねーとは思うけど。
でも、泉や田島と一緒にいる時みてーに、リラックスした笑顔は見せてくんねぇ。
野球以外であんな風に、自然に横に立てる自信がなかった。
(続く)
[*前へ][次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!