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Season企画小説
Iの襲来・7
 夜は、外に食べに行くことになった。
 パスタを食べたのが、ランチには少し遅い時間だったので、夜もいつもより少し遅めだ。
 泉は「三橋の手料理がいい」と言ったのだが、それに阿部が猛反対したせいだ。
「パスタとサラダ食っただろうが! あれだって後悔しまくってるっつーのに、これ以上は有り得ねぇ!」
 威嚇するように大声を出す阿部に対し、泉の方も負けてはいない。
「てめーの意見なんか聞いてねーんだよ! 外食してーなら、てめーが1人で行って来い!」
「1人で行くのはてめーだっつの!」
 阿部と泉の不毛な争いに、三橋はただおろおろとするばかりだ。

 それでも、街を歩いている時にはさすがに声高にはしなかった。
 三橋の隣を歩くのは、阿部が断固として譲らなかったけれど、それについて泉は特に反論しなかった。
「ふん、ムキになってバカみてぇ。っつーかバカだな」
 そんな風に挑発するようなことは言うが、無理矢理割り込もうとはしない。
 むしろ、街のあちこちに飾られたハロウィンの装飾に、珍しそうに目を向けていた。
 そんな泉の様子を見て、「ああ、やっぱり」と三橋は思った。
 自分を好きだとか何とか言うのは、やっぱりただの挑発の一環なのだ。そう思って、ホッとした。

 街中にはハロウィンの飾りはたくさんあったけれど、泉はレストランのエントランスに飾られていた、透かし模様のジャック・オー・ランタンが特に気に入ったようだった。
 火の付けられたジャック・オー・ランタンは、確かに幻想的でキレイだと思う。
 日本の提灯とはまた、違った魅力があるだろう。
「スッゲーな」
 テンション高く言って、スマートホンで写真を撮った後、ついでに三橋の写真も1枚撮った。

「泉君、ランタン、好き?」
「おー、気に入った」
 泉がうなずいたので、家に帰ってから「収穫」した大きい方のカボチャで、一緒にジャック・オー・ランタンを作ろうと誘った。
「作り方、分かんのか?」
 不審そうに泉に言われて、三橋は「うん!」と自信満々にうなずいた。日本人学校でも毎年作るので、作業には割と慣れている。
 だが、阿部はそうは思ってくれないようで、ナイフを握った瞬間から「危ねーだろ、てめっ」と怒鳴られた。

 怒鳴られた上、ナイフを奪われてむうっとする。
「そんなもん、コイツにやらしゃいーんだよ」
 ふん、と小バカにしたように阿部が言った。それに反応したのは泉だ。
「ウゼーなてめぇ、カホゴ過ぎんだよ」
「カホゴじゃねーよ、大事な恋人の大事な指にケガさせたくねーってのは当たり前だろ」
 泉が突っかかれば、阿部がすかさず応酬する。
 ランタンを作っている間も、結局はずっと口論ばかりだった。


 阿部はさんざん渋い顔をしつつ、最終的には泉の宿泊を認めてくれた。
 何しろ、榛名という前例もある。
 2人の愛の巣に他人を入れたくない、などと言っても通ったりはしなかった。
「オレはソファでいーぜ」
 そう言う泉に、「当たり前だ」と阿部は冷たく言ったけれど――。
「お、オレのベッド使っていい、よっ」
 三橋は泉にそう言って、自分の部屋を指差した。

 昨年末、榛名が急に泊まりに来た時の阿部と、同じことを言ったつもりだった。
 阿部が榛名にしたように、自分のベッドを貸せばいい。そして、自分はソファで寝ればいい。
 三橋の提案に、「そうだな、そうしろ」と言ったのは、意外にも阿部の方だ。
「だ、よねっ」
 嬉しく思ってパッと阿部の顔を振り仰ぐと、ニヤッと笑い返されてドキンとする。
 絶対何か企んでる、と――そんな直感は、勿論当たりだった。

 泉に「おやすみ」を言って、阿部の部屋に引っ込んだ後。
「あ、あ、あ、あ、阿部君?」
 三橋は早々にベッドに押し倒され、戸惑いの声を上げた。
 両手をヒモで縛られる。
 その縛られた両手を頭の上で拘束されれば、いくら相手が恋人だからと言っても、怯えるしかない。
 今まで色んな体位で抱かれたし、さんざん啼かされたりしたこともあったけれど、こんなふうに縛られたのは初めてだ。
「あ、あ、あ、あ、のっ……」
 怯えた声で問いかけても、「なんだ?」と素っ気なく訊かれるだけで、拘束の理由は教えて貰えそうになかった。

 唇を重ねられ、舌を差し込まれる。
 阿部は手慣れた仕草で、キスの合間にするっと三橋の服を剥ぎ、上も下も裸にした。
 全身をゆっくりと撫でられ、キスを落とされれば、直接触られなくても勃起する。
「ふあっ、だ、ダメッ」
 びくんと体を跳ねさせながら、三橋は抑えた声で言った。
「い、泉君、がっ」

 泉の寝ているだろう三橋の部屋は、リビングの反対側にある。少々の喘ぎ声を出しても、恐らく聞こえないだろう。
 けれど、そういう問題ではない。
 万が一聞かれていたらと思うと落ち着かないし、第一、友人が泊まっている時に、こんなことは……。
 そう思って、身をよじったけれど。逆に、阿部を煽るだけだったようだ。
「いーじゃねーか、聞かせてやれよ」
 ニヤッと微笑みながら、三橋を見下ろす阿部の顔は、とんでもなく色っぽい。

 ヒザを割られ、脚をはしたなく広げられて、「ダメ」といいつつ目を逸らす。
 うやうやしく胸元に口接けられ、チリッと小さな痛みを覚えた。
「んあっ」
 思わずうめき声を漏らす。
 口を両手で塞ごうとしたのにできなくて、初めてヒモの意味に気付いた。気付いたけど、遅かった。

(続く)

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