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Season企画小説
それがオレの欲しいモノ・後編
 お昼を食べて、売店を冷やかした後、これからどうするかって話になった。
 オレと田島は、乗り物券あと2枚ずつ持ってるけど、阿部と三橋は持ってないんだよね。
 オレはチケットあげてもいいけど、誕プレにって貰った田島に「分けてあげようよ」って言っちゃうのもどうなのかな……?
 言い出せないまま園内を歩いてると、阿部がふらっとどこかへ行った。
「阿部!?」
 もう〜、黙ってフラフラしないでよね。
 一瞬焦ったけど、自動券売機を見に行っただけみたい。しばらくその前で考え込んだ後、駆け足で戻って来たんでホッとした。

「三橋、一緒に1000円ずつ出して、回数券買わねぇ?」
 戻って来た阿部が、券売機をアゴで指した。態度は不遜だけど、回数券はいい案かも。
 勿論三橋は喜んでる。
「うお、回数券か」
 赤い顔して、大きい目を更に見開いてさー。素直で可愛いよね、阿部と違って。
 その2人は、並んで券売機まで行った後、そこにあったマップを取って、一緒に覗きながら戻って来た。

「つ、次、どれ乗る?」
「何でもいーけど、もうあんま並びたくねーなぁ」
 と、そんなワガママなコト言いながらも、阿部は一緒に行動する気満々みたいだ。
 おもり頼まれた身としてはちょっと嬉しい。
 でもね、今日は混んでるし。並ばなくて乗れるものって、結構限られちゃってるけどね。

「観覧車は〜?」
 横から口を出すと、阿部に「はぁ?」とイヤそうな顔された。
「乗りたきゃ1人で乗ってろ」
「ひどっ」
 観覧車ほど、1人で乗ってて空しいアトラクションってないよね……。
 むくれてると、三橋が「お、オレ、観覧車乗りたい」って言ってくれた。うんうん、やっぱりいい子だね。
「だよね、観覧車定番だよね〜」
 そしたら田島も、「乗る乗る、乗ろうぜ!」って。

「は〜、お前ら……」
 阿部はため息とともにオレ達3人を見て、冷ややかに笑った。
「バカと煙は……」
 って。あのね、その「バカ」はお調子者のことだから! 教壇の上とか朝礼台の上に登って、奇声を上げてるようなヤツのことだからね!?
 いや、分かって言ってんのかも知んないけどさ。
 結局、観覧車は最後にって決まったけど。は〜、もう、ため息つきたいのは、こっちだよ。

 それから田島の希望で、もう1個のジェットコースターに乗ることになった。遠目から見ても行列がスゴくて、嫌がる阿部を引きずってくのに苦労した。
「並びたくねーっつっただろ」
 って。確かに、ずっと並んでばっかだよね。
 いざ並ぶと、田島はまたアイツらを2人っきりにしようとかするし。
 三橋は、ちらっちら阿部の顔見てるし。
 阿部はオレに「水谷、お茶」とか言うし! いや、買って来ませんけど?
 もう、ジェットコースター乗ってる間は、オレ、叫びっぱなしだったね。
「ああああああ――――っ!」
 って。

「水谷、ウルセー!」
 降りてから、横に乗ってた阿部に小突かれたけど、うん、お蔭でスッキリした。
「水谷、君、叫んでた、ねっ」
 三橋がてててっと駆けて来て、笑顔でオレに言った。
 自分だって田島と一緒に、両手上げて叫んでたのにね。

「うん、ジェットコースターは、叫ばないとね〜」
 オレの言葉に、三橋は「ねっ」ってうなずいて、上目使いに阿部を見た。
「阿部君、は黙って乗るの、か?」
「はあ? 当たり前だろ」
 阿部は呆れたようなフリしてるけど、目を細めて三橋を見てて……。

 ああ、もう一押し!?
 ハッとして田島を探すと、今度は田島が遠い目をして、阿部と三橋を眺めてた。
 なに、その顔? もうさ、ホント、熱あるんじゃないの?
「田島?」
 声を掛けると、田島はパチッとオレを見て、それからいつもみたいにニマッと笑った。
 ぐいっと肩に腕を掛けられ、斜め下に引かれる。
「観覧車、仕掛けるぞ」
 ああ、うん、まあ、予想はしてたけどね。
 なんたって、おもり役だし? ここまで来たら、最後まで付き合うしかないって分かってるよ。


 さすが定番だけあって、観覧車にも列ができてた。でも、回転が早いからね、すぐに順番が回ってくる。
「こんにちは、何名様ですか?」
 三橋と阿部から回数券を受け取りながら、係員のおじさんが訊いた。
「4名……」
「2名ずつです!」
 阿部のセリフに被さるように、田島が大声で言った。
 そして、2人の背中をぐいっと押して、ゴンドラに乗せてから1歩引く。
 阿部も三橋もビックリしたみたいに、揃って目を丸くしてたけど――間もなくゴンドラの扉が閉められ、外からカギを掛けられた。

 ゆっくり昇ってく2人を尻目に、オレ達も次のゴンドラに乗り込む。
 観覧車の1周は、12分とかそんくらいだっけ?
 朝、最初にジェットコースターの列に置き去りにした時より、短い時間。でも、今度は2人きりだ。
 これで――何か変わってくれるかな?
 それで、田島は満足するんだろうか?

 そもそもこんなこと考えたのは――。
「ねぇ、じれったいからってだけ?」

 ゴンドラの扉が閉まり、ガシャンとカギが掛けられて。ゆっくり景色が変わってく中、田島の顔をじっと見る。
 阿部と三橋が2人きりなら、オレ達だって2人きり。
 田島の本音の本音訊くには、今しかないって思うでしょ?

 でも。
「当ったり前じゃん、他に何があるんだよ?」
 田島は、座席にもたれて窓の外を眺めながら、いつもの調子でそう答えた。
「お前だって、じれってぇって思っただろ?」
「そりゃ……」
 まあね、そう言われれば、肯定するしかないんだけどさ。
 阿部も三橋も、互いに意識し合ってんのに気付いてないって言うか。意識してないフリが下手過ぎるっていうか……。
 どう見ても両思いなんだから、四の五の言わずにくっつけよって、やっぱ思うけどさ。

 黙ってると、田島がぼそっと言った。
「自己満足って分かってるよ」
 って。
「……でも、いつも三橋には笑ってて欲しいんだから、しょーがねーじゃん?」
 そう言われると「そっかぁ」としか言えなくて、オレも窓の外を見た。
 西の空が少しオレンジになりかけてて、陽が暮れるの早くなったなぁと思う。
 秋だねぇ。
「にーちゃんは辛いねぇ」
 ぼそりと言うと、田島はニッと笑って、「まあな」と言った。


 オレ達を乗せたゴンドラはゆっくりと頂点を通過して、三橋達のゴンドラを見下ろした。
 乗った時、確かに向い合せだったハズの2人が、いつの間にか寄り添うように隣り合って座ってる。
 手とか……繋いでないのかな?
 デバガメっぽい好奇心で窓の下を覗くけど、残念ながらそこまでは見えない。

 ふとゴンドラが揺れて、何、と思ったら田島も横に来て、2人の様子を覗き出した。
「ちゅーとかしてねーのかな?」
 って。
「いや、さすがにしないんじゃないのー?」
 むしろ、してたらビックリするよ。だって、さっきまで2人とも、片思いの顔してたのにさ。
「ふーん、つまんねーの」
 田島はそう言って、むーっと口をとがらせた。

 やってることはデバガメなんだけど、寄り添う2人を見下ろす目は、なんかすっごい優しくて。

「これ、欲しかったんだよな」

 しみじみそう言って、笑みを浮かべた田島に、オレも「よかったねぇ」としみじみ言った。
 押し付けられたおもりだったけど、花井らを恨む気持ちは、いつも間にか消えていた。

  (終)

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