Season企画小説
それがオレの欲しいモノ・中編
一体、なんでこんな真似したの?
理由を訊くと、田島は悪びれずに「だってさ〜」と言った。
「あいつらジレってーんだもん。お互い好きなのは見てて丸分かりなのにさー」
「あいつらって……」
って、訊くまでもなく分かっちゃった、誰のこと言ってんのか。阿部と三橋だね。
まあ確かにじれったい。阿部は三橋を後ろから見つめてるだけだし、三橋はっていうと、時々恐る恐る振り向いては、阿部をちら見してるだけ。
どっちかが「好き」って言ったら、それでまとまりそうではあるんだけど。でもさ、田島、忘れてない?
あいつら、男同士だからね?
けどオレがそう言うと、田島はむうっと口をとがらせた。
「分かってるよ、そんくらい! でもいーじゃん、オレ達まだ高校生だぜ? 今くらい常識なんか忘れて、思うようにしたっていーじゃん!」
どうせ世の中、うまくいかねーことの方が多いんだからさ。
……と、ぽつりと付け足すように言われて、熱でもあるのかと思った。
田島は、突拍子もない行動をとることはあるけど、色々これで考えてんだよね。
「……それは分かったけどさ、そろそろ戻り始めない? あんまり遅いと、2人とも心配するよ?」
ケータイをポケットから出して、時刻を見る。
あれから何分経ったかな? 心配って言うか……阿部がイライラしてそうだ。
イライラした阿部と2人きりなんて、三橋が可哀想かも。
「まあ、それもそうだな、ジェットコースター乗りてーし」
田島はのんびりとそう言って、元来た道をゆっくりと戻り始めた。
ジェットコースターが見えて来たところで、阿部から電話があった。
『もう階段の手前まで来たぞ! 待ってっから早くしろ』
一方的に言われて、ぶつっと一方的に電話を切られた。人の気も知らないで、マイペースなヤツだよね。はあー、とため息が出る。
っていうか、なんでオレ? トイレ行ったのは田島でしょ?
その田島は、またダッと走り出してるし!
「水谷! 早く早く!」
って。なんなの、この子、ホントに?
「もぉーっ!」
大声で叫んで追い掛けながら、「報酬が安いよっ」って誰かに文句を言いたかった。
必死で走って合流したら、阿部に「遅ぇ!」って怒鳴られた。
「どこまでクソしに行ったんだ」
って。あのね、オレのせいじゃないっての。
息を整えながらむーっとしてたら、三橋がキョドリながら心配してくれた。
「お、お腹、大丈夫?」
ああ、ホント三橋って可愛いね。優しさと純朴さに癒されるね、阿部と大違い。
「オレらがいない間、阿部にいじめられたりしなかった?」
顔を覗き込んで優しく訊くと、三橋は「ない、よっ」と首を振った。
「阿部君、優しいよっ」
正直、それはどうかなー……と思ったけど、言わなかった。
うん、余計なこと言ったら後で怖いからね。
ジェットコースターには阿部と乗った。
田島は三橋と1番前に並んで座り、2人して両手上げて、ぎゃーぎゃー騒がしく楽しんでた。
あれ、この2人をくっつけるんじゃなかったの? って思ったけど、まさか口には出せないし、仕方ない。
田島と笑顔で乗り込んだ三橋を、阿部は後ろから黙って静かに見守ってて。その横顔をちらっと見て、オレはそっとため息をついた。
確かにじれったい。
一番近くで三橋を見てるだろう田島も、こんな気分なのかな、と思った。
次に向かったフリーフォールでも、田島は同じコトしようとしたんだけど……それは阿部に見抜かれて邪魔された。
「おい、今度は抜けるなよ」
低い声で言って、田島をじろっと睨みつけてさ。どうも、さっきの下手なウソはバレバレだったみたいだねー。
ウソついて抜けた理由もバレてんじゃないかと冷や冷やしたけど、それは大丈夫だったみたい。
「ったく、オレらに並ばせてさー、自分らだけ楽しようったって許さねーかんな?」
って。
うわ、それってオレらまるでタチ悪いみたいじゃん?
けど、「誤解だよー」って説明する訳にもいかないし。ホントの目的がバレるよりいいのかな?
「ワリー、ワリー。じゃあ、今度はオレたちが並んどくから、お前らどっか行って来いよ」
田島が悪びれずに言ったけど、阿部はふんと鼻を鳴らして肩を竦めた。
「いーよ、メンドクセー」
ああ、まあ、そういうヤツだよね。
こういうさ、絶叫系のアトラクションを2人で乗ると、吊り橋効果が現れるとか聞くけどさー、どうなんだろうね?
20分ちょっとしか2人きりにできなかったけど、なんかちょっとは話せたのかな?
フリーフォールの後は空いてるベンチをうろうろ探して、持ってきた弁当を広げて食べた。
アトラクション2つしか乗ってないのに、すっごい疲れてるよ。
ベンチ探してる途中で花井らとすれ違ったけど、笑顔で手を振られただけだった。
そういや他のみんなとすれ違わないけど……避けられてんのかな?
避けられて……るんだよね? みんな巻き込まれたくないもんね?
「オレ、ソフトクリーム買ってくる―!」
「おおオレ、もっ!」
大声を上げて田島と三橋が、売店へと走ってく。その背中をまた静かに見送りながら、阿部はニコリともしない。
オレだってさー、面倒は御免だよ。巻き込まれたくないし、わざわざおせっかいするのもどうかと思うよ。
でも、そんな阿部をこの先教室でも見かけなきゃいけないのかと思うと、それもまたメンドクサイ気もする。
やっぱ誰かが、背中を押す必要ってあるのかな?
(続く)
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