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Season企画小説
それがオレの欲しいモノ・前編 (2013田島誕・水谷視点・高1)
 よく晴れた10月の3連休最終日。
 さすが行楽日和だけあって、遊園地もいっぱいなら、ジェットコースターもいっぱいだった。
 この遊園地に2つあるジェットコースターはどっちも人気で、3〜40分待つ事も珍しくない。
 行列を見て「やめようぜ」って阿部は言ったけど、それに構わず三橋を連れてぐいぐい並びに行ったのは田島だ。
 阿部が「オレは乗らねぇ」とか言い出したらどうしようかと思ったけど、2人を放置しておけないからか、大人しく一緒に来てくれたんで助かった。
「まあまあ、せっかくタダなんだし、田島の誕生日も近いんだし……」
「近いだけだろ」
 とりなそうとしたオレに、阿部の冷たい言葉が浴びせられる。

 いいけどね、もう慣れたけどね。
 でも、せっかくの部活休み、せっかくの遊園地! なのになんでオレ、この3人のおもりしなきゃいけねーの?
 引きつった笑みを浮かべながら、オレはこっそり花井を恨んだ。



――モモカンに急用ができたため、今日の練習は中止――

 そんなメールが一斉送信で送られて来たのは、今日の朝のことだった。
 花井から全員に回されたメールには、続きがあって。
――入場サービス券あるんだけど、遊園地行かねぇ? ――
 と、珍しく遊びの誘いが書かれてた。
 勿論、「行くよー」と返事した。
 集合は、9時に学校の最寄駅。
 兄弟も連れて来ていいぞ……って書かれてて、ああ、花井んちの双子も一緒なんだなーって、なんとなく察した。

 9時ちょっと前に駅に行ってみたら、もうみんな集まってた。さすが、遊びに行くってなったら早いよね。
 思った通り、花井んちの双子ちゃんも一緒だ。後、栄口んとこの弟。
 小中学生の兄弟いるのって、そんくらいだったっけ?
「あれ? 阿部んちの弟は連れて来なかったの?」
 思わず訊くと、スッゴイ小バカにしたみたいな顔で、「はあ?」って言われた。
「なんで連れて来なきゃなんねーんだよ、意味ワカンネー」
 って。
 ああ、コイツは休日も、ホント通常運転だよね。

 ともかく、みんなでぞろぞろと電車に乗って、遊園地前で入場券を貰った。後、乗り物券を1人2枚。
「えっ、貰っちゃっていーの?」
 ビックリして訊いたら、なんか、全部貰い物なんだって。確かに使用期限は、今月いっぱいだ。
「田島、お前には特別にもう2枚な」
 花井がそう言って、田島に券を4枚渡した。
「ちょっと早ぇけど、誕生日プレゼント」
 って。うっわ安いなぁ、って思ったけど、田島は喜んでた。
「えっ、マジ? くれるの?」
 大はしゃぎで「三橋、ジェットコースター乗ろうぜ」って三橋の肩に腕を回してる。

 それで満足しちゃうんだから、田島も安い男だ。だって貰い物だよ?
「いいねぇ、無邪気で」
 半分呆れつつ眺めてたら、花井にポンと肩を叩かれた。
「じゃ、水谷、あいつらと阿部、よろしくな」
「は!? なんで!?」
 ギョッとして周りを見回すと、他のみんなはぞろぞろと移動を始めてる。
 花井の両脇には、双子の可愛い妹がいて。栄口の隣には、嬉しそうにキョロキョロしてる弟がいた。

 一瞬、うん、絶句したね。
「悪ぃな」
 両手を合わせて拝むように謝られても、口元が笑ってたら意味ないからね、2人とも!?

 オレの気も知らないで、陽気に「一番人気のから攻りゃーく」って、田島はやる気満々だし。
 三橋は田島に肩を組まれて、翻弄されるがままだし。
 阿部は阿部だし。
「はい、じゃあ、お前にも」
 って、乗り物券2枚余分に貰えたって、もうため息しか出なかった。


 ジェットコースターの列に並んで、3分の1くらい進んだ頃かな、突然田島がオレの手をぐいっと掴んだ。
「ワリー、ちょっとトイレ」
「はー? お前、そんくらい我慢しろよ」
 すかさずそう言ったのは、勿論阿部だ。
 勿論田島も反論した。
「我慢できねーから言ってんだろ! お前と三橋は並んで待ってろよ。すぐシャーッと出して戻って来っからさ!」

 いや、トイレ行って来るのはいいけどさ、何でオレの手掴む訳? まさかの連れション強要?
「オレも待ってるよ〜」
 そう言ったんだけど、結局きいて貰えなくて。オレは三橋と阿部に見送られつつ、ジェットコースターの列を後にした。
 田島と小走りに移動しながら、周りを見回してトイレを探す。
 そうか、入場無料券で入ったから、チケットブースでマップ貰ってないんだっけ。って、今更気付いても遅いよね。

 キョロキョロしながら走ってると、向こうの売店の横に、赤と青のツートンの屋根が見えた。
「あれ、田島! あっちに見えるあれ!」
 指差して教えようとするんだけど、田島は聞こえてないのかトイレの方を見てくれない。
 ウソ、もしかして、もう頭の中は尿意でいっぱい? オレの声なんて入る隙間もないくらい満タン?
 ……それにしちゃ走るの速いけど。
「田島! ちょっと! どこ行くの?」
 オレの声を無視して、田島はどんどんとジェットコースターから遠ざかる。
 追いかけて、「ねぇっ!」って肩をぐいっと……したかったけど、田島相手にそんな真似ができる訳もなくて。

「田島ぁぁーっ」
 叫びながら散々走らされたオレが、ようやく男子トイレにたどり着いたのは――他のトイレを2か所素通りした後だった。
 かなりの距離を走ったね。入場ゲートがもうすぐ向こうに見えている。

「さー、まあ、ここまで来たら、なかなか帰れねーよな」

 トイレの前で立ち止まり、田島がニカッと笑って言った。
 爽やかに笑ってて、尿意のカケラも見当たらない。それどころか「走ったらノド乾いたー」とか言って、スポドリ飲んでるし!
 なに、この子!?
「トイレは!?」
 思わず大声で問い詰めると、田島はあっという間にペットボトルを空にして、ぽんっとゴミ箱に投げ入れた。そして……。

「そうだな、ついでに行っとくか」

 そう言って、悠々と男子トイレに入ってった。意味が分からなかった。

(続く)

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