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Season企画小説
大人になれないこどもの日 (大学生・こどもの日記念)
 スーパーの弁当コーナーを覗くと、一緒に柏餅も並んでた。
 そういや、こどもの日だったっけ?
 定番の白や緑の餅の他に、黄色やピンクのもある。こしあんと粒あんと、芋あんと桜あん、らしい。
 こういうの三橋が好きそうだな。そう思ったら、つい手が伸びていた。

「で……どうすんだ、これ?」
 後悔したのは、一人暮らしのアパートに戻ってからだ。
 甘いもの苦手って程じゃねーけど、好きって訳でもねーのに。
 GWの真ん中、大学は休みで、部活もなくて、ぽっかりと予定の空いた休日。三橋と会う予定なんか、勿論ねぇし。
 学校か部活かがある日なら、「買いすぎたから」ってやる事もできるけど……何もねぇ日に連絡すんのも、不自然だよな。

 一旦ケータイに伸ばした手を、ため息と共に引っ込める。
 どこからどこまでが、チームメイトとして許されんだろう? 同じ大学に入って2年目の春、オレはまだ三橋との距離を測りかねてた。
 たまに一緒になる講義で、隣に座るのはアリか? メシを誘うのは? 部活後に晩メシは? 休日に買い物は……?
 アリかナシかでぐるぐる悩み、結局何もできねーでいるのは、オレが片思いしてるせいだ。
 勇気を出して誘いをかけて、「え、なんで?」とか無邪気に言われたらと思うと、怖くて後1歩踏み込めねぇ。

 GWの予定だって訊けねーままだった。
 予定がねーならどこか行かねーか、と、誘うのがアリなのかどうかも分かんねぇ。
 こんなバカバカしい気持ち、同じ男に向けるのはおかしいって自分でも思う。
 でも……どうしようもなくアイツが好きで。
 好きでも、どうにもしようがなかった。


 買って帰った弁当を食い終わったら、途端にやる事がなくなった。
 野球以外に趣味もねーから、休日だって言われたって、やりてーことも特にねぇ。
 野球部以外に友達らしい友達もいねーと、遊びの誘いもかからねぇ。
 思い付いたように掃除を始めても、狭いワンルームじゃ、あっという間に終わっちまう。
 提出日はまだ先だけど、語学のレポートでもやっとくか?
 けど、いざそう思ってノーパソを引き寄せると、なんとなく窓の外が気になっちまう。

 イヤミなくらい、いい天気だ。
 こんな日には、三橋誘ってキャッチボールしてぇ。
 野球部のチームメイトなら、キャッチボールに誘うのはアリか? 別に、不自然じゃねーかな?
 思い立ってケータイに伸ばしかけた手を、けど、やっぱ直前になって引っ込める。
 さっきから同じことばかりだ。
「はっ」
 思わず自嘲する。我ながら情けねぇ。

 立ち上がって、ガラッとベランダの窓を開ける。
 ふわっとカーテンを揺らす5月の風に、ため息をついて空を見上げる。
 三橋がオレと同様、暇を持て余してるとは限らねぇ。
 ぼうっとしてるように見えて、実はいろんな事考えてるの、知ってる。
 オレは開けた窓をそのままに、再びテーブルの前に座った。ノーパソを手前に引き寄せて、電源ボタンを押して立ち上げる。
 提出期限は先だけど、さっさとレポート、仕上げてしまおう。
 そしたら明後日、部活の後で――「休みの間、何やってたんだ?」って、堂々と三橋に訊ける気がした。


 ピンポン、と呼び鈴が鳴って手を止めた。
 パソコン画面の時刻を見ると、案外集中できてたみてーで、もう2時間近く経っていた。
 ピンポーン。もっかい鳴った呼び鈴に、やれやれと立ち上がって玄関に向かう。インターホン取んのもメンドクセー。
「はい」
 返事しながらドアを開けると、そこに立ってた訪問者が驚いたように「うおっ」と言った。
 三橋だ。
 ドキッとしたのを顔に出さねーようにして、精一杯普通の声で「何?」と訊く。
 三橋は一瞬キョドってたけど、抱えてたタッパーをぐいっとオレに押し付けて、「作り過ぎた、から!」と大声を出した。

 緊張してんのかな? よくワカンネーけど、顔が赤い。
「あ、べ君に、食べて貰おーと、思って」
 って……そう言われてタッパーを見る。中にはいなり寿司が、ぎっしりと詰まってた。
 三橋の手作りか? さっき、「作り過ぎた」とか言った? マジ?
 じわっと感動してたら、三橋は赤い顔のまま、「じゃ、じゃあっ」って扉から1歩引いた。
 え、ウソ、帰っちまう気か?
 そう思った瞬間、オレは咄嗟に三橋の腕を掴んでた。

 驚いたみてーな顔で、びくんとオレを振り返る三橋。
 でも引き止めたのはいーけど、咄嗟に気の利いたことも言えねぇ。かといって、もうちょっといて欲しいとか、そういうセリフはガラじゃねーし。
 辛うじて思い浮かんだのが、昼に買っちまった4色のアレだ。
「柏餅、食ってかねー? 買い過ぎちまったから」

 そう、つーか元々、三橋に見せて―なって思って買ったモノだったし。

「上がれよ」
 緊張を抑えてさり気なく誘うと、三橋は赤い顔のまま、「うんっ」とうなずいてニカッと笑った。

 部屋の奥に招いてから、パソコンがそのままだった事に気付いた。
「ご、ゴメン。勉強、中? オレ……」
 三橋が不安そうに謝って、玄関を見る。「邪魔してゴメン」って。下手すりゃ帰ってしまいそうだ。
「いや、単に暇だったからさ」
 オレは、慌ててそう言って文書を保存し、ノーパソを閉じて押しやった。

「暇、だった?」
 三橋がオウム返しのように言った。
「ああ」
 冷蔵庫を開けながら答えると、「じゃ、じゃあ、明日、は?」と訊かれる。
「は?」
 なんで明日? そう思って三橋を見れば、白い顔がますます赤い。
 何だよ、その顔? オレまで赤くなりそうだ。

 明日も暇だよ、とは言いたくなくて。逆に訊いた。
「お前こそ、明日は?」

 「暇です」と言う三橋の前に、4色の柏餅を置きながら。キャッチボールに誘う為、オレは深く息を吸った。

  (終)

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