Season企画小説
エイプリルフール (シリアス注意)
4月1日、金曜日。
いつもと同じ、練習前の朝だった。
4月になると、春休みももうじき終わりって感じするよな。そんな事考えながら、ベンチで着替えてると、三橋が現れた。
「ちわっ」
ぺこりと頭を下げて入って来る三橋に、先に来てたメンバーが、次々に声を掛ける。
「はよっ三橋」
「はよー」
三橋は何でか固い顔で、ベンチの方にやって来た。
「はよ」
オレが言うと、ちょっとキョドり、少し目を逸らして返事する。
「……お、はよう、阿部君」
なんか変だ。
オレの顔も見れねーとか……1年前に戻ったみてーじゃねーか。
何で? 以前ならともかく、オレ達付き合って、もう半年になるってのに。
黙って見つめるオレに、笑顔どころか目線すら向けねーで。三橋はオレから逃げるようにして、グラウンドの田島の方に駆けて行った。
田島が三橋の肩に、腕を回す。
……内緒話をしてる。
やがて二人、くるっと振り向いて。田島が大声で言った。
「ホーコクー! 何と三橋に、恋人ができましたー!」
オレはギョッとした。
バラしてどうする!?
オレ達の付き合いは、歓迎されっとは限んねーぞ?
誰にもバレねーようにって、気ぃ付ける約束したじゃねーか!
オレは精一杯怖い顔で、三橋を睨みつけた。
ビビれ、三橋!
けど目が合った時……三橋はビビるどころか、オレに小さく笑って見せた。
何だ、そりゃ?
「阿部ー、睨むなよ。お前、黒いオーラでてんぞ」
何も知らねぇくせに、花井がオレの脇腹を肘で突いた。
「でも分かるよー、オレだってショックだもん」
水谷がゆるく言った。
「まあ、三橋のことだから当分、清い交際っぽいけどさー」
水谷の言葉に、花井もうんうんとうなずいてる。
けど、それを打ち消すように、田島が言った。
「なんと三橋、付き合って早々にヤッちゃったそうでーす!」
それには全員が驚いた。叫んだ声が「えーっ!?」と合わさる。
「マジかよ」
「うそだろ」
「スゲー、三橋」
皆が口々に感嘆する中、オレだけは言葉もねぇ。
だって、オレはそれが嘘だと知ってる。オレら、まだキスしかしてねーじゃん。
何でそんな嘘言うんだよ、三橋?
「くだんねー!」
オレの後ろで、泉が言った。
はっとして振り向く。泉は呆れたように顔をしかめ、大きなため息をついている。
「オレは騙されねーぞ!」
田島がにやっと笑った。
「あー、ネタバラシすんなよ! もうちょっと黙っとけ」
二人の会話を聞いて、花井が「あ、そうか」と呟いた。
「エイプリルフールか」
花井の言葉に皆が脱力し、また「はあーっ」とため息が合わさった。
「小学生か、お前ら」
「騙されちゃったよ」
「そうか、そうだよな、うん」
「ほっとしたぞ、三橋ーっ」
メンバーが口々に二人に駆け寄り、小突いたり背中を叩いたりした。
けど、オレはそれにも加われなかった。
何だよ、その顔?
三橋、お前、何でそんな固い顔で笑ってんだ?
「はい、集合ーっ!」
モモカンの合図と共に、練習が始まった。
皆、何事もなかったように、いつものメニューを黙々とこなす。
三橋も、田島も。
ただ違うのは、三橋がオレに笑わねーこと。
いつもなら、ちょっと目が合った拍子にとか、にこっと笑ってくれてたのに。
何で………?
もやもやを抱えたまま、練習が終わった。
なんでかモタモタと着替えてる三橋が、「先に行ってて」と皆に言うので、部室にはオレと三橋の二人だけになった。
「阿、部君も先に行って、て」
「待っててやるよ」
三橋はごくり、と生唾を飲み込み、静かな声で言った。
「いいから、行ってて」
オレは返事をしなかった。
黙ってロッカーにもたれ、アゴで着替えを促した。
しばらく見詰め合う。
琥珀色の瞳が、ためらいに揺れる。
折れたのは三橋だった。
ふうう。
三橋は大きく息を吐き、黒アンダーに手を掛けた。
いつもなら背中向きで着替えるくせに、何で今日はこっち向きだよ?
やましい事があるんじぇねーのかよ?
オレ達、付き合ってんじゃねーのかよ?
「なあ、三橋」
オレの声に、三橋がびくんと反応した。捲り上げたアンダーで、顔は見えねー。
「今朝の話……」
「エイプリルフール、だよ」
三橋がオレの言葉を遮った。バッとアンダーを脱ぎ、顔を上げて。オレを見て。薄笑いを浮かべて言った。
「エイプリル、フール、だ」
オレは何も言えなかった。
……何だ、それ。
そう思っても。
その痕の付きやすい白い肌に、小さな内出血を見付けても。背中に走る、幾筋ものミミズ腫れを見付けても。
エイプリルフールだと、言われれば。
そうか、とうつむくしかできなかった。
(終)
なーんていう展開そのものが、嘘です!
[次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!