Season企画小説
憧れからの卒業・4 (R15)
夢みてーだ。
震える手で、ローションのビニル包装を破りながら、そっと熱い息を吐く。
一方の先輩も、ぼうっと待ってるなんて事するハズなくて、ゴムの包装を開けていた。
ボールを投げるための短く整った爪が、カリ、カリとビニールの開け口を引っ掻く。
なんか余裕っぽいのが癪で、それよりオレに夢中になって欲しくて、開封しかけの長方形の箱を、先輩の手から取り上げた。
「あ……」
大きな目が、オレに向けられた。
まつ毛長ぇ。
たまんねぇ気分で、貪るように唇を奪う。3度目のキス。もう、遠慮なんて薄れちまって。
「ふうっ」
舌を絡めながら、空いた右手で裸の胸を押し撫でると、先輩が焦ったように甘くうめいた。
無駄肉のねぇキレイな体。きちんと管理された、投げるための筋肉。そのくせ、すべらかで。触り心地がとんでもなくいい。
薄茶色の乳首を指の先で転がすと、あっという間に固くなって、それもなんだか可愛かった。
キスをほどいて、もう片方の乳首に顔を寄せる。
べろりと舐めたり、ちゅうっと吸ったり。そのたびに先輩が「ひゃっ」とか「あっ」とか声を上げて身じろぎした。
固くなってんのは、乳首だけじゃねぇ。
下半身も反応してんのは、七部パンツ越しにも丸分かりで。先輩も自覚あんのか、しきりにヒザをすり合わせてる。
「先輩、キモチーっスか?」
意地悪く尋ねながら、盛り上がった股間をパンツ越しに撫でてやったら、先輩はビクンといやらしく腰を揺らした。
「あっ、阿部君……」
真っ赤な顔で先輩が言った。涙目になってて、スゲー可愛い。
手の甲で口元を軽くぬぐう仕草も、上目づかいでオレを見る目も、何もかもあざとくて誘ってるようにしか見えねぇ。マジか。
頭に血が上って、くらくらする。
痛ぇくらい勃起してる。ヤバい。もう……ヤバい。
けど、いきなり突っ込む訳にもいかねーって、そんくらいは分かる。
ホント言うと、いっぱいいっぱいだった。
パンツや下着の、スマートな脱がせ方もよく知らねぇ。
脱ぎ方も。
ローションだって、ゴムだって、実物触んのなんか初めてだし。使い方だって、実のところ妖しい。
けど。
こんな拙い愛撫でも、先輩は全身を朱に染めて、感じて喘いでくれたから――。
「先輩、そろそろ、いいっスか?」
オレは興奮で息を弾ませながら、恋する人に自信持って言えた。「お待たせ」って。
「いちいち、言うな……っ」
先輩は顔を覆って、もだえるように答えた。それも、スゲー可愛かった。
「卒業生、起立」
マイクを通して、教頭がハリのある声で言った。
ザッと一斉に立ち上がった中に、昨日から恋人になった先輩の、茶色いふわふわ頭が見える。
なあ、あの髪、今朝オレが乾かしてやったんだぜ、って、誰かに自慢したくて仕方ねぇ。あのネクタイ、締めてやったのもオレだって。
昨日、花井と一緒に動かしたグランドピアノが、ポロンと前奏を奏でた。
卒業生の合唱が始まる。
先輩らの歌を聞きながら、オレは、三橋さんと出会ってからの2年間を思い浮かべた。
――もう、怖くない。
「あり、がと」
無我夢中で抱き合った後、荒い息の中で先輩が言った。
「もう怖く、ない」
って。
オレもそう思う。もう怖くねぇ。これで前を向ける。
真っ直ぐな背中を見送れる。
だってもう片思いじゃねーし。体も、心も、言葉も、全部いっぺんに貰えたし。自信も。
「卒業、おめでとうございます」
今ならそんな祝いの言葉も、花束と一緒に贈れる気がした。
(終)
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