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Season企画小説
憧れからの卒業・3 (R15)
「まだ好きに決まってんでしょ!?」

 大声が出た。
 気が付いたら中腰になって、先輩の腕を掴んでた。
「そんな、簡単に心変わりなんかできませんよ!」
 言ってから顔を伏せる。
 とんでもなく顔が熱い。今、多分オレ真っ赤だ。
「どれだけオレが片思いしてたか……あんた、全然分かってない」

 恥じい。オレ、すぐこうやって怒鳴って。ガキで。顔が熱い。
 釣り合うようになりてーのに。
「あ、阿部君」
 先輩がオレの名を呼ぶ。
 オレは、掴んだ腕を引いて抱き寄せ、ギュッと抱き締めた。
 ふわっとシャンプーが香る。
 筋肉の付きにくい先輩の体は、鍛えてんのに細くて、華奢で。オレの腕にすっぽりと収まって、ドキドキした。

「好きです」
 言ってから、はあーと息を吐く。胸が苦しい。
 腕の中で、先輩の肩がびくんと揺れた。
「うん、オレも……」
 肩口に言われて、ドキンとする。夢じゃねーよな? 背中に腕が回される。
 マジ?
 これが答え?
 先輩が、甘えるようにオレの肩にすり寄ってくる。

「阿部君……阿部君」
 先輩が言った。
「阿部君が、欲しい」

 何言われてるか分かんなくて、一瞬反応が遅れた。
「……は?」
 ドキン、なんてもんじゃねぇ。心臓が止まるかと思った。
 何だそれ、意味ワカンネー。いや、分かるけど。ワカンネー。
 マジか、と思って顔を見ようとしたけど、先輩はオレの肩にしがみ付いたまま、顔を上げてくんねぇ。でも耳が赤い。

「大学行ったらね、阿部君いない、だろ。もう、オレの球、受けてくれない、し。『ナイスボール』て、言ってくれない、し。声、聞けない、し。か、顔も見れない。だ、から、不安、で。寂し、くて」

 先輩はたどたどしくそう言って、ギュッとオレにしがみ付いた。
 不安だとか、寂しいとか、そんなの――オレもだけど。でも、そんなこと、感じて欲しくねぇ。
「先輩ならやれますよ」
 そう言うしかねぇ。オレがいなくても大丈夫ですよ、って。
「うん、頑張る。頑張る、から。が、頑張るため、に……」

 ……阿部君が、欲しい。

 そう言われて、拒むことなんかできる訳なかった。

「オレの体、に、阿部君を、刻んで」

 聞くや否や、ガバッと引き剥がし、口接ける。
 初めてのキスは、余裕なくて、我ながら荒々しくて。そんで、とんでもなく甘かった。
「んっ」
 先輩がうめいた。
 体の中心が、ズクンと一瞬で重くなる。
 もう止まんねぇ。
 絡まった舌を名残惜しく離すと、つうっと糸が引いた。
 震える手をパーカーの下から差し入れると、すべらかな肌が手のひらに吸い付く。
 先輩がするっとパーカーを脱ぎ捨てた。
「三橋さん」
 抑えた声で呼びながら、そのまま床に押し倒す。そしたら、首に先輩の腕が回された。

「ベッド、行こ」
 って。
 ははっと笑える。夢みてーだ。そんな風に誘って貰える日が来るなんて。
 ささやかな男の意地で、先輩を「よっ」と横抱きにする。決して軽くねぇ体。でも、全然苦じゃなくて。
 ベッドにドサッと落とすと、先輩がハッと息を呑んだ。
 その上に覆いかぶさり、もっかい口接ける。
 いきなり深いキス。余裕なんかやっぱなくて。ただ、甘くて気持ちイイ。ざりっと舌がこすれ合う。
 先輩が、むずがるようにオレのシャツを引いた。
 脱がせようとされてんのが分かったから、そのままバッと脱いでやる。その隙に先輩は枕の下に手を入れて、そこから何かを掴み出した。

 ローションとゴムだ、と、一目で分かった。
「これ……」
 見れば、先輩の顔は真っ赤だ。
 そのくせ、挑戦的な目つき。「使って」って、どんだけ用意がいいんだっつの。
 主導権握られてるみてーで悔しい。
 本気なんだなって、しみじみ分かる。マジで……抱いていーんだ?
 今まで片思いしてたの、あれ、何だったんだろ?
 夢じゃねーよな?

「好き、です」

 そんな言葉しか、もう思い浮かばなくて。
 顔の両脇に手を突き、支配するみてーに上から覗き込んでやったら、三橋先輩は赤い顔で「オレ、も」つって、ふひっと笑った。
 そっからは――夢中だった。


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