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Season企画小説
そう禁断でもない関係・3 (にょた)
 最近、ドライブが楽しくねぇ。
 黙って助手席に座ってるヤツと一緒にいても、気詰まりなだけだ。
 けど、電車やバスで移動するより、まだハンドル握る仕事があるだけ、車の方がマシだろうか。

 バレンタイン前の週末。
 金曜の夕方に約束通り廉を乗せて、温泉地へと車を走らせる。
 家を出て以来、廉は一言も喋らねぇ。
 以前は学校のことや友達のことを、ドモリながら喋ってた気がすんのに、いつから黙り込むようになったんだろ?
 そう思って考えてみれば、年末くらいからか、って気もする。
 その頃確か、八つ当たりみてーにイジメちまったコトあったから……じゃあ結局、オレのせいか。

 夕闇の高速道路、等間隔で立つ照明に照らされながら、黙って助手席の窓を見る廉。
 こんなんで一緒にいて楽しいか?
 何を考えてんのか、何も考えていねーのか。何も喋らねーから、何を言えばいいのかもワカンネー。
 こっちは運転中だから、手を伸ばしたって頭撫でるかヒザ撫でるかしかできねーし。
 あん時だって……何も話すことねーから、からかい半分で「パンツ脱げ」つったら本当に脱ぐし。

 以前のコイツなら……普通の中高生なら、そこで「やだー、オジサン、ヘンタイ」とか言って、笑って流すんじゃねーのかよ?
 真っ赤になって、照れたり怒ったりするんじゃねーの?
 涙ぐみながら言う通りにされると、自分で言ったコトだけどちょっと焦った。
 イヤなら「イヤ」って言えばいーだろ?
 オレに「できねーの?」って言われたって、「できません」ってぷいっとそっぽ向くとか、なあ、普通はそうなんじゃねーの?
 もっとこう、軽いやり取りできねーの?
 なんで……できねーんだよ?
 なんで……そんな風になっちまったんだろうな?

 どこまで従順なんか試そうとしたけど、途中で空しくなったからやめた。
 ノーパンで買い物に行くことも、階段上がることも、知り合いの男子に色んなところを見られることも、全部泣きながら受け留めて。
 なんでここまで許すんだ? どこまで許すんだ?
 こうまでされて、なんでオレに縋る?
 「今すぐ服を全部脱げ」、もしオレがそう言ったら、こいつはやっぱり言われた通り、涙ぐみながらやるんだろうか?

 愛しい、可愛いと思う心も確かにあるのに、必死な顔で縋られると、無茶苦茶にしたくてたまんねぇ。
 意地悪して、泣かせて。支配欲が満足したら、勝手かも知んねーけど急激に醒める。
 そうして罪悪感にかられる度に、突き放してしまいたくてイライラする。
 優しくすれば不安そうにし、冷たくすれば泣きながら縋って。そんな廉の行動が、ますますオレをイラつかせる。

 いつか、愛想を尽かされんだろうか?
 「もう、やめる」って言われるんだろうか?
 泣きながら縋られると、やっぱオレからは切り出せそうにねーから……。怒った廉に捨てられるその日を、オレはまだ、恐れながらも待っている。
 

 旅館に着いた時には8時を少し過ぎていた。
 予約してたのは、離れの1室。仲居に案内され、部屋に入って「おお」と思う。思ったより広くて豪華だ。
 入口を入ってすぐにソファの置かれた洋室、奥に縁側付きの和室がある。
 ちょっとだけ高ぇけど、部屋に内風呂があったからそうした。朝でも夜でも、好きな時に風呂に入れる方がいい。
 けど、喜ぶだろうと思った旅館の一室に、廉はにこりともしねーでおずおずと入った。

 もしかして来たくなかったんだろうか?
 つーかオレ、ちゃんと訊いたよな? 旅行行くか、当日に会うかって。
 そりゃ、訊いた時点で予約しちまってたし、当然旅行を選ぶだろうと思ってたけど――そんな沈んだ顔されんのは予想外だった。
 嫌がってんのを無理矢理連れて来た訳でもねーのに、ワケワカンネー。何か予定でもあったんか?
 そういや前にひどくイジメた日、ステーキがいいっつーからレストラン連れてってやった時も、こんな顔して食っていた。

 思わずため息をつくと、目の前の細い肩がびくんと跳ねた。
「廉ちゃん……」
 帰るか? と、そう言いかけたところで、さっきの仲居が戻って来た。
「失礼いたします」
 一声の後、カラッと入口を開けられる。
 チェックインが遅かったせいもあるから仕方ねーけど、もう晩メシの時間らしい。座敷の方に、膳が用意された。
 セットになってるコース料理だ。 

 オレ達をどういう関係に見たんだろうか? 仲居はざっと料理の説明をした後、おひつを廉の側に置いて、茶碗に自分でよそうように言った。
「失礼いたします、どうぞごゆっくり」
 そう言って、丁寧に頭を下げて去って行く仲居。
 廉はと見ると、顔が赤い。
 茶碗としゃもじを手に、激しくキョドってる。

 メシよそうくらい、そんな緊張する程の大役でもねーだろう。
 ギクシャクとしゃもじを動かし、おっかなびっくメシを茶碗に盛ってく姿は、まるで子供のママゴトのようだ。
 ふふっと笑うと、廉ははじけるように顔を上げ、オレを見てさらに真っ赤になった。

 どこにそんな赤面ポイントがあったんか、よく分からねぇ。
 けど――沈んだ顔を見るよりは、やっぱこっちの方がいいと思った。

(続く)

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