Season企画小説
鬼の弱点は××だった・前編 (2013節分)
節分の夜だった。
つっても、1人暮らしのアパートで豆まきなんかしねぇ。掃除が大変なだけだし、やる意味がワカンネー。
炒った大豆を年の数だけ……とか、好きでもねーモンわざわざ買ってまで食わねーし。
節分らしいコトっつったら、せいぜい、スーパーで山積みされてた恵方巻きを買って、方角関係なく食うだけだ。
ところでこの恵方巻きってのは、レポート仕上げながら食うのに丁度いい。片手で食えるし皿いらねーし、手も汚れねぇ。
かれこれ5日くらい前から、晩飯はずっとこれだ。
今日なんか朝からこれだ。
色んな種類があるっつっても、さすがにちょっと飽きて来た。
大量に買い込んだ恵方巻きの最後の1本を手に、はー、と小さくため息をつく。
……やっぱ飽きた。
オレはそれを元の透明プラ容器に戻し、財布を持って立ち上がった。
レポートも無事完了したし、寿司は飽きたから、ちょっとコンビニに行こうと思う。
カップラーメンか、おでんか、とにかくもう少し何か、味の濃いモノが食いたかった。
カップラーメン、カップみそ汁、カップ豚汁……色々迷ったけど、結局ニオイに釣られておでんを買った。
牛筋と大根と卵とウィンナー。
つゆだくで入れて貰った容器を、慎重に手に持って鍵を回す。
電気点けっぱなしで行ったから、そのまま奥に入り、ローテーブルの上におでんを置いて――ドカッと座ろうとした時、ふと何かと目が合った。
ん? と思って2度見して、思わずハッと息を呑む。
ネズミ!? いや、茶色いからハムスターか?
恵方巻きの入ったプラ容器の中に、そんくらいの小さなのが入り込んでて、考えるより先に手が伸びた。
バチン!
思いっ切り手のひらを叩き付けると、プラ容器がガシャンと鳴って、中にいたネズミが――。
「きゃっ」
と、言った。
きゃっ? 何だそれ!? そんな風に鳴くネズミもいるのか? いやハムスターだっけ?
恐る恐る手を放すと、オレの手のひらとプラ容器の間には、茶色いイキモノが伸びている。
首根っこをつまみ上げて目の前にかざすと、ウソだろ、信じらんねーけどヒト型をしていた。
茶色い髪に白い肌、3頭身でちっこい手足がついている。
身に着けてんのはカボチャみてーな形した、黄色地に黒のトラ柄パンツ。
よく見ると、頭には2本の角が生えていた。
「……鬼?」
有り得ねーけど、それ以外に考えようがなかった。
しばらくじろじろ眺め回してると、ようやく意識が戻ったらしい。伸びてた小鬼がぱっちりと目を開けた。
そしてオレに気付き、つまみ上げられた自分の状況に気が付いて、じたばたと暴れ出した。
「にににににににに、ニンゲンっ」
すごいドモリ方だ。
「ごごごごごごごご、ごめ、なさっ」
よくワカンネーけど、謝ってるらしい。
ならいいや、と思ってテーブルの上に戻してやると、そいつはピュッとスゲー速さで駆けだして、おでん容器の陰に隠れた。
バカだな、と思いつつおでん容器を持ち上げると、そいつは髪が逆立つくらいびっくりして、そしてまたピュッと駆けて……恵方巻きの容器の陰に隠れた。
いや、本人は隠れてるつもりかも知んねーけど、丸見えだから。
ははっと笑いながら、オレはおでん容器のふたを開けた。
とたんに、しょうゆベースのつゆのニオイが広がって――そして。
ぐぅぅぅ、と小さな音が鳴った。
音源は明らかだった。オレじゃなきゃ、あっちだろ。
「わ、わっ」
小鬼は腹を押さえながら、真っ赤な顔でうずくまってる。
なんだ、このイキモノ。スゲーおかしい。
思わずぷはっと吹き出すと、しばらく笑いが止まらねぇ。
ひとしきり笑った後、小鬼に言った。
「いーぜ、食っても」
小鬼の前にある恵方巻きを、アゴで指す。
「腹減ってんだろ? 食えよ」
つーか、さっき食おうとしてたんだろ? 容器の中に入り込んだりして、大胆なんだか臆病なんだか、よくワカンネー。
すると小鬼はおずおずとこっちを見て、ドモリながら言った。
「い、い、い、いいの?」
顔が赤い。
「いーぜ、全部食っても」
そう言ってやると、今度はパアッと顔を輝かせ、「ありが、とうっ」と笑った。
単純で可愛いな。
サイズは小せーけど、犬みてぇ。
そっと手を伸ばし、茶色い頭を人差し指で撫でてやると、嬉しそうにニカッと笑った。
さっきは逃げたり怯えたりしてたくせに、食いモン貰えると思うと懐きやがって。ゲンキンなヤツ。
まあ、サイズ的に考えても、恵方巻き全部はさすがに食えねーだろうけど――。
と、そう思って撫でるのをやめた瞬間。
ボン! と白い煙が沸き起こり、突然目の前にオレと同じぐらいの鬼が現れた。
上半身裸の白い肌。吊り上った茶色い目。ふわふわの茶色い頭からは、赤茶色した2本の角が生えている。
そんでなぜかトラ柄のパンツは、ぴったりとしたビキニになっていて――。
なんつーか……卑猥だった。
(続く)
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