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Season企画小説
キミと迎える再びの朝 (おまけ・R18)
 オープン戦の合間を縫って、三橋がオフで、花井も巣山も都合のいい日。それは次の週の火曜日とか、思いっきり平日だったけど、とにかくその日に引越しが決まった。
 オレは三橋に言われた通り、狭くなったベッドを処分した。粗大ゴミのネット申請なんかも考えてたけど、意外に面倒臭かったので、先輩が貰ってくれるっつって助かった。
 新しいベッドを買う代わりに、ダブルサイズのマットレスを買った。マットレスだけなら、邪魔なときに立てかけられるし、低いから落ちても平気だ。

――阿部君と一緒に寝たいんだ、前みたいに。

 三橋の言葉を思い出す。あいつがそんな風に思ってたなんて、全然気付かなかった。一緒に寝たかったとか。
 何だか、自然に顔が緩む。
 もっと早く言ってくれれば良かったのに。朝まで一緒がいいとか。腕枕が恋しいとか。寝顔を見たり、見られたりするのが幸せだったとか。
 うわ、やべ。
 ニヤケが止まんねー。

 一応努力して顔を引き締めつつ、風呂場の方に向かった。そこでは三橋が、引越しでホコリまみれになった体を流してる。
 落ち着かなくて、脱衣所の前でうろついてると、すりガラスの向こうに肌色の影。三橋が湯船から出たらしい。
 オレはバスタオルを大きく広げて、ドアが開くのを待った。出てきた三橋が、「うおっ」と言った。
「びっくりした、阿部君……」
 柔軟剤使ってふわふわにしたバスタオルに、三橋の体をくるむ。簡単に水気を取って、そのまま足元からすくい上げ、肩に担ぐ。
「うわ、わ、阿部君っ」
「暴れんなよ、お前、もう軽くねーんだからさ」
 細くて引き締まってるけど、筋肉量の多い三橋の体は、ふわふわした見かけより、随分重い。
「あ、べ君、着替えが……」
「そんなの、要らねーだろ?」
 オレは三橋を、オレの部屋まで連れ込んだ。そして、買ったばかりのマットレスに、ドカッと降ろす。

「あー、この天井だ」
 上を見上げた三橋が、嬉しそうに笑った。
「天井?」
 シャツを脱ぎながら訊くと、三橋はマットレスの上で両手を広げて「うん」と言った。
「おれ、この天井、好きだ」
 見上げる視線をさえぎるように、覆いかぶさって口接ける。合わせるだけのフレンチキス。笑みに広がる唇を割って、舌を差し込むと、向こうからも差し出され、甘く舌を絡め合う。
 すっかり忘れてた、こんなキス。一体何でやらなくなってたんだろな、キスだけで、幸せな気分になれんのに。
 長いキスの後で唇を離すと、三橋はまだうっとりと天井を見上げてた。
「好きだ………」
 三橋が天井に向かって言った。
「オレが? 天井が?」
 ちょっとムカついて尋ねると、くすっと笑ってオレを見る。

「阿部君越しの天井が、だよっ」

「ははっ」
 こいつ、なんてセリフを平然と言うんだろう。
「じゃあ、朝までたっぷり味わえよ?」
「う、あ、朝まで?」
 3年前より随分しっかりした、でもどこか華奢な、白い首筋を舐め上げる。
 きれいに筋肉のついた胸を押し撫で、ピンクがかった乳首をぎゅっとつまめば、「ああっ!」と声を立てて身をよじる。
 湯上りの、しっとりと潤った肌。
 ボディーソープと、三橋の匂い。

 なんか、スゲー久し振りに嗅いだ気がする。胸が痛くなるくらい、懐かしい、恋しい匂い。
「三橋っ」
 覆いかぶさって口接ける。甘い唾液を深く味わう。
「ん………」
 三橋が小さく声を漏らす。束の間唇を離し、オレに囁く。
「ホントにタバコ、やめたんだ、ね。阿部君の味、だ」
 オレの頭をがっちり抱え、何度も何度も舌を絡めてくる。オレをしっかり味わうように。
「タバコ吸ってる阿部君、は、キスが苦かった、よっ。でも、もう元の阿部君の、味、だ。好きっ!」
 そういって深くキスをねだる三橋の下腹は、すでに硬く張り詰めている。興奮してる、こいつ。好きだ。

 オレは三橋の陰茎を握りこみ、ゆるくしごいた。
「あっ………」
 三橋がオレの下でうめいた。
「手、離し、て」
 切なげな声で言われるままに、三橋のモノから手を離し、代わりに口に深く含む。
 洗ったばかりの陰茎は、どこか水っぽい味がした。けど、かすかに三橋の味がする。不思議だ、分かる。三橋の味だ。
 タバコやめて、味覚が戻ったんかな。懐かしい。愛しい。胸がいっぱいになる。きつく吸い上げると、三橋が声を上げた。
「やだっ」
 判る。これは嫌がってない、真逆の拒否。
「だめっ」
 これもそう。判ってる。
 けど、オレは意地悪く口を離し、三橋の顔を覗き込んだ。
「じゃあ、やめるか?」
 三橋は、ひ、と小さく息を吸い、顔を真っ赤にして目を伏せた。
「イジ、ワル、だっ」


 ああ、どうせ意地悪だよ。けど、オレがそんな奴だって事、お前はとうに知ってただろ?


「目ぇ閉じんなよ。オレ越しに天井、よく見とけ」
 仰向けに組み敷いて貫きながら、オレは三橋に囁いた。三橋はオレの背中にしがみつき、自分でも腰を振って、深くオレを迎え入れる。
 溺れるほど気持ちいい。
 好きだ、愛してる。言葉にならねぇ、二人でするセックスの至福。
 なんでずっとしなかったのか、自分でも分からねぇ。こんなに気持ちいいのに。気持ちよくさせれるのに。
「三橋」
 もう何度目か分からねぇキス。甘い。気持ちいい。

「夢じゃない、よね、阿部君っ!」

 三橋が上擦った声で呼ぶ。もうぐずぐずに溶け始めて、舌足らずになってる。
「オレ、阿部君に、抱かれてるっ。阿部君とえっちしてる、夢じゃない、よねっ」
 何だよ、そんなに嬉しいのかよ。オレなんかにこんなにされて、それでお前、幸せなんかよ。
 嬉しいよ。三橋、夢じゃねぇ。

「夢じゃねー、よっ」

 オレは三橋の腰を抱え上げ、繋がりを深くして、がつがつと穿った。いきなり激しくされたのに、喘いでもだえて喜ぶ三橋。
「あ、あ、あ、う」
 感じるままに声を上げ、もう閉められない唇。
 色っぽい。愛しい。
 好きだ、愛してる。
「あ、あ、べ、く、ん、阿部、君、あ、あ、阿、部、君………」
 うわ言のように繰り返す声。オレを呼んでる、三橋の声。
「好き、好、き……好きぃっ!」
 オレも好きだ、三橋。好きだ。
 もう手放せねぇ。一生、好きだ。三橋。三橋。
 
 三橋が気絶するまで、何度もオレは三橋を抱いた。ぐったりと意識を失った体に、オレの全てを注ぎ込み、深く繋がったまま眠りに落ちた。



 そうして重なったまま目を閉じて………次に目を開けた時には、新しい朝があるだろう。キミと迎える新しい朝が。

  (終)

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