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Season企画小説
愛しさが降り積もる(Side M)  完結
 終わった砂時計を、もう一度ひっくり返す。
 戻るって決めたとき、オレが抱いたのは、そんなイメージ。



 一ヶ月ぶりに阿部君を見て、血の気が引いた。
「死人みてーだぞ」
 田島君がそう言ってたけど、ホントに、死んだような顔してた。顔色は悪いし、唇はガサガサだし、頬はこけてて、あごの辺りは締りがなくて。目の下には隈がひどくて、絵の具塗ってるのかと思うくらいで。
 それに何より、目が……あの真っ黒で、深く澄んでて大好きだった目が、濁ってた。

 たった一ヶ月で、人ってこんなに変わるもんなのか。
 一体、どんな不摂生したら、こんな状態になれるんだろう。
 どうして、こんなやつれちゃったんだろう。

 こんなになるまで阿部君を追い詰めたのは、誰なんだろう。
 ………オレ、のせいかな。
 そう思った。
 オレ、自分の事しか考えてなかったんじゃないかなって、反省した。
 阿部君がオレを必要としてくれてるなら。いないと困るって言ってくれるなら。こんな嬉しい事はないよ。阿部君。



 もともと繋ぎのつもりで借りてたレオパレスは、3月いっぱいしかお金を払っていなかった。それまでにどこか、新しい部屋を探そうって思ってたから。
 家を出たときは、オレもいっぱいいっぱいで、後先とか考えられなかった。ただ、もう阿部君の顔を見たくなくて、キャンプ行ってそのまま、引っ越してしまいたかったんだ。
 顔を見たくないっていうのは、嫌いだからじゃなくて……見たら、また好きだって思って、心が揺れるって分かってたから。


 もっかい引越しの手伝いを頼んだら、花井君と巣山君に、すっごく怒られた。
「お前の都合で阿部を振り回すな」
「阿部に依存するな」
「阿部の未来の邪魔するな」
「お前達のこと、応援できない」
 とか、色々言われた。でも、オレ、怒られてるのに、顔が笑っちゃうの止められなかった。だってオレの為って分かってたから。二人とも、言いにくい事をわざわざ、心を鬼にして言ってくれてる。こんなの、ホントの友達じゃないとできないでしょ?
 嬉しくてずっと笑ってたから、花井君に「ヘラヘラすんな」ってゲンコツされた。でも、ちゃんと引越しの手伝い、してくれたんだよ。


 二人の家に荷物を運び入れた後、オレと阿部君はダイニングの床に正座させられ、花井君と巣山君に説教された。
「お前らの都合でオレ達を振り回すな」
 とか、
「さっさと別れろ」
 とか、また色々言われた。
 最後に、「もう心配させんなよ」って二人は出て行った。
 オレは一休みしたかったけど、阿部君がキィキィ言うので、仕方なく荷物を片付けた。ダンボールに詰めるのは楽なのに、ダンボールを空にして、元の場所に片付けるのは、何でこんな面倒くさいんだろう。
 そう言うと、阿部君に呆れたような顔をされた。

 オレ達ってさ、おかしな関係だよね。阿部君がいないと、オレは部屋の管理ができないし、オレがいないと、阿部君は自己管理ができないんだね。
「似たもの同士だね」
 と言うと、阿部君が笑ってオレの額を突いた。
「『割れ鍋に綴じ蓋』ってことだろ」

 
 そうか、そうだね。そういう事なんだね………と。
 こんな小さな出来事を、幸せに変えて、積み重ねて。また少しずつ作り上げて行こう。

 砂時計のビンの中の、ほんの小さな山でいいから。

  (完)

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