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Season企画小説
ビリヤードの罠・後編 (R18)
 1人暮らしのマンションに阿部君が訪ねて来たのは、17日の夜、9時を過ぎた頃だった。
「え、と。何の用、かな?」
 オレがそう訊くと、阿部君は形のいい眉をぐっとしかめて、「はー? 忘れたんスか?」と怒ったように言った。
「禁煙。1週間頑張ったら、ご褒美くれるって約束じゃないっスか」
「わっ……」
 忘れてた訳じゃない、勿論覚えてた。ただ、こんな平日の夜遅くだとは思ってなかっただけ、だ。
 だって。

「ビリヤード、だろ?」
 ああいう施設って、高校生は保護者同伴でも、確か、午後10時か11時までって入店制限があるハズだ。そりゃ、まだ9時過ぎだけど……。
 そう言うと、阿部君はすっごくおかしそうに「はははっ」って笑った。
「大丈夫っスよ。オレのやりてーのは、もっと別のビリヤードっスから」
「ふ、え?」
 もっと違うビリヤード? ビリヤードに種類なんかある?

 オレは阿部君の言ってる事も、それからその企みも、何もこの時分かってなかった。

「まあ、ビリヤードは後でいいっス。それより先生、今日誕生日でしょ? おめでとうございます」
 阿部君はそう言って、コンビニ袋をオレに渡した。中には、2個入りのイチゴケーキが入ってて、びっくりした。
「コンビニので悪いっスけど」
 照れくさそうに笑う阿部君に、オレは「うううん」とブンブン首を振った。だって、まさか祝って貰えるとは思ってなかったから、嬉しくて。
 そして、ハッとした。
 ビリヤードの約束っていうのは口実で、まさか阿部君、このケーキの為にわざわざ今日、ここに来てくれたんじゃないの、かな?
 おそるおそるそう訊いたら、阿部君は笑って、「いいから食べましょうよ」と言った。


 オレは、気付かなかった。
 阿部君の企みも、思惑も、何も。
 ホントに阿部君を信じてたんだ――次に目が覚めるまで。


 下半身に違和感を感じて目が覚めて。最初に思ったのは、眩しいってことだった。
 目を開けると、見慣れた天井。
 でも、あれ。オレ、いつの間に寝たのかな? そう思って体を起こそうとして、身動き取れないのに気が付いた。
「えっ!?」
 オレは思わず声を上げた。
 両手が、頭の上から動かない。引っ張ると、手首に締まるような感触。ロープか何かで結ばれてる。
 慌てて足をバタつかせたら、素肌にシーツがこすれる感覚。それに、何かスース―するし。え、もしかして、下はいてない?
 まさか寝ぼけて脱いだのかなって、一瞬、自分のバカさ加減にうんざりしたけど……すぐにそれは誤解だって分かった。

「やっと起きたんスか? 思ったより効き目長いんスね」
 そう言って笑いながら、端正な顔が覗いたからだ。
「阿部、君……?」
 なんで生徒がオレの部屋に? そう考えて、ようやくちょっと思い出した。そうだ、阿部君はケーキを持って来てくれたんだ、って。

 阿部君を「どうぞ」って部屋に入れて、それから、お皿やフォークを用意して、コーヒーを入れて、2人でケーキを食べて……。テストの話とか、野球の話とかで盛り上がって。
 それで――えっと、どうしたんだっけ?
「効き目?」
 って、何の話?
 で、なんでオレは、裸なんだっけ?

「あ、阿部君?」
 不安になって名前を呼ぶと、阿部君が「なんスか?」と返事した。と同時に、さっきまで感じてた、下半身の違和感がよみがえる。
 違和感。つまり、お尻――肛門、に、何か異物が入ってる感じ。

 何だろう? これ、何だろう?
 ぼんやりかすんだ頭で考えてると、突然、その異物がグリッと動いた。
「んっ!」
 思わず声を上げる。同時に、異物の正体に気付いて鳥肌が立った。
 これ、指だ!

 阿部君が、くくく、と笑った。
「感じちゃいました?」
「え? 阿部君? え?」
 分かった。これは阿部君の指だ。阿部君の指が、オレのお尻の中を、ぐりぐりとゆっくり掻き回してる。
 でも、なんで?
 なんで、こんなコト? なんで?
 頭の中はぐちゃぐちゃで、「やめなさい」って叱ることもできないで、オレはただ、バカみたいに口をパクパクと開けた。
 そしたら……。

「いい顔ですね」
 そんな残酷な声とともに、パシャッとシャッター音がした。
 ギョッとして目を向けると、阿部君がケータイをかざしてる。パシャッ。また1枚写真を撮られた。
 阿部君は――笑ってた。

「じゃあ先生、準備できたし。ビリヤード、やりましょうか?」

「……へっ? 何?」
 何を言ってるのか分からなかった。
 分からないまま、ヒザを持ち上げられ、ぐいっと曲げられた。
「う、ウソ……」
 ここまで来たら、もう分かった。彼が何をする気なのか。これから何をされるのか。
 けど、もう抵抗できなかった。身動きも取れなかった。
「や、ヤダよ、阿部君……」
 声が、情けなくも上擦った。

 これがビリヤード? なんでビリヤード?
「オレのキューで、先生のポケットに入れさせて貰うってコトですよ」
 阿部君の説明にぞっとする。
 ウソだ。こんなの聞いてない。
「煙草やめるの、協力してくれるって言ったでしょ?」

 オレは首を横に振った。
「違っ、やだよっ」
 割り裂かれた股間に、硬いモノが押し当てられた。
 息を呑む。
「ブレイク……っ」
 阿部君が、低い声で言った。
 と同時に、オレの穴に、硬くて熱くて太いモノが入って来た。

「いっ、ぎっ、ああああああっ」
 痛みと衝撃に叫んだ後、息つく間もなく揺らされながら、オレはうわ言のように「違う、違う」って言い続けた。
 ビリヤードの意味が違うよ、って。
 そしたら阿部君は、ふふっと笑ってオレに言った。
「勝手に勘違いしてただけでしょ」

 奥の奥まで串刺しにされ、のけぞって泣いてるところを、またパシャッと写真に撮られる。
「これから毎週、プレイしましょうね?」
 撮った写真を見せながら、阿部君が言った。
「こうやって毎週、ずっと先生をマスワリできるなら、オレ、もう2度と煙草なんて吸いませんし……」

「吸ってるフリも、もうしません」

 阿部君の言葉に、オレはようやく、全部罠だったと知った。
 禁煙の必要なんてなかった。
 最初から全部、嘘だった。
 けど――嘘だと分かったところで、もう約束を無かったことにはできなかった。

 写真を撮られたからだけじゃない。

 幾つものファウルの末のビリヤード。
「先生っ、先生っ!」
 オレを滅茶苦茶に突き揺らしながら、縋るように何度もオレを呼ぶ、阿部君に。

 多分……オレも最初から、惹かれていたから。

  (終)
※160万打キリリク「片恋の罠」に続く。

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