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Season企画小説
さよならが降り積もる(Side M) 1
 例えば「好き」より「うざい」が増えたら。

 キスよりため息の数が増えたら。

 ……一緒にいる意味は、ないんじゃないかな。



 オレと阿部君が付き合いだしたのは、高校3年の冬のことだった。一緒に戦って燃え尽きた夏の甲子園が終わって、もうバッテリーじゃなくなってしばらく後だ。
 甲子園で優勝投手になれたオレは、同じく首位打者になった田島君と共に、しばらくの間取材とかに追い回されて、すっごく忙しくて。ふと阿部君の不在に気付いてから愕然としたんだ。

 じわじわ離れたんじゃなくて、気付いたら側にいなかったから、すっごく焦って。阿部君が必要だって思い知らされて。それで思い余って言っちゃったんだ、「側にいてくれないとおかしくなる」って。
 阿部君もそれに応えてくれた。「オレは前から好きだった」って言ってくれた。

 行く大学は、オレはもう推薦で決まってしまってて、それは阿部君の希望進路じゃなかったから、別になっちゃって。でも二人で小さめの2LDKを借りて、一緒に住むことにした。
 もう三年も前のことだ。

 オレはまだ野球を続けてる。プロを目指して。

 阿部君は野球をやめちゃったけど、理工学部に進み、毎日研究研究で忙しい。

 一緒にご飯食べることも減っちゃって淋しいけど、毎日が充実してるのは、イイコトだよね?

 そうだよ、最初がラブラブ過ぎたから、贅沢になってるんだ、きっと。
 オレも阿部君も、お互いが初めて付き合った人で、キスもえっちも、やっぱりお互いが初めてで。ろくにデートとかもしないまま、そんなでいきなり同棲しちゃったから、最初はもうホント、凄かった。
 やってもやってもまだ足りなくて、二人とも一睡もしないで夜明けになってるとか、少なくなかった。今思い出したら恥ずかしいけど。
 えっちしなくても、毎日一緒に寝た。たまに腕枕してもらって、キスしながら寝た。

 小さめとはいえ、一応2LDKだから、お互いの部屋があって。お互いのベッドもそこにあったけど、寝るのはいつも大体、阿部君の部屋だった。
 阿部君のベッドの方が、ちょっと大きめだったからだ。部屋も、オレのに比べたら片付いてたし。だから、たまに自分の部屋で寝ると、天井が違って、変な感じだった。

 今はもう、それにも慣れちゃったけど。


 オレ達が、朝まで一緒のベッドで眠らなくなったのは、一年くらい前……かな。
 だって仕方ないんだ、阿部君はそんなに変わってないけど、オレが大っきくなっちゃったんだ。まだ抜かすまではいってないけど、身長も体重も肩幅も胸囲も、もうすぐ阿部君に追いつくぞ。
 阿部君は「複雑だ」って言ってたけど、オレは嬉しい。だって速い球投げるのには、やっぱり体格いい方がいいし。ハルナさんみたいな、凄い筋肉ついてきたし。

 明け方、阿部君より先に目覚めて、りりしい眉やきれいな鼻筋をなぞったり……反対に、先に起きた阿部君に頬をつつかれたり……できなくなったのは淋しいけど、でも自分の成長は喜ぶべきだよね?

 うん、オレ、きっと贅沢になってるんだ。最初が幸せ過ぎたんだ。阿部君が悪いんじゃないんだし、ダブルベッドなんて置ける程広くないんだし……もっと広い部屋に引っ越したときに、ベッドの事とか相談すればいいんだから……あと一年で卒業なんだから。

 あ、でも、だめかな。
 阿部君は半年前くらいから、タバコを吸い始めたんだ。実験の待ち時間に、暇つぶしに、って、周りの友達もみんな吸ってるんだって。缶コーヒー飲んだりとかじゃ、付き合い切れなくなってきたんだって。
 阿部君の部屋でしか吸ってないけど、副流煙が毒になるからって、オレは立ち入り禁止になっちゃった。
 一応セーブしてるらしいけど、やっぱり本数が増えてるみたいで、タバコを吸うために、自分の部屋にこもっちゃう事も多くなった。

 でも、文句言うのはおかしいよね? オレに煙を吸わせないために、気を遣ってくれてるんだから。実際、プロスポーツ選手を目指す者に、タバコは有害なんだから。


 うん、大丈夫、大丈夫。
 えっちだって、時々してるし。お互い忙しくて回数は減ったけど……オレもエース貰って、先発で投げること多くなったから、試合の前はえっちできなくて、我慢してもらったり……だし。
 付き合い始めじゃないんだから、いまだにがっついてるのも、おかしいよね? 体が目的で一緒にいる訳じゃ、ないんだしね?

 最後にえっちしたのは、クリスマスイブだった、かな。
 あの日、阿部君は研究室で、教授主催のクリスマス会に出なきゃならなくて。オレはそれを聞いて知ってたけど、やっぱり少しでも一緒に食べたくて、チキンとケーキを用意して待ってたんだ。
 阿部君が帰ってきたのは十二時過ぎで、おなかいっぱいな上に、酔ってたらしくて。オレが料理とか用意してたの、気に障ったらしくて。

 オレ、よくこういう失敗しちゃうんだ。自分だけで考えて相談しないから。良かれと思ってやったことで、阿部君を怒らせること、初めてじゃない。
 阿部君は怒って、オレの服を無理矢理脱がして、謝ったけど許してくれなくて……キッチンの床で、強引に抱いた。

 キスの無いえっちは初めてだった。後始末をしないで放って置かれたのも。

 でもオレが悪いんだし、阿部君は酔ってたんだし、今更謝られても困るし……オレ、気にしてない。えっちはえっちだし。
 怒ってたって、嫌いな奴とえっちしたりしないよね? 好きだから、だよね?



 付き合って三年。
 同棲して二年と十ヶ月。
 
 一緒に寝なくなって一年。
 部屋に入れなくなって半年。
 えっちしたのは一ヶ月前。
 
 キスをしたのは……いつだった?



              さよならが降り積もる

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