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小説 1−16
コンカフェに野球部男子がやって来た (原作沿い高2・モブ女子視点)
※クラスメイトのモブ女子視点になります。苦手な方はご注意ください。




 私のバイトするコンカフェに、ある日クラスメイトの男子が2人でやって来た。
 コンカフェ、コンセプトカフェっていうのは、特定のコンセプトや世界観なんかを前面に押し出したカフェのことだ。
 カフェ業態のとこと、カフェ&バー業態のとこがあるんだけど、カフェ&バー業態のコンカフェだと、お酒がメインで時間制限があったりして、キャストが席について接客したりもあるらしい。
 うちはカフェ業態の店なので、コスプレと食事とソフトドリンクがメインだ。
 私の仕事も配膳がメインで、たまに別料金で、コスプレ写真を一緒に撮ったりするくらい。
 うちのカフェのコンセプトは、赤ずきんとか森の動物たちとかの童話の世界で、私を含めたキャストは、ウサギやクマやリスなんかの獣耳をつけた格好してる。
 私はウサギなので、写真撮影を一緒に頼まれることも多い。
 だから彼らも、そういう類なのかなと思った。

 お店に来たクラスメイトは、阿部君と三橋君の2人だ。野球部でバッテリーを組んでるらしいこの2人と、もう1人の泉君を合わせて、うちのクラスの野球部3人組になる。
 同じクラスっていったって男子と女子だし、特に喋ることもない。
 休み時間は寝てるか教室にいないかだし、放課後はさっさと部活に行っちゃうし、真剣にスポーツやってる感じっていうか、体育会系で硬派で近寄りがたいイメージもあった。
 それがまさか、コンカフェに来るなんて。
 今日は練習、お休みなのかな? それとも、練習試合か何かの後かな?
 メニュー表を小脇に抱え、お冷をトレイに載せて2人の待つテーブルに向かう。阿部君がどっかりと座ってるのに対し、その向かいに座ってる三橋君は、きょどきょどと視線を揺らしてて、落ち着きない。
 こういう店に慣れてないんだなぁと思った。
 キョドリっぷりが小動物みたいで、私たちキャストよりも、獣耳が似合いそう。普段、堂々とマウンドに立ってるらしい野球部のエースなのに、意外で可愛い。

「いらっしゃいませ。本日は、赤ずきんと森のお友達に出会う木漏れ日の森のカフェにようこそ。こちら、メニューになります」
 いつも通りの、弾むような接客口調で挨拶し、大きなサイズのメニューを渡す。上部がもこもこと木を意識した形になってるメニューブックは、フルカラーの写真付きだ。
 2人とも、私がクラスメイトだってことには気付いてなさそう。阿部君の方は、さっさとメニューを開いてしまって、こっちをちらっとも見やしない。イメージ通り硬派な感じ。
 一方の三橋君は、私の頭上に揺れる耳を見て、一瞬ビクッと固まった。
「う、う、うさぎさん……」
 ぼそりと呟かれる言葉が、同い年の男子とは思えないくらいあどけなくて、おかしい。
 によっと緩みそうになる口元を引き締めて、三橋君にぺこりと頭を下げる。
「メニューが決まりましたら、お呼びくださいませ」
 私がテーブルを離れると同時に、三橋君がパッとメニューを開くのが見えた。仕草が面白い。格好良さはイマイチ足りないけど、見てて飽きない感じかも。

 注文する様子も、面白かった。
「オレはこの、狼さんが内緒で分けてくれたベーコンとまん丸つやつやなトマトで作った赤ずきんちゃんの夕焼け色のナポリタン。お星さまが恋しくなる新月の夜の切ないコーヒー、アイスで」
 淡々とした口調で、堂々かつスラスラとメニューを読み上げる阿部君がスゴイ。えっ、常連さん? って、疑いたくなるくらいの余裕あって意外だ。
 男子のお客さんも結構来るけど、大概の人はメニューを読み上げるときにちょっと恥ずかしそうにしてるかな。阿部君みたいに、こんな堂々としてるお客さんは珍しい。
 逆に、照れながら「これ」ってメニューを指さすだけの人は多い。そう、三橋君みたいに。そうされてもいいように、メニューは大きく分かりやすくできている。
 だから、私としては特に困るようなものじゃなかったんだけど――。

「おい、『これ』じゃ分かんねーだろ、店員さんに分かるようにハッキリ全部言え。聞こえるようにな」

 阿部君がニヤリと笑いながらそう言って、三橋君にメニューを読み上げさせた。
「こっ、ひっ、うええーっ」
 言おうとして言えなくて、文句を言ってる三橋君がおかしい。顔真っ赤。
「ひっ、ひっ、ヒヨコちゃん、とっ、きにょこの……せいが……」
 ごにょごにょと語尾が小さくなるのを、阿部君が「ハッキリ言え」ってビシッと叱る。厳しい事いいつつ、すごい笑顔で、意地悪だ。いや、いけずだ。
 でも、そんな風にいけずになっちゃうのも分かる気がする。可愛い。
「ひっ、ヒヨコちゃんとっ、キノコの精が森で遊んでら、ぶらぶきゅ……きゅんス、プラッシュなホワイトソ、スのオムライスっ、とっ、甘酸っぱさ、には、つこいを思い出す、アップルジュー、スッ」
 しどろもどろのつっかえつっかえで、でも頑張ってメニューを読んでくれた三橋君は、大変可愛くて格好良かった。真っ赤な顔して、ぐきゅうって身もだえしてて、やばい、可愛い。
 すごいね言えたね、って拍手したくなるのをグッとこらえ、2人の注文を復唱する。ナポリタンとコーヒーと、オムライスとアップルジュース。これだけを注文するのに大騒ぎだったよね、って口元がによによしてしまう。

 注文した食事が来るまでの間に、2人は写真撮影もしてた。お店のサービスで、コスプレ色々チェキ1枚500円。
 うちのコンカフェ、キャストと写真をってご希望する人も多いんだけど、ペアやカップルでコスプレ写真を楽しむ人も勿論いる。阿部君と三橋君も、残念ながらそっちだった。
「店員さん、写真撮って貰える?」
 赤ずきんの格好をした三橋君の肩をがしっと抱いて、狼の耳をつけた阿部君がニヤニヤと笑う。ノリノリの阿部君に比べ、三橋君は視線がぐらぐら泳いでる。
 大きな釣り目がうつろになってて、かわいそう可愛い。赤いエプロンドレスに赤いフードがすごく似合ってて、ヤバイ可愛い。
「ほら、しっかり立てよ。ぐずぐずしてっと迷惑だろ」
 厳しい事いいつつ、ニヤニヤしてるの意地悪だ。いやぁ、いけずやわぁ。鼻の下伸びてますよ、お客さーん。お連れさん、涙目ですよー?

 昔のチェキは、撮った写真を即印刷するタイプだったけど、今のチェキは印刷する前にサムネで確認して選ぶことができる。
 それを阿部君も知ってたみたいで、ポーズを変えて何枚も撮った。ちなみにどの写真の阿部君もイイ笑顔で、どの写真の三橋君も涙目だった。頬にちゅーした写真も撮ってて、「うわー」って叫びそうになってくる。
 やばい、面白い、この2人ってどういう関係?
 普段、野球第一って感じでストイックにしてるイメージある分、意外で口元が緩んでしまう。
 硬派なクラスメイトの、普段とは違う一面が見れて嬉しい。楽しい。正直、役得。また来て欲しい。
 コンカフェのバイトしてて、よかったなぁと思った。

   (終)

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