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小説 1−16
健康のために管理する (大学生・同居・阿部→三橋・R15)
 ルームシェアするアパートのダイニングのテーブルで、阿部君がノートパソコンをぱたんと閉じた。
「さあ、レン」
 声を掛けられて、ドキンと心臓が飛び跳ねる。
「そろそろ抜く?」
 ニヤッと笑いかけられて、赤面しつつもぶんぶん首を横に振る。でも断っても、逃げても、泣いても、暴れても、阿部君が許してくれる可能性はなかった。
 抜くっていうのは、勿論その、精子のことだ。
 ここのところオレは、阿部君に押し切られる形で、毎晩精子を抜かれてる。手とか口とか使って「ほらイケよ」って。なんでそうなったかのか、オレにもよく分かんない。
 そもそもの始まりは、阿部君がどこかからか見つけて来た、Webニュースの記事だった。

――20代の若年成人期においての射精経験の多さが、後年の前立腺癌の発生率を減少させると見られる――

 ざっと読んだだけで詳細はよく分かんなかったけど、なんか海外で、長期にわたってそういう追跡調査をしてたんだって。
 それで、20代の時の毎月の射精回数が21回以上のグループが、最も前立腺癌の発生率が少なかったんだって。
 月に21回って、1月が30日とすると、えっと、7割? くらいかな?
「つまりな、週に5回はやんなきゃいけねーんだ、分かるよな?」
 阿部君にぐいぐいと迫られて、「う……ん?」と曖昧にうなずいたのを覚えてる。
 いつもなら阿部君、こういうネット上の情報は「はいはい、眉唾」ってあまり信じない方なのに。なんでか今回ばかりは食いつきがよくて、戸惑いしかなかった。
 「手伝ってやるよ」って言い出されたときも、戸惑いしかなかった。
「毎日抜くのが理想だけどさ、お前結構のんびり屋だし、オレが促してやんねーと、うっかり忘れそうじゃん?」
 って。

「そ、そ、そう、かな」
 自分でものんびりなとこはあると思うし、いろんなことをうっかり忘れるってこともありがちだけど、だからって手伝って貰う必要もないと思う。
 っていうか、手伝って貰うものでもないと思う。
「だってお前、普段週1か週2だろ? それじゃ足りねぇんだって」
 見透かしたようなそんな言葉に、ひぃっと思いつつ赤面したのは、仕方のないことじゃないだろうか。
 週1か週2、確かにそのくらいだけど、なんでそれを阿部君が知ってるのか、分かんなくて怖い。
 そりゃあルームシェアしてるんだし、プライバシーが完全に保たれてるかっていうとそうでもないかも知れないけど、回数まで把握されてるとは思わなかった。
「た、た、タカヤ君は、何回くらいなんだ?」
 反撃のつもりでの問いかけは、「気になる?」ってニヤリと笑いかけられて撃墜される。

「オレの射精管理、してくれてもいいんだぜ」
 いい笑顔でオレの手を取り、それを自分の股間へと導く阿部君。そこは、ギョッとするくらい大きく固く盛り上がってて、「ひぃっ」と手を引きたくなった。

 阿部君によるオレの射精管理が始まったのは、それからだ。
「じゃあ、逆にオレがしてやるよ。管理」
 いい笑顔でニカッと笑われ、勿論即答で断った。けど、オレのお断りは却下され、「いいから、いいから」ってソファに押し倒され、「大丈夫、大丈夫」って馬乗りされた。
 何が「いいから」なのか分かんない。何が「大丈夫」なのかも分かんない。よくもないし、大丈夫でもないんだけど、不意打ちできゅうっと股間を揉まれて、「ひゃあっ」って悲鳴を上げちゃって、頭が真っ白になってしまった。
 その、最初のその時に、思いっきり暴れればよかったんだろうか? それか、思いっきり嫌がって泣けばよかったのか?
 今となっては仮定でしかないけど、「ほらほら」って促されるたび、背徳感に襲われる。

「ソファで抜く? それともベッド?」
 ソファで縮み上がってるオレの横に来て、阿部君がにこにことオレの肩を抱いた。
「ぬ、ぬ、抜かないって選択肢、は」
「ねぇな」
 キッパリと断言しながら、阿部君がオレをこてんとソファに押し倒す。
 さっさとソファから逃げとけばって思われるかも知れないけど、前に逃げてベッドに行ったら、ベッドは広い分、阿部君の遠慮もなくなるって思い知らされた。
 2LDKのこのアパート、ちゃんとオレの部屋も阿部君の部屋もある。鍵もかかる。けど、自室に鍵を掛けて閉じ籠ったら、カチャカチャとドアノブをいじる音がして――1分も経たないうちに、阿部君にドアを開けられた。
 想像して欲しい。いい笑顔でドアを開けて、部屋に入って来る阿部君の姿を。右手に握られたフォークを。
「見ぃ付けた」
 って、フォーク片手にゆっくり歩み寄られる恐怖を。

 フォークで鍵って開くもんなんだって初めて知った。
 阿部君に鍵かけても無駄なんだってことも分かった。
 分かりたくなかったけど事実だ。阿部君は止まらない。ファールとかアウトとか、言ってくれる審判もいない。

「またまたぁ、嫌がるフリしてっけど、お前だってホントは期待してんだろ?」
 そんなことを言いながら、阿部君がきゅうっとオレの股間を掴む。
 ズボンとパンツを、素直に脱がされるままになってるのは、期待してるからじゃなくて、服を汚したくないから、だ。
 阿部君は、容赦ない。いや、服の上からきゅこきゅこやられ、あっさり粗相しちゃうオレが情けないんだけど。でも、「可愛い」とか言われても嬉しくないし、どうせその後汚れた服を脱がされるんだから、先に脱いだ方がいい。
「ううう……」
 羞恥に唸るオレの姿に、「ほら、ビンビンじゃん」って阿部君が笑った。
「大丈夫大丈夫、これはお前のためなんだからさ。発癌リスクを下げるためなんだから、いいよな?」
「で、で、で、でも、オレばっか……」
 恥ずかしさと困惑とに視界を滲ませながら文句を言うと、むき出しの竿をきゅうっと掴まれる。

「ああっ」

 反射的に漏れる悲鳴。意図しないで浮き上がる腰。阿部君がくくっと笑いながら、オレの亀頭に舌を這わせる。
「自分ばっか恥ずかしーの?」
 からかうように言われて、「んっ」って叫ぶようにうなずくと、更に嬉しそうに笑われた。
「じゃあ、オレも脱ぐよ。それで一緒だろ?」
 言いながら、バッと阿部君が服を脱ぐ。その股間は、やっぱり凶悪に大きく勃起してて。
 これって、トモダチ同士でやることなのかな、って。そんな疑問が浮かんで消えた。

   (終)

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