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小説 1−16
エプロンと野獣 (原作沿い高校生)
エプロン姿でうつ伏せに寝そべってこちらを見ている三橋廉を妄想してみよう。
#shindanmaker https://shindanmaker.com/124702 より。



 三橋のエプロン姿を初めて見たのは、高1の春休みの合宿でのことだった。
 合宿っつってもわざわざ群馬に行くみてーな大掛かりなんじゃなくて、夏の時と同様に、学校の施設を借りたプチ合宿だ。
 料理や後片付けは当番制で、マネジも手伝ったり手伝わなかったり。
 夏の合宿でオレも三橋と組んで、朝飯作りをしたもんだった。
 夏の時は手伝いのマネジだけがエプロン着てて、オレと三橋は着なかった。あん時、オレが先にマネジに「いらねぇ」つったから、三橋も着なかったんだろうなって今となっては思い出す。
 つまり、オレが先に断らなければ、三橋はマネジに差し出されるまま、素直にエプロンを着ただろうってことだ。
 その春の合宿でも、きっとそんなノリだったんだろう。
「阿部、君」
 耳元でこそりと名前を呼ばれ、つんつんとつつかれて目を覚ましたオレの驚きを、想像できるだろうか?

「んん……」
 眉をしかめて唸りながら目を開けた、その目の前に、三橋の無防備なドアップがあって、ギョッとした。
 とっさに身を起こしてよく見ると、三橋は畳にうつ伏せに寝転がって、足をパタパタ揺らしてる。
 そのパタパタは何だ? すげー可愛い。
 オレが起きたのを確認し、ぴょこんと三橋が起き上がる。ぺたんと正座になってから「おっ」って薄い唇を開いた。
「おっ、お、……」
 「起きた?」って言おうとしたのか「おはよう」って言おうとしたのか、よく分かんねーけどどっちにしろ可愛い。全然言えてねーのも可愛いし、言うの諦めてうへっと笑って誤魔化そうとしてんのも可愛い。
 けど何より可愛いのは、ジャージの上にふりふりの白いエプロン着てるとこだ。
「あ、あ、朝ご飯、当番」
 とつとつと単語を告げられ、「おー」と布団からそっと抜け出す。
 三橋はオレを待たず、たたたーっと走って部屋を出ちまったけど、その後ろ姿に白いエプロンのリボンが揺れて、それがまたすげー可愛かった。

 合宿所の調理室に向かうと、シンクの前でマネジと三橋が並んで何やら喋ってた。
 2人してお揃いの白フリルのエプロン着けてるけど、マネジよりも断然三橋の方が似合ってる。
 そのくせ、小柄なマネジの横に立つと三橋もちゃんと男に見えて、そのギャップにドキッとさせられた。
 眩しくて新鮮で、いつまでも眺めていたくなる光景。
 三橋の淡い色の髪が、窓からの朝日に透けてキラキラと美しい。
 すらりとした痩身、マネジと比べると広い肩幅、色気のねぇジャージ上下を可憐に彩る白いエプロン。ヘタクソなちょうちょ結びのリボンの下で、小ぶりな尻がぷりんと揺れる。
 調理室の入り口で立ち止まったまま、魂を奪われて呆然と立ってると、2人がくりんと振り向いた。
 声を掛けて来たのは、目敏いマネジだ。
「あ、阿部君。おはよう」
「おー、ワリー、寝坊した」

 謝りつつも中に入ると、「阿部君も着る?」って白エプロンを差し出される。
 「いらねー」って即答したのは勿論のことだ。
 フリルの白いエプロンなんか、オレが着てどうすんだっつの。こういうのは三橋みてーな甘い雰囲気のヤツしか着こなせねぇ。
「レンは似合ってるよな」
 ニヤリと笑いながら改めて三橋の全身を眺めてると、「えっち!」ってマネジに言われた。
 なぜか片手で、三橋の尻を隠すマネジ。
「今の阿部君の目、危険だった」
 って。意味が分かんねー。
「はあ!?」
 思いっ切り睨みつけると、マネジは一瞬怯んで――じわじわ赤くなりながら、オレをじとっと睨み返した。

「み、三橋君にだけ特別過保護で特別優しい阿部君は好きだけど、三橋君を野獣のような目で狙おうとするのはサイテーだと思う」

 オレとマネジとの間で、おろおろキョドッてた三橋が、「や、じゅう」ってぽつりと呟く。
 マネジと三橋、2人分のデカい目で見つめられ、オレもさすがにちょっと怯んだ。
 そんな、野獣みてーな目をしてたんだろうか? 自分じゃ分かんなくて、思わず片手で口元を押さえる。
 三橋の尻なんか狙って、ねぇとはハッキリ否定しがたいけど、否定してぇ。
「訳分かんねーな。いいからメシ作るぞ」
 マネジを押しのけるようにして三橋の横に立ち、「何すりゃイイ?」って三橋に問いかける。
 三橋はまだきょときょととオレとマネジとを見比べてたけど、間もなく空気を読んだのか、「に、に、ニンジン、切ろう」って包丁をぱっと手に取った。


 そんなことがあって以来、マネジに不審な目で見られることが多くて困った。
「しのーかってさぁ、よく阿部のこと見てるよね……」
 水谷にぼそっと言われたけど、あれは見てるんじゃなくて監視してたんだ。間違いねぇ。
 次の日から三橋にって特別に用意されたのは、腰の部分をくるっと一周して覆うタイプのエプロンで、ぷりんとした尻は隠された。
 すげー意図的。
 すげー誤解。オレだって、学校内で合宿中に三橋に飛びついて襲い掛かる程の野獣じゃねぇっつの。
 誤解だ。
 だが、卒業したら解禁だ。

 いや解禁はとうに済ませちまった後だけど、あのマネジのキツイ監視から2年、オレはよく耐え抜いたと思う。
「なあ、レン?」
 目の前で寝そべる恋人に、穏やかな笑みを向ける。決して野獣のような目じゃねぇ。穏やかな笑みだ。

 この2年の間に相棒から恋人へと格上げになった三橋は、無防備にフローリングに寝転がって野球雑誌を眺めてる。
 無意識にか、足をパタパタさせてんのが可愛い。
 むくっと置き上がってぺたんと正座になる、その仕草も身軽で可愛い。
 色気のねぇ私服の上に身に着けたエプロンは、スタイリッシュなグレーのエプロンだったけど、色白なレンによく似合ってる。
 甘い顔立ちのヤツだから、フリフリじゃなくても十分甘ぇ。
 何より、オレ色にすっかり染まっちまったみてーな感じがして、これはこれで悪くねぇ。
 いつまでも眺めていてぇけど――。
「な、に?」
 こてんと首をかしげる顔がたまんなく愛おしくて、思わず「がおうっ」ってなっちまうのは、仕方のねぇことだった。

   (終)

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あきゅろす。
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