[携帯モード] [URL送信]

小説 1−16
あるキャプテンと例の部屋 (出られない部屋にての続編・花井視点)
花井と三橋は『部屋に放たれたゴキブリを10匹抹消しないと出られない部屋』に入ってしまいました。
120分以内に実行してください。
#shindanmaker https://shindanmaker.com/525269

花井と阿部は『部屋に放たれたゴキブリを10匹抹消しないと出られない部屋』に入ってしまいました。
20分以内に実行してください。
#shindanmaker https://shindanmaker.com/525269 より。


 うちの学校の7不思議には「〜しないと出られない部屋」っていうのがある。かなり昔から存在する伝説で、OGであるモモカンも知ってたし、三橋んちのオバサンも知ってたって。
 実際に誰かが遭遇したなんて話は聞いたことなかったけど、まあそれも含めて、よくある7不思議の変種なんだろうと思ってた。
 その例の部屋らしきところに、阿部と三橋が入り込んだって話を聞いたのは、つい先日のことだった。
「せ、せ、狭い部屋で、ねっ、上から、声が聞こえて来て、ねっ」
 って。
 三橋が大いに興奮しながらみんなに話してくれたけど、相変わらずというか、イマイチ要領を得なくて状況が分かんねぇ。
 一緒に入ったらしい阿部に訊くと、「まあ、レンの言う通りな感じかな」って言うだけで、補完してはくれなかった。
 どういう指令が出たのかは知らねーけど、何かあったのかなー、とちょっと思う。
 ただ、子供だましの眉唾だと思ってた7不思議の1つに、実際にチームメイトが遭遇したって話は、オレにとっては興味深かった。

 あんま過酷な目には遭いたくねーけど、オレも簡単なのなら入ってみてぇ。
 そんな風に、気楽にうらやんでたからだろうか? 部室に入ろうとドアを開けた瞬間、真っ白な部屋ん中にいてビックリした。
 たった今掴んでたドアノブも、部室も何もねぇ。代わりに後ろから「ふおっ」って奇声が聞こえて来て、イヤな予感に恐る恐る後ろを振り向く。
 そしたらそこには三橋がいて――2人っきりなんだと分かった。
「まっ、こっ、はっ」
 意味不明なことを言いつつ、オレの方に寄って来る三橋。ドン引きながら「おお……」と応じると、どこからともなく不思議な声が響いて来る。
『ここは「部屋に放たれたゴキブリを10匹抹消しないと出られない部屋』です。120分以内に実行してください』
「ゴ……はあっ!?」
 思わず訊き返そうとしたオレの目の前を、黒い虫がブゥンと飛んで横切ってく。
 別に、ゴキブリなんか怖くねぇけど、飛んで来られんのはちょっとビビる。真っ白な部屋だから、黒いのが余計に目立ってキモい。

 6畳くらいって、家具もねぇしオレの部屋より広いくらいだけど、飛び交うGと2人で戦うにはちょっと狭い気もする。
 三橋って、ゴキブリ平気だっけ?
 Gの苦手なうちの母親や妹らみてーに、きゃあきゃあ悲鳴を上げるんじゃねぇかと思ったけど、三橋は案外平気なようでぼうっとゴキブリを眺めてた。
 ぎゃあぎゃあ言われるよりはマシだけど、戦力には期待できなそう。
「抹消って、どうやって!?」
 思わず口に出すと、どこからともなくポトンと白いハリセンが2つ落ちて来た。これでヤレってことなんだろうか?
「ハリセンかよ! 殺虫剤とかねーのかよ!」
 オレの心からのツッコミに、残念ながら返事はねぇ。
「む、虫、さん」
 ぼうっと立ち尽くす三橋は頼りにならねぇ。

「虫さんじゃねぇ、ゴキブリだ! 頑張って抹殺しよーな!」
 キビキビ言いながら三橋にハリセンを手渡すと、三橋は「うおお」と目を見開いて、「うんっ」って元気よくうなずいた。
 ただ、いいのは返事だけだった。飛び交うGには怯えねぇくせに、オレがペシーンとGを潰すと、その音に「うひっ」とビビる三橋。
 ゴキブリに怯えて騒がねーのはいいけど、ゴキブリを潰すだけの気力はなさそう。
「はっ、はっ、花井君っ、スゴイぃぃぃっ」
 って、キラキラの目で誉めてくれんのはいいけど、それは「お兄ちゃん、すごーい」って誉めてくれる母親や妹たちの笑顔よりもキラキラで、なんかちょっと、参った。


 翌日、例の部屋で三橋がちっとも役に立たなかった話を阿部に愚痴ると、「へーえ」って冷たい相槌が返って来た。
「ふーん、レンとねぇ……」
 恨みがましい感じでじとっと睨まれて、あまりの不本意さに「ええっ」って戸惑う。
「うらやましーの!?」
「別に」
「別にって態度じゃねーだろ!」
 オレがあん時、援軍のなさにどんだけ絶望したと思ってんだろう? 白い部屋ん中を自由に飛び交うゴキブリを10匹、オレが1人で殲滅させたんだぞ、ハリセンで!
「お前もいっぺん、入って見りゃいーんだよ、Gの部屋」
 教室を出て廊下を歩きながら恨みがましく阿部に言うと、阿部は「そーだな」とうなずいて――唐突に、周りが真っ白に変わった。

 また例の部屋だって、2度目だからすぐに気付いた。今度は阿部かよ、とうんざりしつつ謎の声を待ってると、間もなくどこからかそれがすぐに響いて来た。
『ここは「部屋に放たれたゴキブリを10匹抹消しないと出られない部屋」です。20分以内に実行してください』
「またかよ!」
 思わずツッコミを入れたオレの目の前に、しばらく見たくもなかった黒い虫がぶぅんと横切る。
「しかも20分!?」
 昨日は確か120分だったハズなのに、いきなりの短縮に理不尽の3文字しかなかった。
 オレが何かを言うまでもなく、昨日と同じ白いハリセンが2つ、ぽとんと床に落とされる。それを嫌々拾い上げながら、オレは恐る恐る阿部に訊いた。
「お前、ゴキブリは……」
 平気か、との問いかけを全部言い切るより早く、スパーンとハリセンの音が響いて、Gが1つ抹消された。

 スパーン! スパーン! 狭い部屋の中に容赦なく響くハリセンの音。
 「うわぁ」とビビることも、「うひっ」と奇声を上げることもなく、無表情のまま無言でハリセンを振るう阿部は、なんかすげー不気味で怖い。
 ドン引きで見守るオレの頭にも、スパーンと1発ハリセンが飛んできて、「おいっ」ってツッコむ。
「あ、ワリー、つい」
 って。ちっとも悪いと思ってなさそうな顔と声で謝られ、それ以上文句も言えなかった。
 なんでオレにハリセンを食らわせたのか? ムカついたからか、ホントにGが止まってたか、いや後者はあって欲しくねぇから単純にムカついたって理由にして欲しいとこだけど、どっちにしろ理不尽で、立ち向かう気力が削げ落ちる。
 狭い部屋を飛び交うGより、Gを滅殺する阿部が怖い。
 結局、ゴキブリを10匹殲滅するまでに5分もかかってなくて――オレは何もしなかったけど、もう2度と誰とも、こんな部屋には入りたくねぇと心から思った。

   (終)

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!