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小説 1−16
出られない部屋にて (原作沿い高1)
アベミハは『お互いの頬をくっつけたまま10分経過しないと出られない部屋』に入ってしまいました。
120分以内に実行してください。
#shindanmaker https://shindanmaker.com/525269 より。



 うちの学校の7不思議の1つに、「〜しないと出られない部屋」っていうのがある。
 何をさせられるかは人それぞれ違うみてーで、正坐を1時間だったり、腹筋100回だったり、ダジャレを50個言わされたりとか、色々だって。
 他の7不思議は「突然鳴り出すピアノ」とか、「無人のグラウンドに響くバットの音」とか、それなりに定番なモンなのに、「〜しないと出られない部屋」って、それだけが何だか独特だ。
 そのくせ、「1人になるまで殺し合え」とか「ビールを一気飲み」とか、そういう不穏だったり法律違反だったりするような指示は出ねぇっつー話だから、そこはやっぱ「学校の怪談」ってことなんだろう。
 レンが言うには、OGであるレンの母親の時代にも似たような話はあったらしい。
 当時は「〜しないと出られない部屋」なんて言い方はしてなかったらしいけど、名前が変わっても本質が変わる訳でもねぇ。それなりに古くからある伝説の1つだったみてーだ。

 そういう前知識があったから、いざ自分がそれに遭遇した時も、案外焦りはしなかった。
 廊下をレンと歩いてた途中、ふと気付くと六畳くらいの真っ白な小部屋に入り込んでて、「あれ?」って感じだ。
 1人じゃなくてレンも一緒だったっつーのも、冷静になれた理由の1つだろう。
 そのレンはっつーと、「ふおっ」とか「ふえっ」とか奇声を上げつつ上下左右に激しくキョドッてて、横で見てておかしいくらいだった。
 人間、自分より動揺してるヤツを見ると、逆に冷静になれるモンなんだな。
 ともかく「ああ、あれか」とパッと思い浮かんだお陰で、レンのようにキョドらずには済んだ。

 オレらの入り込んだ部屋は、「お互いの頬をくっつけたまま10分経過しないと出られない部屋」だったみてーだ。
 それを知らせる声は、天から朗々と響いて来た。
『ここは、「お互いの頬をくっつけたまま10分経過しないと出られない部屋」です。120分以内に実行してください』
 神の声なのか霊の声なのか、それとも妖精さんとかキツネやタヌキの類の声なのか、その辺は全く分かんねぇ。声の主の顔を見ることはできねーし、出入り口もなければ窓もなかった。
 レンはその声にビクッとなってたけど、それで状況を理解したらしい。「おた、がい、の」ってたどたどしく繰り返しつつ、オレの顔をじっと見た。
「時間制限あんのか。ちなみに、120分以内にできなかったらどーなんの?」
 ダメ元で訊いてみると、『出られません』って言われた。返事があるとは思わなかったからビックリしたけど、状況に変わりはねぇようだ。
 けどまあ、幸い、やれって言われてることは大して難易度も高くねぇ。
 ぼうっとしてても時間の無駄だし、さっさと終わらせようと思った。

 レンも同じように思ったらしく、「こっち」ってあぐらをかいて手招きすると、素直に隣にやって来た。
「さっさと終わらそーぜ」
「う、ん」
 こっくりと大きくうなずき、レンがぺたっとオレの頬に頬をつける。そうして十数秒経ったところで、レンが頬をつけたままぼそっと言った。
「阿部君、の頬って、チクチクだね」
 一瞬意味が分かんなかったけど、もう放課後だし、ちょっとヒゲが伸びて来たかも知れねぇ。まだほんの数本だし、自分じゃもう慣れたけど、ヒゲなんてレンには縁が薄そうだ。
「チクチクで、ザラザラだ、ね」
「うるせーよ。お前のはモチモチだな」
 言い返してやると、レンがうひっと笑った。笑う感触が頬を伝わっておかしな感じだ。

「お、お手入れしてる、から」
「マジかよ!」
「う、ウソ、だ」
 そんなことを言ってふひふひ笑うレンに、「ウソかよ!」って思わずツッコむ。そしたらその拍子に頬が離れたみてーで、ブブー、とブザーの音が鳴り響いた。
『頬が離れました。もう1度やり直しです』
 そんな謎の声が聞こえて、レンが「うお……」と目を見開く。その見開いた目でじっとりとオレを睨んで来て、レンのくせに生意気だ。
「阿部君、ちゃんとやらない、と」
 真顔で指摘されてうるせーと思う反面、コイツ言うようになったなって思うと、ちょっと嬉しくなくもなかった。
 一時期はオレのことすげー怖がって、声かけるだけで逃げてたりもしてたのに。いつの間にか目が合うようになって、こうして言いたいこと言うようになって来た。
 つまり、オレに慣れて来たってことで、よかったなぁとしみじみ思う。
 この状況にも慣れたみてーで、ポケットからゴム紐を取り出してみょんみょんと指の訓練もし始めた。

 ゴム紐を使った指の訓練は、コーチに教わったチープなやり方だ。フィンガーバンドとかフィンガーストレッチャーとか、千数百円出せばそれなりの物も買えるらしい。
 レンはこれが気に入ったみてーで、暇さえあればみょんみょんと訓練してんのをよく見かける。
 10分っつったらあっという間な気もするけど、確かにその間暇だし、ぼうっと座っててもすることがねぇ。オレもゴム紐とかゴムボールとかポケットに入れてりゃよかったと思った。
「10分って、結構長ぇなぁ」
 ぼそっとぼやくと、レンが「ぼ、ボール、数えたらすぐだ」って言い出した。羊じゃなくてボールを数えるってとこがレンらしくて、ちょっと笑える。
「1分は60秒だから、1秒に1球で、えっと、360球投げ、れる」
 1秒に1球投げんのは無理だろー、とツッコみかけたところで、待てよ、と思った。
「なんで360だよ」

 オレの問いに、みょんみょんとゴム紐を伸ばしつつ、レンが「えっと」考えを巡らせる。ただ、その考えがろくなモンじゃなかった。
「1時間は60分、で、1分は60秒、だから、えっと……」
 って。
「10分だっつってんだろ、1時間じゃねぇ! しかも1時間は3600秒だ!」
 思わず怒鳴りつけ、おバカな頭にウメボシを食らわせたところで、再びブブーとブザーの音が鳴り響いた。

『頬が離れました。もう1度やり直しです』
 再び部屋に響く謎の声。再びじとっと向けられるレンの睨み。
「あ、阿部、君、真面目にしないと終わらない、よ」
 真顔で説教めいたこと言って来られると、図星なだけにムカっと来る。レンのくせに、マジで生意気。
「誰のせいだ、誰の?」
「オ、レは何もしてない、よっ」
 デカい目をオレにまっすぐ向けて、レンがキッパリ言い放つ。
 いつの間にコイツ、こんな目をするようになったんだろう? ホント、4月からは考えられねぇ進歩だなと思うけど、複雑な気分は否めねぇ。
 どちらからともなくため息をつき、再び座り込んで頬をぴたりとくっつける。
「チクチク、ザラザラ」
 ぼそっとそんな呟きをするレンに、コノヤロウと思いつつ、「うるせーよ」って言い返す。

 無性に抱き寄せてキスしてぇって、そんな気がすんのはなんでだろう?
 頬だけとはいえ密着してるからか? 肌寒い季節だから? それともレンとの会話が楽しいからだろうか? いや、でも、だからってキスはねぇと思うし、よく分かんねー。
 ともかく今は何も考えず、無難にボールを600球、数えんのが無難かも知れなかった。

   (終)

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