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小説 1−16
それはきっと恋だろう (社会人・泉視点・アベミハイズ・泉→三)
飲み会では気付いたらいつも隣の席に座るアベミハ
#恋ともつかない #shindanmaker https://shindanmaker.com/736744 より。



 酔って今にも眠そうな顔になった三橋が、ぐらんぐらんと体を前後左右に揺らし始めて、やがてこてんと隣のヤツの肩にもたれた。
「お、もう限界か、レン」
 もたれかかられた阿部が苦笑して、三橋の頭を片手で撫でる。撫でられた三橋は安心したように「むにゅう」と意味のない声を上げて、そのデカい目を閉じた。
 阿部はっつーと、そんな三橋の頭を撫でつつ、何事もなかったように逆隣の巣山と話を続けてる。
 巣山の方がちょっと目を見張ってたけど、結局ツッコミすることはなかった。
 なんでかっつーと、それがいつもの光景だからだ。
「あっ、レン寝ちまった」
 別テーブルにいた田島が苦笑したけど、「いつも寝るよな」で話が終わる。
「もう飲まさねー方がいーんじゃねーか?」
 とか。
「いや、コイツのことだからウーロン茶でも寝るぞ」
 とか。みんなに好き勝手言われてっけど、三橋が起きる様子はねぇ。口をあどけなくぽかんと開けて、阿部にもたれて寝入ってる様子は、すげー無防備に見える。

「そういや、レンっていつもタカヤにもたれて寝るよね。っていうか、いつもタカヤの隣に座ってない?」
 向かい側の2人の様子を眺めながら、栄口が首をかしげる。
 「そういやそうだな」なんて声があちこちから聞こえて、今更気付いたのかよってオレは密かに苦笑した。
「いつから?」
 って。前からだ。ずっとずっと前からだ。
「オレは知ってたぜ」
 自慢げにニヤリと笑い、苦いビールを一口飲む。
 こいつらがいつも自然と一緒にいんのは、高1の時からずっとだった。
 合宿でメシ食うのも隣だし、午後練の途中でおにぎり休憩する時だって、気付くと隣に座ってる。
 メシだけじゃなくて、寝る時だって大体いつも隣同士だ。
 たまに隣じゃねぇ時もあるけど、そんな時は落ち着かないように互いにちらちら視線を交わしてたりもする。
 
 それで付き合ってる訳じゃねぇっつーんだから、それを知った当時は驚いたモンだった。何となく気付いたら一緒にはいるけど、好きとか恋とか、そういうんじゃねぇんだって。
 付き合ってねぇんなら、オレが隣でもいーじゃんって思って、三橋に告白したこともある。
「お前のこと、好きなんだ。これからは阿部じゃなくてオレの隣にいてくれねぇ?」
 って。
 けど、結局それは無理だって、数日経たねぇ内に思い知らされた。
 オレといても、三橋は無意識に阿部を探す。阿部抜きでどこかに出かけても……それが例え田島の家でも、やっぱ三橋は阿部のことを求めてる。
 大人になった今だって、オレと2人で飲んだとしても、オレにもたれかかって居眠りする程気を抜かねぇ。
 好きとか恋とかそういうんじゃねぇんだって三橋は言うけど、阿部以外の誰も選べねぇってのは現実にあって、諦めるしかなさそうだった。

 阿部の気持ちはどうだか分かんねー。
 阿部に恋人でもできりゃ、三橋の意識も依存心も変わるんじゃねーかと思ったけど、今に至るまでそんな話は1度もなかった。
 三橋も阿部も、女にモテない訳じゃねーだろうに、誰かと付き合ってるって話は聞かねぇままだ。
 それはもう、恋って呼んでもいいんじゃねーかとちょっと思う。
 互いに互い以外を選べねぇっていうなら、それは恋だ。
 誰と付き合っても三橋のことばっか諦められねぇでいるオレのためにも、さっさと潔くくっついて欲しい。
 はあ、とため息をつきつつビールを飲み下すオレの正面で、三橋が阿部のヒザを枕にこてんと寝転がった。

「あーあ、寝の体勢だぜぇ」
「おーいレン、肉だぞー」
 呆れたようにみんなが笑い、冗談半分で肉を三橋の顔に寄せる。
「男のヒザでなんか寝るなよー」
「そこは固くねーの、レン?」
 口々に声を掛けられても、三橋が起きる気配はねぇ。代わりに阿部が「いーんだよ、ここで」なんて適当にみんなに答えつつ、巣山と会話を続けてる。
 そうして誰かと談笑を進めつつ、片手間のように三橋の頭を撫でる阿部。
 阿部の武骨な手が無防備に眠る三橋の髪を撫で、頬を撫でる。三橋はそれを嫌がったのか、阿部のヒザの上でくるりと寝返りを打った。阿部の腹に顔を押し付ける形で、より一層くっついたように見える。
 そんな三橋を見下ろして、ふっ、と笑みを落とす阿部の顔がビックリするくらい穏やかで優しい。
 阿部の気持ちなんか聞いたことねーし、知らねーし、聞きたくもねーけど、やっぱ満更じゃねーんだろって思えて来る。

 悔しさがじわっと腹ん中に淀む頃、阿部がふと顔を上げて、目が合った瞬間、ドキッとした。
 阿部の口元が、ゆっくりと笑みの形を刻む。
 自慢と自信に満ちてて、得意気で、ちくしょーって思いに胸が震えた。オレの気持ちを知ってて阿部は、笑ってる。
 ああやっぱ、オレに勝ち目はねぇんだなって、ガーンと胸を打つように思い知らされた。

 結局飲み会が終わるまで、三橋は目を覚まさねぇままだった。
「ほら、レン、帰るぞ」
 阿部が無理矢理起こして立たせてたけど、肩を支えられて歩きつつも、三橋はちっとも歩けてねぇ。
「それ、どうすんだ?」
 心配そうに花井が訊くのを、「大丈夫」って軽く流す阿部。慣れた様子で手を上げてタクシーを拾い、みんなが見守る中、三橋をぐいぐい車内に押し込めて自分も隣に乗り込んでる。
「オレら今、一緒に住んでっから」
 そんな言葉を1つ残し、タクシーのドアがパタンと閉じた。
「……はあ!?」
 オレも花井も、他のみんなもビックリ声を上げる中、阿部はニヤリと手を振って――そんで車が走り出した。

 あいつらが付き合ってんのかどうなのか、結局オレは知らねーままだ。付き合ってなくても一緒に住むことは有り得るし、好きだから一緒に住んでるとも限らねぇ。
 けど、他の誰も選べない結果としての今があるなら、それはきっと運命だろう。
 どっちみちオレの割って入る隙はなさそうで、諦めが心にストンと落ちた。

   (終)

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