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小説 1−16
カクテルフレンズ・3
 巣山は昔から割と冷静で淡々としたヤツだったけど、オレが恋人と同棲してるって教えた時も、そんなに驚いた様子は見せなかった。
 相手が男で、バーテンダーだってことも、「ああー」つっただけで、そんなに意外そうにはしてなかった。
「新人研修ん時の、あのバーのだろ? お前、食い入るように見てたもんな」
「そうか?」
 自分じゃ全然自覚なかったし、出会って即付き合おうってなった訳じゃなかったけど、まあ三橋との出会いが運命だったことは確かだし、否定する気にはなれなかった。
 むしろ、自慢してぇ。
「これ、アイツの手作り」
 冷蔵庫を再び開けて、フルーツの炭酸漬けを出してやると、「すっげーな!!」とお世辞抜きで感嘆してて、気分良かった。

 フルーツの炭酸漬けは、三橋がお隣の、例の化粧品販売店の店員らから教わったものらしい。ガラス瓶に詰めると見た目もオシャレで美味そうだけど、オレとしては炭酸効果で味に深みが出てんのが気に入ってる。
 職場であるバーに持ってくと、あっちでもやっぱウケたみてぇでメニューに加わったって喜んでた。
 ちなみになかなかの値段が付けられてて、うわっと思ったけど、ああいうのは雰囲気も大事だし。バーで注文しなくても、愛する恋人がオレのために作ってくれるから、問題なかった。
 ハーブティーを飲みながらフルーツをつつき、しばらく巣山と時間を潰す。
 月曜からの業務の話とか、課長の愚痴とか、逆らっちゃいけねぇ女子の先輩の逸話とか色々話した。巣山の前の職場の話も色々聞いた。本社は本社で面倒なことも多いけど、小さな営業所も少人数なりの煩わしさはあるらしい。
 三橋のバーの開店時間は午後6時。オレ1人だとジリジリするだけだった待ち時間も、巣山のお陰で有意義に過ごせた。
 三橋とのラブ生活を邪魔されんのは御免だが、オレのプラスになるんなら、また呼んでやってもいい。

 開店時間少し前に家を出て、6時ほぼピッタリにバーに着く。
「うわ、ホントに近いんだな」
 巣山にはまた驚かれたが、三橋の職場に近いことってのが新居選びの絶対条件だったから、当然だ。
 ヴィラペッシュに出会うまでの苦労も、今となっては感慨深い。
「会社の近くにアパート借りるとか、どんだけ社畜なのかと思ったけど、気軽に飲みに来られる環境ってのは悪くねーな!」
「終電も気にしなくていーしな」
 巣山にニヤリと笑い返し、地下への階段を数段降りる。見慣れたドアを開けりゃ、すっかり見慣れた店内だ。賑やかな洋楽、抑えた照明。毎回律儀に「いらっしゃいませー」って言いながら、呆れた顔で畠が案内しにやって来る。
「お好きな席へどうぞー」
 案内ついでの軽口がなかったのは、珍しく連れがいたからだろうか。

「カウンターでいーよな?」
 一応声を掛けつつも、返事を待たずにフロアを進む。
 カウンターの隅のいつもの席に座ると、オレのスイートハニーバーテンダーが、にこっと笑いながら寄って来た。
「お友達?」
 こてんと首を傾げる様子が、知ってたけど可愛い。
「コイツに友達なんかいんの?」
 って、向こうで何か言ってる叶は無視だ。
「ずっと前に、一緒に来たことあるんだぜ。まあ、集団だったけどな」
 な、と言いながら隣に座った巣山を見ると、ヤツはしみじみ頷いて、「懐かしいなー」って頬を緩めた。まだオレらしか客のいねぇフロアをぐるりと見回して、ちょっと意味深にオレと三橋とを見比べる。

「オレ、あの時たまたま誕生日だったんだけどさー、覚えてるかな? 阿部が横から出しゃばって来て……」
「はあ?」
 三橋との運命的な出会いについては勿論しっかり覚えてたけど、出しゃばったがどうとか、そんな記憶は生憎なかった。
「あれは、お前が誕生日だからって、話を向けてやったんだろ」
「そうか? オレをダシにしようとしてただろ」
 互いにニヤッと笑いながら思い出話を続けてると、意外にも三橋が話に入って来た。
「あっ、ミドリスプライス、だ、オレ覚えてる、よっ」
 得意げに言いながら、銀のカップをくるんと手の中で弄ぶ三橋。
「その後、えっと、ミドリスプモーニ、作ったかも」

 巣山の顔は覚えてなくても、出したカクテルは覚えてるとこ、相変わらずでちょっと笑える。
 オレとフレアとどっちが好きっつったら間違いなく負けるんだろうけど、普通に酒相手にも負けそう。けど、そういう頑張ってるトコが好きなんだから仕方ねぇ。
 対する巣山はっつーと、「すげー」と素直に三橋を誉めた。
「そうそう。そういう名前だった、あのカクテル。甘ったるそうに見えて意外と辛めで、爽やかで美味かった」
「じゃ、じゃあ、ミドリスプモーニ、飲みます、か?」
 巣山が「そうだな」って頷くと同時に、叶から三橋へと緑色のリキュール瓶がくるくる回りながら飛んで来た。それをヒジで軽くタップして、頭上でくるんと回転させて何気ない仕草で受け止める。
「阿部君、は?」
 オレに注文を訊きながら、タンブラーに氷をコロンコロンと入れてく三橋。ミドリの瓶が再び宙を舞い、ヒジ、肩、手の甲を経て、タンブラーにジャッと注がれる。

  甘みを抑えたメロンリキュールの酒は、そういや最近飲んでねぇ。
 意味深なハーブ系のばっかじゃなくて、甘くねぇフルーティなカクテルが飲みてぇ。
「じゃあそのミドリ使ってよ。あんま甘くねぇヤツで、シェイクして」
 オレの適当な注文に、三橋はトニックウォーターを弄びながら、「いいよー」と可愛く微笑んだ。

(続く)

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