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小説 1−16
ご褒美はどっち・前編 (社会人)
※こちらはpixivで発表済みのオリジナルBLをアベミハに書き換えて、諸々修正したものになります。



 会議終わりの休憩室で、自販機のコーヒーを片手に一休みしてると、その会議で司会をやってた恋人のレンが、「ここ、いい……?」と隣に座って来た。
 若干ふらついてるように見えるのは、ここ1、2ヶ月ほど、デカいプロジェクトに掛かりっきりだったからだろう。さっきの会議でオレも概要を知った訳だが、担当の連中はさぞ大変だっただろうなと感心した。
 その担当者の1人であるレンが、かなり頑張ってたのも分かってる。
 土日もほぼ返上で休日出勤してたし。「どっ、どれだけ残業、しても、終わらっ、ないっ」なんて泣き言を、夜中の電話で聞かされたりもした。
 デートなんか当然できる暇もなく、あっちの方も随分とお預けだ。
 けど、会社で少しでも顔は見れるし、仕事が大変なのも同僚としてよく分かる。メシくらいはたまに一緒に食ってたし、それでまあまあ満足だった。

「お疲れ」
 紙コップを掲げて乾杯の真似をしてやると、「オレ、頑張った」ってこっくりうなずかれる。
「頑張った、ご褒美欲し、い」
「何だよ?」
 苦笑して尋ねると、「あのね、明日、アイス買って来て」って耳元で囁かれた。
 なんでアイスなのか、意味が分からねぇ。ご褒美はオレとアイスのどっちなんだ?
「今夜じゃダメなのか?」
 ちょうど金曜だし、明日は土日だから多少ゆっくりできるだろう。けどレンはふるふると首を横に振って、「う、ごめん、明日で」と謝った。
「今日は寝たい」

 ぼそっと告げられる言葉に、ちょっと目を逸らしたのは、寝かせてやれる自信がなかったからだ。だって久し振りだし、オレの方も色々と溜まってる。
「そ、そんで、明日起きたら、部屋片付ける」
「ああ、そりゃ大事だな」
 日頃から整理整頓の苦手なコイツがわざわざ「片付ける」って言うからには、そりゃあ酷ぇ状態なんだろうと予想がつく。
 食いカス落としたりはしてねぇからか、Gをまだあの部屋で見た事ねぇのだけが幸いだ。
 まあでも、今日の会議のために睡眠時間も削ってただろうし。今日くらいはゆっくり寝かせてやってもいいかなと思った。
 あと、オレがウメボシ捻じり込みたくならねぇ程度には、部屋を片付けてて欲しいなとも思った。


 レンへの土産は、チョコでコーティングされてる系の棒アイスの大箱にした。
 単純に好きなアイスだからってのもあるけど、多忙なせいでぶっ飛んじまったバレンタインとホワイトデーの意味もある。いつもレンから貰えるチョコが、今年はなかった。
 まあ、レンの多忙さは1月から既に始まってたし、バレンタインはオレも女子から義理チョコ貰って気付いたくらいだから、責めるつもりは全くねぇ。
「うおっ、ほ、ホワイトデーは、オレ、用意する!」
 コンビニで買ったチョコを渡すと、さんざんキョドりつつ謝られたけど、別に怒ってる訳じゃねぇし。ホワイトデーだって、レンには悪ぃけど、ほぼほぼ期待してなかった。
 一緒に住めば、もうちょっと楽に一緒にいられんのかな、と思うことはある。けど、「混ぜるな危険」みてぇにならねぇとも限らねぇ。
 結局、これくらいの距離感がオレには楽だし、レンも多分一緒だろう。

 久々に通る恋人のアパートまでの道のりは、いつの間にか春の気配にあふれてた。
 そういやもう、3月も半ばなのか。あちこちの庭先に花が咲いてんのが見える。桜も間もなく咲きそう。
 アイスじゃなくて花見団子の方が良かっただろうか?
 土産の入ったレジ袋を片手に、春めいた住宅街を速足で進む。レンの住むアパートの玄関前でも、生け垣が花を咲かせてた。

 ピンポン、と呼び鈴を鳴らすと、ラフな格好のレンがドアを開けてくれた。
「い、いらっしゃい」
「ああ」
 緩んだ笑顔を見ると、どうやら昨日はゆっくり眠れたようだ。若干寝過ごしたのか、部屋はまだ多少散らかってたけど、足の踏み場もねぇって程じゃなさそうだ。
 どちらからともなく顔を寄せ、ちゅっと軽くキスを交わして靴を脱ぐ。
 それを見計らったように、洗濯機かららしい機械音がメロディを奏でた。
「わ、うお、せ、洗濯機」
「行って来い。お世話して来い」
 いや、洗濯機にはお世話される方だろうか? そんな軽口に笑いつつ、手土産を入れるべく冷蔵庫の前に立つ。
 真っ先に手を付けたのか、シンクに汚れた食器の山はなく、コンロ周りもキレイだった。

「アイス、入れとくぞー」
 「うーい」と答えが返るのを聞きながら冷凍庫の引き出しを開けると、そこは冷凍食品で満杯だった。
「おーい、アイス入んねぇぞー」
「ええー?」
 訊き返す声がちょっと遠い。どうやら洗濯機のお世話で忙しいらしい。仕方なく冷凍庫をガサガサと漁って、冷食を整理して詰め直す。
 部屋の整頓が苦手なヤツが、冷凍庫の中を上手に整頓できるはずもねぇ。冷凍ピラフ、冷凍ラーメン、5玉入りの冷凍うどん、いつの余りか分からねぇ冷凍ご飯に、同じくいつのか分からねぇミックスナッツ。
 それに混じるように、なんでかクーベルチュールってのとドライフルーツも入ってて、何だコレと思った。
 チョコの250g大袋入りを引っ張り出すと、具合よくスペースも空いて、アイスの箱が余裕で収まる。チョコとアイスなら、冷凍庫にはアイスの方が優先だ。

 それにしても、なんでクーベルチュールなんか買ったんだろう? まさか食うためか?
 不思議に思いながら冷凍庫の引き出しを閉めると、洗濯機のお世話を終えたレンが戻って来た。
「アイス、アイス」
 嬉し気に顔を緩めながら、閉めたばかりの冷凍庫を開けるレン。
「うおっ、箱の、だ」
「それ、入んなかったから、こっち外に出したぞ」
 ドーンとクーベルチュールを見せてやると、レンはアイスの箱を開けつつ「あっ」と目を見開いた。

(続く)

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