小説 1−16
こんなお土産はいらない (社会人、同棲)
「制服」「悪趣味」「恥ずかしい」がテーマのアベミハの話を作ってください。
#shindanmaker https://shindanmaker.com/263068 より。
同棲中の恋人が、出張のお土産にってセーラー服を買って来た。
普通、お土産っていったらその地方の名産品とか銘菓とか美味しいモノって相場が決まってるのに、セーラー服って。意味が分かんない。一体どこに出張したんだって感じだ。
「これ、食べられない、よっ」
思わず抗議したら、お土産を食べ物って思い込んでる方がおかしいって言われた。
「達磨とか織物とか漆器なんかもあるだろ? タオルとかサルボボとかこけしとかさぁ。まあ、お前には電動こけしの方がよかったかも知れねーけど、食えねぇお土産だって普通にあるんだよ」
って。
確かにそう言われてみれば、地元の工芸品とか特産品って各地に色々あるかも知れない。うちのお母さんも、地方の学会に行くたびに食器とか買って来てた覚えがある。
電動なんちゃらは余計だし、いらないけど、あながち阿部君の主張も間違いじゃないかもと思った。食べ物って思い込んで、勝手に期待してたのは食い意地張り過ぎだった、かも。
けど、それとこれとは別、だ。
「だ、だ、だからって、これは普通、買って来ない、でしょー」
手渡された箱を、ずいっと阿部君に押し返す。
上部が透明なフィルムになってる箱は、開けなくてもそれがセーラー服だって一目で分かる。女子の普通の制服のじゃなくて、コスプレ用のだっていうのも分かった。
けど、阿部君はオレのブーイングなんて何も気にしてないみたい。
「普通じゃねーからいーんだろ」
ニヤッと笑いながら箱を開け、中身を取り出してバサッと広げてる。
「せっかくだし、着てみてよ」
って、いい笑顔で言われても、ちっとも嬉しくなかった。
「は、は、ハロウィン、は、終わった、よっ」
「ハロウィンじゃなくてもいーじゃん。制服に季節とか関係ねーって」
「悪趣味っ」
赤面しながら罵ると、更にいい笑顔で「おお」ってうなずかれた。「わかってる」って。自覚あるってそんな自信満々に言われると、それ以上言い返す言葉が見つからない。
さあさあと迫られ、じりじりと後退る。両手で捧げ持たれたセーラー服のスカート丈は、パッと見るだけでも短いのがよく分かる。
「セーラー服、好きだろ?」
「お、お、オレはナースさんの方、が」
ぶんぶん首を振りながら遠慮したけど、ちょっと通用しそうにはなかった。
「これ着てくれたら、今度はナース服買って来てやるから」
そう言われても、余計にイヤだとしか思えない。ナースさんは好きだけど、ナース服を自分で着たい訳じゃない。
やだやだとぐずりながら逃げてると、ガバッと抱き着かれて無理矢理服を脱がされる。
「ぎゃあんっ、ヘン、タイッ!」
「今更知ったのか」
半泣きで罵っても阿部君はますますいい笑みを浮かべるだけで、ちっとも手を緩めてはくれなかった。「いいから、いいから」って。「はいはい」って。ぐずるオレを適当にいなし、強引にセーラー服を着せつける。
セーラー服を着た経験なんかないから、どうなのか分かんないけど、着るのはすごく簡単だった。
裸の上からセーラーの上着をばさっと被せ、ズボンの代わりにスカートをはくだけだ。簡単なのは、コスプレ用だからなの、かな? リボンもフェイクで縫い付けてあって、自分で蝶結びにはしなくてよさそう。
完全な女物って訳でもないみたいで、ウェストも余裕だし肩幅もキツくなかった。
ただ、スース―して落ち着かない。
セーラー服を着せられた後は、フラフラになってるところを立たされ、オレの周りをぐるぐる回りながらの写真撮影だ。
「おおー、すげー可愛い。さすがオレ!」
自画自賛しながらケータイを構え、何枚も何枚も写真を撮る阿部君がヒドイ。怖い。恨めしい。
上着の丈も短いみたいで、お腹もおへそも丸出しだ。
スカート丈はビックリするほど短くて、パンツも明らかに丸見えだった。阿部君もそれに気付いたらしくて、「あ、パンツのこと忘れてたな」なんてぼやいてる。
「トランクスはセーラーに合わねーだろ、脱げよ」
「やっ、だよっ」
赤面しながらスカートのスソを押さえると、「おおっ」って声と共にパシャパシャとカメラのフラッシュが光った。
別に、トランクスなんて見られてもどうってことないハズなのに。なんでこんな風に、スカートを覗かれると恥ずかしいんだろう。
お腹は丸見えだし、太もも丸見えだし、隠されてるのは胸とお尻だけだ。
「なあー、今度それで街デートしねぇ?」
「し、ないっ」
キッパリと断って、むきーって怒ると、また「可愛い」って写真を撮られた。意味が分かんない。もう疲れた。もう写真撮影ごっこもイヤだ。
はあー、とうなだれて床にバッタリ転がると、いそいそと阿部君が寄って来る。
そろそろとトランクスを脱がされる気配に、もうどうでもいいやー、ってなった。
お土産は、食べられる物にしてください。(三橋廉、心の川柳)
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