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小説 1−15
辺境の花と騎士・2
 そうして最大限の警戒をする中、いよいよ副団長がやって来た。
 哨戒や巡回の当番もあるから全員集合って訳にはいかねーけど、とにかく拠点である砦にいるヤツが全員中庭に集められ、副団長着任の挨拶を受ける。
「整列!」
 大声を出す団長の隣に立つのは、思ってたよりも若く見える青年だ。
 いや、若いっつったってオレと同い年なのは書類見て知ってたけど、色白で童顔で、「貴族様」っつーオーラがねぇ。
 団長が大柄でゴツイおっさんだから、その隣にいると尚更幼くひょろく見えんのかも知れねぇ。団長の大声にびくっと肩を跳ねさせてるし、オレらを前にしてあからさまに視線が泳いでる。
 こりゃダメだ、と正直思った。
 とても頼りにはなりそうにねぇ。けど、オレらの邪魔にも多分ならねぇ。
「副団長、挨拶をどうぞ」
 団長に背中をドシンとドツかれ、よろめきつつ前に出る副団長。
「れっ……れっ、レン=ミハシっ、でしゅっ」
 思いっ切り噛んでの自己紹介に、思わずみんながぶはっと笑う。笑われた本人は、カーッと真っ赤になって小さくなってて、小動物みてーだった。

「よろっ、しくっ」
 声を張り上げてそんだけ言って、すすっと下がろうとする副団長。それをガシッと肩を掴んで、下がらすまいとする団長。
「いやいや、自己紹介しないと」
「しっ、しました」
「いやいやもっと、ほら、あるでしょ。好きな食べ物とか、趣味とか、好きな女のタイプとか」
 副団長に対する団長のムチャ振りが、ごにょごにょ聞こえて来てちょっとおかしい。
「すっ、好き……」
 思いっ切り口ごもり、ぶんぶん顔を振る副団長の様子もおかしい。
 2人のやり取りを見てる感じからして、以前からの顔見知りなのかも知れねぇ。
 だったら、そんな警戒する必要もなかったんだろうか。

 公爵家に連なる上級貴族、本人が爵位持ち、王太子の元側近……そんな肩書があるにしては、今んとこ鼻にかける様子もねぇ。
 部下にゲラゲラ笑われてカッと怒り出すような、無駄に高いプライドもなさそうだし、その点はホッとする。
 何をやらかして左遷されることになったのか、その点は気になるとこではあるけど、少なくとも功績を上げたとか剣術大会で上位だとかの評価は、過剰っぽいなと思った。

「いやいや、案外ああ見えて、実は影の監査人だったりするかも知んねーぞ」
「もしかして全部演技だったりとかな」
 なんて冗談半分に言うヤツもいたけど、あの頼りなさがもしホントに演技だとしたらスゲーだろう。
「いっぺん酒飲ませて見るか」
 人間、酔った時に1番本性を出しやすい。
 あの前副団長だって、いつもエラそうだったけど酔った時は更にエラそうで、自分はこんな辺境で終わる人間じゃねーだとか何だとか、イキりまくってたモンだった。
 あの小動物みてーな副団長は、どんな感じに酔うんだろう?
 ニヤッと笑ってると、みんなに「ほどほどにな」とか言われたけど、「やめとけ」なんて制止するヤツはいやしねぇ。
 オレがやらなくても、多分誰かがやるだろう。案外、団長あたりが率先して飲ませそうではあるけど、男所帯っつーのはどこでも多分そんなモンだ。
 王宮勤めの近衛騎士団がどうだったかは知んねーけど、ここは辺境だし。
 手っ取り早くここの雰囲気に慣れて貰うためにも、多少手荒な歓迎会は、必須だろうと思われた。

 けどまあ、それも夜になってからのお楽しみだ。まずはその前に、補佐としての業務を遂行する必要がある。
「アベ」
 団長に呼ばれ、「はっ」と返事して駆け寄り、敬礼を返す。
「コイツが今日から副団長の補佐に就く、タカヤ=アベです。以後、何かあったら、コイツに訊いてください」
 バシンとオレの肩を叩き、簡単に紹介してくれる団長。
 信用してくれてんのは有難いけど、ホントに丸投げする気満々みてーで、「じゃあ」つって去って行く。
 まあ、団長は団長で書類仕事やら報告業務やら相当忙しいって聞くし、副団長のお守りはできねぇってことなんだろう。
 実際、お守りをしなかったせいで前回ああなった訳だけど、上のヤツの考えはよく分かんねぇ。なんにせよ、何とかやってかなきゃならねーのは確かなようだ。
「よ、よろ、しく」
 ごにょっと言われて、「はっ」と敬礼を返す。オレのその動きにもちょっと怯んでるような有様で、大丈夫なのかとマジで思った。

 2人きりで話す感じでは、最初の印象通りの小動物ぶりだった。
「ここが食堂、ここが談話室……」
 淡々と説明しながら砦の中を案内し、最後に副団長の部屋に到着する。
 オレら一般の騎士とは違い、団長・副団長の部屋はそれなりにデカい個室だ。寝室と居間と執務室があって、専用の風呂場もある。
 多分、貴族が就任すんのが前提の造りなんだろう。
 貴族様にとっては多分くそ狭い部屋なんだろうけど、オレらにとっては十分広い。
「副団長、お荷物は?」
 まだまだガランとしてる部屋を見回して訊くと、「後から、馬車、で」ってごにょごにょ言われた。
 どうやら王都から大荷物が、別便で荷馬車で来るらしい。どんだけ大荷物なのかと思ったけど、上級貴族ともなれば、そういうモンかも知れねぇ。
「じーちゃん、に、屋敷を買ってやるって言われたんだ、けど、それは断って」
 ごにょごにょと言いながら、もじもじ恥じらう副団長。小動物みてーで可愛いと言えなくもねーけど、告げられる内容はちっとも可愛くなくて呆れた。
 辺境に赴任するから屋敷を買おうって、なんでそうなんのか意味が分かんねー。じーさんってのは公爵か?
 上級貴族ってのはそういうモンなんだろうか? それともコイツが過保護に甘やかされてるだけなのか? どっちにしろ住む世界が違うなって、ため息しか出なかった。

 執務室の机の上に、処理待ちの書類をドンドンと積み上げてやると、副団長はさっそくそれにビビってた。
「前任者がクソだったんで、仕事溜まってんスよ」
 正直に実情を言うと、「く、くそ……」ってぼやいてたけど、サボろうとかって気はねぇらしい。書類1枚1枚を丁寧に眺めて、「え、っと……」ってためらいながらサインを入れる。
「認可のヤツはこっち、不認可のヤツはこっちで」
 処理の仕方を教えてやると、従順にそれをこなしてくれるし。テキパキっつーよりモタモタって感じではあったけど、今んとこオレの指示を聞く耳はあるようで、取り敢えずのとこはホッとした。

(続く)

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