小説 1−15
辺境の花と騎士・1 (ファンタジー・騎士アベミハ)
この間汚職がバレて更迭された、うちの騎士団の副団長は、貴族だってことを鼻にかけたスゲーいけ好かねぇヤツだった。
団長の前じゃ真面目なフリしてたけど、オレらに対しては態度でけーし、偉そうに怒鳴り散らしてばっかで仕事しねぇ。いねー方がマシだってくらいのクソだった。
我ガオオフリー王国において、騎士団の仕事は数多い。
周辺の巡回警備、見張り台に登っての哨戒、野獣や盗賊、蛮族の盗伐、周辺地域の治安維持。特にここ、辺境を守る第7騎士団では荒事や雑事、汚れ仕事も結構ある。おキレイな貴族様には、務まらねぇ場所かも知れなかった。
まあ、例の副団長が「おキレイ」かどうかってのは、また別の話だ。
貴族っつーんなら団長だって一応は貴族だっつーし、貴族にも色々いるってのは分かってる。貴族にも階級があって、そこにはどうしようもねぇ身分差があったりもするらしい。
王族の側近になるには上級貴族じゃねーとダメだとか、そういう上の方のヤツらから見ると、下位貴族もオレら騎士も、庶民とそう変わんねぇ存在だとか。
騎士にも一応騎士爵っつーのが貰えて、準貴族みてーな扱いにはして貰えてるハズだけど、確かに扱いとしては庶民と大して変わんねぇ。
多少給料がいいことと、命を懸ける義務があるのと、違いっつったらそんくらいだった。
同じ騎士でも、王都を守る第1騎士団なんかは花形だ。街を巡回するだけで着飾った若い娘たちからきゃあきゃあ言われて、女に不自由することもねぇんだとか。
まあ、女にモテてぇとか思ってはねーけど、毎日毎日粗野な男ばっかの騎士団にいりゃ、たまには花を見たくもなる。
辺境の町や村にいんのは、たくましいオバサンか年寄りか、それ以外だと商売女ばっかになるから、モテモテになっても嬉しくねぇ。
都会はいいよな、と、思う気持ちもまああった。
王宮に詰めてる近衛騎士団なんかは別枠だとしても、貴族出身の騎士っつーのは通常、王都勤務を希望するモンなんだろう。そう考えりゃ、うちに配属されるっつーのは、左遷だと思われても仕方ねぇ。
商人との癒着とか贈賄とか汚職なんかは論外だし、更迭されても当然だとは思うけど、あの副団長がグレちまうのも無理はねぇような気もした。
その副団長の汚職を暴き、更迭に追いやったのは、ヤツに散々虐げられてた直近の部下たちだ。
実はオレも、それに一役買ってる。
ヤツがここに配属されて以降の書類を片っ端から洗い直し、金銭の妙な流れを掴んだのもオレだし、癒着の痕跡を見つけたのもオレだ。
あの副団長の尻拭いをさせられまくった騎士団生活だったけど、そのお陰でオレ自身、切れ者とか辣腕とか呼ばれ始めてたのは悪くねぇ。
「アベ、頼むぞ」
「頼りにしてるぞ」
と、騎士団のみんなから認められるのも嬉しかった。
けど、面倒ごとを押し付けられんのは、勘弁して欲しい。
「新しい副団長の補佐を頼む」
騎士団長に呼び出され、直々に依頼されて、「はあ……」と気のねぇ返事をする。
清く正しい騎士として、上官の命令には敬礼付きで「はっ!」って受け答えすんのが筋だけど、なんでかそんな気分にならねぇ。面倒ごとの予感しかしなかった。
その予感は、副団長についての書類を見て更に強くなった。
レン=ミハシ=ラーゼ子爵。子爵子息じゃなくて、本人が子爵。爵位持ちの貴族ときた。年齢はオレと同じ20歳で、以前は王太子の側近もしてたとか。
なんでそんな若さで子爵かっつーと、実家は公爵なんだとか。その実家、ミハシ公爵家には複数の領地があり、複数の爵位があって、ラーゼ子爵もその1つ。
貴族様の事情何かはよく分かんねーけど、別に不思議なことでも不正なことでも何でもねーんだそうだから、オレとしては「へー」って感想しかなかった。不正がねーんならどうでもいい。
問題は、どんなヤツかってことと、使えるかどうかってことだけだ。
前副団長は、どっかの子爵の縁戚だってだけで、本人も親も爵位持ちじゃなかった。団長は実家が伯爵らしいけど、爵位は兄が継いでるそうだから、身分としてはビミョーでもある。
つまりこの騎士団で、その新任の副団長の身分が最も高い。
王太子の側近から、辺境の第7騎士団への異動……それはどう考えても左遷にしか見えなくて、一体何やらかしたんだろうって、戦慄した。
副団長が着任する前の晩は、武者震いと気鬱とで一睡もできなかった。
近衛騎士団から、あらかじめ送られてきた書類の中には、新副団長の功績とか人となりとかが色々書かれてるものもあった。
職務に真面目で誠実だとか、実直だとか、訓練も欠かさないとか。剣の腕もなかなかで、王都の剣術大会でベスト4に入ったとか。
けど、そんなのどうでも捏造できるし、剣術大会だって審査が公正だとは限らねぇ。大貴族の御曹司が、権力と財力を使って名誉を手に入れるって話もよく聞くし、そんな大会成績なんかあてになるハズもねぇ。
王宮に侵入しようとした賊を、何度も取り押さえたとか。王太子の乗る馬車が襲撃された際、見事な活躍を収めたとか。そんな功績だって、部外者に真実か虚構かを見抜くことはできねーし。正直、信用できねーと思った。
そもそも、そんな有能な人材なら、なんでここみてーな辺境に異動なるんだっつの。
それについては、騎士団の中でも色々予想された。
「しばらく辺境で修行して、戻ってから昇進とかじゃねーの?」
そんな呑気な意見もあれば、「警戒しねーと」って意見もある。
「前のヤツがアレだったし、監査も兼ねてんじゃねーの?」
って。
勿論、単純な左遷だって意見もある。
左遷の原因が非常に気になるトコではあるけど、監査よりはマシだ。いや、書類は片っ端から改めてるし、もう不正なんか残ってねーに決まってるから、別に困ることはねぇけど、面白いとは思えねぇ。
適度に有能で、適度におおらかで、オレの邪魔をしねぇヤツ。どうかそんな人物であるようにって、願わずにはいられなかった。
(続く)
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