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小説 1−13
白鬼の里帰り・2
 王妃レンが遭遇した誘拐未遂に関連して、同様な事件があったかどうか、王は夕方にその報告を受けた。
 宰相を通して知らされたのは、今現在で分かる範囲のことだったが、それでも3名の被害者がいたと分かった。
 被害者は街角に立つ娼婦、力自慢だったらしい貧民街の主、どこかの用心棒らしき男、と性別も体格も様々で、身寄りのない者だというくらいしか共通点はないらしい。
 ただ全員がベタベタの網に囚われ、身動きできないようにされたまま、斬り殺されて王都の内外に遺棄されていたという。
 被害者に身寄りがなく、本名すら定かではないので、王のところまで報告が上がっていなかったようだ。
 確かに王自身も、たった3名の事件では警戒しようがない。
 ベタベタと粘着力のある網は独特なものだが、流通経路は全く判明していないという。国外から持ち込まれたかも知れない、と、王に推察できるのはそれだけだった。

「やっぱ、レンが狙われたと思うか?」
 王の問いかけに、宰相も真面目な顔でうなずいた。
「その可能性は否めませんな」
 力自慢の大男も、用心棒らしき剣を持つ男も、その罠によって囚われ、殺されていたというのが気にかかる。
 王妃はとっさに網を斬り払ったというが、それでも網自体は避けられなかったのだから、恐ろしい。
 更に不気味なのは、王妃を攫おうとしたのか、殺そうとしたのかが分からないことだ。
 王妃を狙った犯行ならば、3人の被害者はその練習だったと思われる。攫われたと思われる現場と、遺棄された現場が違うので、運搬の練習もしたのだろう。
 剣をもってしても、力をもってしても、身動きとれなくしてしまう網。それらを使われれば、王妃がいかに剣の達人であったとしても、安全は保障できなかった。

 最小の報告を聞き、王は唸って腕を組んだ。
 現在、王妃の姿はその隣にない。城の演習場で、兵士たちと一緒に訓練をする時間だからだ。
 王城内な上、ひとりではないので、心配することはないと思えるが、それでもそんな報告を聞いた後では、妃の顔を確認したくなって来る。
「城外に出るなっつっても、多分無理だろーな」
 王のぼやきに、宰相が苦笑する。
「陛下がご説得なされば、或いは」
「ホントにそう思ってんのか?」
 王がじろりと睨んでも、宰相は苦笑するだけで答えない。説得は無理だと、この老家臣も分かっているようだった。
 王による王妃への溺愛は、家臣の誰もが周知している。
 また王妃自身も家臣に慕われ、王の側に立つことを望まれている。だからこその心配であり、悩みなのだが、だからといって大人しく城の一室に治まるような彼ではない。
 王妃を過保護に守ることは、若き王には難しかった。

「1つご提案がございます。王妃陛下をしばらくの間、国外にお逃がしになるのはいかがでしょう?」
 宰相の提案を「バカ言うな」と一蹴しようとした王だったが、うやうやしく差し出された豪華な書簡を見て、ふと態度を改めた。
 宰相に差し出されたのは、今日届いたばかりだという招待状。
 王妃の出身国ミホシにて行われる、ルリ王女の結婚式に、王と王妃を招待したいという親書だった。

 ルリ王女は、レン王妃と同い年の従姉妹王女だ。ミホシ国王の一人娘で、戦死したリュウ王子の姉に当たる。
 戦前、ミホシの筆頭将軍だったレンとは仲がよく、ルリ王女の護衛役を務めることもあったという。
 王太子もなく、レンも戦利品として連れ去られた後のミホシにおいて、最も王位に近い存在だといわれている。
 王が気まぐれすら起こさなければ、戦利品としてこの国に嫁いでいたのは、このルリ王女の方だったかも知れない。
 また、本来ならレンこそ、次の王にと望まれていたのかも知れない。
 そう考えれば、アベ王とは不思議な繋がりのある王女だ。
 顔はろくに覚えてもいないし、興味も持てなかった相手だったが、レンの安全に懸念のある今、結婚を祝いに行くのも悪くない。
「レンに話してみよう」
 王は宰相から親書を受け取り、自分たちの居室に戻った。

 王が居室に入ると、兵との訓練を終えたらしい王妃も中にいた。
 ちょうど汗を流すために入浴するところだったようで、召使たちに囲まれていた。
「タカヤ」
 王の名を呼んで、王妃がにこりと笑みを浮かべた。その美しい細身の体から、汗に濡れた服が召使たちによって剥ぎ取られていく。
 少しずつあらわになる汗に濡れた裸身が、白くて眩しくなまめかしい。
「オレも入ろう」
 王はためらわず宣言し、手にした親書を侍従に渡して浴場に向かった。
 王と王妃の専用の浴場は、何十人もが一度に入れるだろう、広くて豪華な一室だ。
 風呂の世話をする召使が何人もいて、王や王妃の体を隅々まで洗い、静かに浴室の隅に控える。
 王が王妃をそこで求めても、召使たちは一切関与しない。また王も、それらの視線を気にかけることはなかった。

「レン、こっちに」
 広い湯船の中に浸かりながら、王はいつものように王妃を自分の側に呼んだ。
 ぱしゃり、と立つ水音。湯を掻き分けながら近付いて来る裸身に、たちまち劣情が沸き起こる。
「腹は空いてるか?」
 王妃をヒザに乗せながら訊くと、彼は王の首に腕を絡め、「どう、かな」と笑った。王が何を求めているか、見透かしたような微笑みだ。
 どちらからともなく唇を重ね、抱き合って舌を絡める。
 口接けを続けながら丸い尻を片手で撫でると、王妃は「ん……」と色っぽい声を上げ、なまめかしく背中を反らした。

(続く)

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