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小説 1−13
白鬼の里帰り・10 (R15)
 回廊のような場所でこれ程騒いでいれば当然のことだが、やがて騒ぎを聞きつけて、ルリ王女が現われた。
 取り押さえられたカノウを見て、王女は驚愕に息を呑んでいたが、すぐに冷静さを取り戻したらしい。従兄弟であるレンに説明を求めた。
 結局身内の事でもあるし、ミホシの王位継承に関わる事でもあったので、事件は王女の預かりとなり、タカヤたちは手を引いた。
 タカヤにとっても怒りはあったが、それは自らが狙われたことより、レンを傷付けたことに対しての気持ちが大きい。レンも怒ってはいたようだが、それよりも嘆いていたのがタカヤには分かった。
「私が女王に即位した折には何でもしますから、今は収めて頂けませんか」
 深々と頭を下げるルリ王女に、ほだされたという訳では決してない。
 ただ、ミホシの宝でもあったハズのレンから、「王位継承権を放棄する」と言わしめることこそが、ミホシには罰になるだろう。
「オレは、もうミホシの人間じゃ、ない」
 改めてレンに言われ、ミホシの者たち、特に軍関係者が悲壮な顔をしたのが印象的だった。

「オレとしては別に、もっかい戦をしてもいーんだぜ?」
 最強の将軍であり最愛の妃でもある「白鬼」の肩を抱きながら、アベ王はニヤリと笑ってルリ王女に言い放った。
 「ミホシに白鬼あり」と謳われたレンが、今はタカヤの隣にある。白鬼将軍を失ったミホシが、白鬼王妃を戴くニシウラに勝てる要素など1つもない。
 それはもう覆しようのない事実であり、それをミホシに知らしめることで、タカヤの溜飲は十分に下がった。
 勿論、それなりの賠償は請求させて貰うつもりだが、そんな交渉事は後々ゆっくりでいいだろう。
 今のミホシに対して、欲しい物は特にない。
 レンがミホシの継承権を本当に放棄するかどうかも、タカヤにはもう、どうでもよかった。
 後始末をルリ王女に任せ、主賓室に戻っても、レンの顔はこわばったままだったが――改めて抱き寄せ、愛を囁いてキスを繰り返す内に、肩の力が抜けて行った。

「格好良かったぜ、レン。助けてくれてあんがとな」
 感謝を口に出し、頬に額に口接けて頭を撫で、背中を撫でる。
「惚れ直した。いや、毎晩惚れ直し続けてっけど、改めて惚れ直した。愛してる」
 耳元で囁くタカヤに、レンがふひ、と小さく苦笑する。
「ぶ、無事で、よかっ、た」
「ああ、お前も」
「た、タカヤがどう、にか、なってたら、み、ミホシを滅ぼしても、いい、って思っ、た」
 感情を交え、いつもよりとつとつと打ち明けるレンの言葉を、タカヤは抱き締めながら「そうか」と受けた。
 怒りに満ちたこわばった顔をしていたとは思っていたが、そこまで思い詰めていたとは思わなかった。
 祖国を滅ぼしてもいいなどと、レンらしくもないとは思うが、それもタカヤへの愛ゆえだとすれば悪くない。

 タカヤが死ねば、次のニシウラ王は暫定的にレンになる。
 彼が「白鬼王」としてカノウの希望を打ち砕く様を想像すると、何とも皮肉なことだとは思うが、そんな王よりは自分の傍らで微笑む王妃であって欲しい。
 あの場ですぐタカヤを弑しなかったことが、カノウにとって最大の失態であり、また僥倖でもあった。
 結果的に今現在、自分は元の主賓室におり、その腕の中に愛する妃を抱いている。
「オレの居場所、は、ここ、しか、ない」
 キッパリと言い放ち、タカヤの首に抱き着く妃を「そーだな」と肯定して抱き締める。
 深く口接けし、互いの背中を撫で合い、互いの体を抱き合う。
 先程の荒事でタカヤの心は昂ぶっており、またそれはレンも同じらしい。戦いの興奮を手っ取り早く鎮めるのに、性行為が最適なのは常識だ。
 その相手に最適なのが、愛する伴侶であるのも、またタカヤにとっては当然のことだった。
 長く深い口接けの後、妃の体を抱き上げて寝室のベッドに運び入れる。
 日はまだ高く、寝室は明るかったが、アベ王にとってそんな些事は障害ですらなく……王妃もまた、それに抵抗しようとはしなかった。

 主賓室に帰り、汗を流した後だから、王も王妃も楽な部屋着しか身にまとってはいなかった。妃のそれをあっさりと剥ぎ取り、王も素早く自らの服を脱ぎ捨てる。
 互いに生まれたままの姿になり、妃をベッドに押し倒すと、レンは少し泣きそうな顔をして、タカヤにギュッとしがみ付いた。
「は、激しく、して」
 小声でそんな風にねだられて、タカヤの理性がふらりと揺らぐ。
 はっ、と短く息を吐き、目の前の裸の胸に手のひらを這わせる。いつもより愛撫する手が性急になるのは、仕方のないことだ。
「な、何も考え、られなく、して」
「レン……」
 縋るようにねだる妃に、想いを込めたキスを贈る。
 いつもは「激しい」「もっと配慮して」などと憎まれ口を叩くくせに。その逆をねだって来るのは、珍しいどころの話ではない。
 それだけダメージが大きかったのだろうと思われるが、レンがぐるぐると考え過ぎる時、それを止めてやるのもまた、タカヤの役割の1つだ。

「お前は何も考えなくていーよ」
 妃の首筋や胸元に所有印を散らしながら、タカヤは優しい声で囁いた。
 考えるなと言っても、きっとあれこれ考えてしまうのだろうが、今だけはそれを忘れさせてやってもいい。
 レンを甘やかせてやれるのは、自分だけの特権だ。
 日頃から鍛え上げられた、細く白い武人の体を、手のひらと唇と舌で丹念に愛撫して拓かせる。
 脇腹に舌を這わせ、引き締まった太ももを撫でると、レンは「ああ……」と甘えた声を上げ、両脚をタカヤのためだけに開いた。
「好きっ。タカヤ、だけが、好き、だ」
 とつとつとした愛の言葉に、タカヤの心が満たされる。
 優越感に頬が緩み、昂ぶっていた股間がますます興奮にそそり勃つ。

 その言葉を、カノウに聞かせてやりたいと思った。
 レンを王位に就けたいから、という思いだけが、あの凶行の理由のハズがない。その裏に隠された彼の想いを、同じ相手を愛するタカヤだからこそ、敏感に感じ取っていた。

(続く)

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