小説 1−11
カラス天狗とオレの卵・3 (R18)
少年の胎内は熱かった。
わずかな抵抗があっただけで、あっけなくオレを受け入れて深いとこまで包み込む。
ゆるゆる動かすときゅうきゅうオレを締め付けて、奥へ奥へと引き込もうとしてるみてーだ。
「あん、ああっ」
少年の喘ぎ声も、ひたすら甘ぇ。
「あべくんっ」
名前を呼ばれ、潤んだ目で見つめられると、ぶるっと背筋から震えてくる。
もっと、ってねだられてるような気分。
期待に応えねーとって気にさせられて、抜き差しがどんどん速くなる。
ぐちゅぐちゅ鳴る、淫らな水音。
熱く潤んだ後腔は、蜜壺って呼ぶのにふさわしい。甘くてトロトロで、突いて突いてかき混ぜて、それでももっと欲しくなる。
白い腕にしがみつかれ、黒い翼に囲われて、まるで現実じゃねぇようだ。少年を強く揺さぶるたび、掠れた喘ぎ声が頭に響いて、意識が白く濁ってく。
とんでもねぇ快感。
自分の下で身悶えしてる、白い体に酔わされる。
キレイな肌、なまめかしい細い腰、オレを見つめて潤む瞳……どれも凶悪なくらい妖艶で、引き込まれて溺れる。
体重かけて組み敷いて、犯してんのはオレだけど、侵食してんのはどっちだろう?
「はっ……ヤベェ」
自分で自分の声が、ひどく上ずってんのが分かった。
どうしようもねぇ快感に熟れて、もう逃げられそうにねぇ。
ここは神域のハズなのに――なんでこんな、淫らなカラス天狗と抱き合ってんだ?
疑問を消せねぇまま腰を揺すり上げ、少年の身体を深く貪る。
湧き上がる既視感。
食われそうだって感じる、本能的な恐怖。
「ああ、んん、んあっ、ああーっ……」
ひっきりなしに上がる啼き声に、聴覚が支配されていく。もう、コイツの声しか聞こえなくなるんじゃねーかって、魅了されてたまんねぇ。
――ああ、前も、たまんねぇって思ったっけ。
怖いとかヤベェとか、そんな感情にも覚えがあって、やっぱ初めてじゃねーよなとしみじみ感じた。
「あ、あんっ、あべくんっ」
嬌声混じりで名前を呼ばれ、荒い息のまま「ああ」と応える。
首に腕を絡められ、求められるままキスをしたら、ぬるっと甘い舌に侵入された。
「んっ、んっ、ん、んう……」
オレの動きに合わせ、甘く漏れる啼き声も揺れる。
夜陰に浮かぶ白い肌、闇より黒い大きな翼。2人分の汗が流れ、互いの呼吸が乱される。
搾り取られるみてーに射精すると、同時に少年が高く啼いた。
「あ、あああーっ!」
しなやかな背中がのけぞり、黒い翼がバサッと広がる。
羽の先までピンと伸ばして絶頂に震える、そんな彼の様子に背筋が痺れた。
「……好きだ」
そうとしか言えなくて、白い体を翼ごと抱き締めると、少年もオレを抱き返してくれた。
繋がったまま抱き合い、荒い息の中でキスを交わす。
ついばむように軽いキスを繰り返し、汗ばんだ柔らかな髪を撫でると、彼も白い指をオレの髪に差し入れた。
「オレも、好き、だ」
肩を緩く上下させ、とろんとした声で少年が囁く。
「だから、いい卵、産む、ね」
そんな言葉と共に、もっかいちゅっとキスされて、今更ながらにギョッとした。
「卵……」
頭ん中に、デカい金の卵が思い浮かぶ。
にへっと笑う、色っぽい顔。きゃあ、と恥らう朝に見た顔。
白い肌。黒い翼。金の卵。朱い唇。ごくりと生唾を呑んだオレを、少年が布団に押し倒す。
黒い翼をバサッと広げて、汗ばんだ手がオレの体をまさぐった。
胸から肩、肩から腕を撫で下ろし、再び胸板を押し撫でる。なんでか抵抗する気になれず、されるがままになってると、くふ、と小さい笑い声が聞こえた。
胸を撫でてた手で、鳩尾を撫でられて、ドキッと心臓が跳ね上がる。
そこは、金の粒子がしゅうっと吸い込まれた場所、で。
「レン!?」
唐突に少年の名前が脳裏に浮かび、それを口にした瞬間、ぶわっと風にあおられた。
目を覚ますと、朝だった。
ジリジリジリジリ、と古式ゆかしい目覚まし時計の音で、いつもと同じ朝が始まる。
ガバッと身を起こすと、寝乱れた浴衣をまとったままだ。
射精した形跡もねーし、網戸もちゃんと閉まってるし、侵入防止の鉄格子だって、やっぱちゃんとハマってる。
「……夢?」
ドキドキしながら部屋ん中を見回したけど、少年の姿はどこにもねぇ。
ただ、布団の上に真っ黒なデカい羽根が2本3本散らばってて、すげー落ち着かねぇ気分になった。
神官白衣に着替える前に、軽くシャワーを浴びに行く。
夏の終わりに近付き、早朝は涼しくなったけど、まだシャワーは水だけで十分だ。冷水を浴びて身を清めながら、淫靡な夢の残滓を汗と共に洗い落とす。
ふと気になって、鳩尾に手をやったけど、別になんともなってねぇ。
やっぱ、あれは夢だったか?
でも――。
白い肌、黒い翼。本能的な恐怖を上回る、愛おしさと快感の記憶に、びりっと背筋が甘く痺れる。
名前、何だっけ?
セックスの終わりに思い出したハズの名前が、どうしても思い出せなくて焦った。
早く思い出さねーと、アイツが来る。
今度来たとき、また忘れたって知ったら、きっとヤツはまた拗ねる。拗ねたアイツは、むうっと唇をとがらせて……。
『体に訊く、ね』
記憶の中の黒い翼が、音もなく大きく広がり、オレに頭から覆い被さる。
組み敷いて征服したのはオレなのに、なんで、侵食されたように感じるんだろう?
上下白の神官白衣を着込んでも、朝の清らかな境内の空気を吸っても、カラス天狗を抱いた夜のニオイが消え去らねぇ。
無心に竹ぼうきを握り締め、境内を掃き清めても、落ち着かねぇ気分は増すばっかで。
バサッ。
やがて聞こえた鳥の羽音に、オレはハッとして空を見上げた。
(続く)
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